図1 新相続税導入で4人家族の控除額は8000万円から4800万円に縮小

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相続税を払うのは一部の金持ちだけ――そんなかつての常識が崩れつつある。2015年に相続税改正が実施されるのだ。

図1をご覧いただきたい。相続税額は遺産の総額から基礎控除額を引いた課税遺産額に税率を乗じて計算するが、その基礎控除額の大幅引き下げが予定されている。

「これから相続税の課税対象者が増加することは間違いないですね」と、東京弁護士法律事務所の代表弁護士で税理士でもある長谷川裕雅氏は明かす。

身内の死に加え、多額の納税負担というダブルパンチに見舞われないためには、「長期スパンで、かつ複数の対策を講じておくことが何より大事」とアドバイスする。亡くなる直前では適用できない節税法も少なくないからだ。

図2に、節税の基本となる考え方を挙げた。これら3つのメソッド、「相続財産を減らす」「相続財産の評価を下げる」「控除や非課税限度額を増やす」を押さえ、いかに効果的に節税対策を講じていくか。早速解説していこう。

まず「相続財産を減らす」方法として一般的なのが「生前贈与」だ。生前にできるだけ多くの財産を贈与しておけば、相続時の財産は大幅に減額できる。ここでポイントとなるのは、1人あたり年110万円の基礎控除額を守ること。家族1人に贈与する額が年110万円を超えないようにすれば、贈与税を一切払わずにすむ。

ただし注意点がある。1つは、相続開始前3年以内の贈与は相続税の課税対象とされること。亡くなる直前の相続税逃れと見なされるためで、「相続税対策は早めの着手が肝心」と長谷川氏が強調するゆえんだ。もう1つは、長年、誕生日など決まった日に定額を贈与し続けると、「計画的な“連年贈与”とみなされ、一括して贈与税が課せられるリスクがある」という。

対策としては、年によって贈与の時期や額を変えるか、「例えば毎年111万円を贈与し、基礎控除額を超えた1万円分に対してのみ贈与税を支払うなど、贈与の証拠を残すのも一策」(長谷川氏)。

次の「相続財産の評価を下げる」方法の代表選手が、10年に新法案が施行された「小規模宅地等の特例」(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)の活用だ。

これは、被相続人が居住用や事業用に使っていた宅地の相続に関して、評価額の一定割合を減額することができる特例で、居住用宅地の場合、上限240平方メートルまでの相続税評価額を最大80%減額できる。

特に配偶者が相続する際には無条件でこの特例が適用できる。子どもが相続する場合は、10年の改正で、相続税の申告期限(死亡後10カ月)までその自宅に継続して住み続けるなど、適用条件が厳格化されているので注意したい。

また、不動産の評価額を下げるには、自宅内の一部区域をアパートにして貸す方法もある。「貸家建付地の評価減」といって、賃貸部分は評価が下がるためだ。こうした不動産対策は一朝一夕にはできないため、早めの検討が肝要だ。

最後の「控除や非課税限度額を増やす」には、配偶者控除や生命保険金の非課税限度額を活用しよう。配偶者には図2で示したように大幅に税額を軽減する特例があり、「配偶者控除を最大限に活用するのが節税のポイント」(長谷川氏)ともいえる。

贈与税についても、配偶者に住宅または住宅取得の資金を贈与した場合、2000万円まで非課税(一生に1度のみ)になる。相続財産を減らす手としても効果的だ。

■資産2億円でも相続税0円に!

では、ここまで紹介した対策について、総資産2億円(うち240平方メートルの不動産1億円)の4人家族のケースを想定し、節税効果を試算してみよう(父親が60歳から準備を始め、83歳で永眠と仮定)。

まず、60歳の時点で、年間110万円の生前贈与を家族3人に開始し、1500万円の終身生命保険(月額5万円)に、子ども2人を受取人として2つ加入する。そうすると、80歳の時点で贈与と保険料支払いの合計で現金資産の1億円のうち9000万円が軽減される。

相続財産は不動産1億円と現金1000万円となるが、不動産を母が相続すると、小規模宅地特例で80%減額されるため、評価額は2000万円。現金は子ども2人で500万円ずつ分け、生命保険金1500万円を受け取る。すると遺産総額は6000万円。基礎控除額(8000万円)内で収まるため相続税はなんと0円ですむ。

何も手を打ってなければ基礎控除額を差し引いた1億2000万円に課税されると考えると、長期スパンでコツコツ準備をすることが、予想以上の節税パワーを生むことがわかる。

加えて、もう1つ大事なポイントがある。それは「被相続人が遺言や財産目録をきちんと残しておくこと」と長谷川氏は言う。なぜか?

相続税の申告&納付期限は、相続開始(=被相続人の死亡日)から10カ月以内と意外に短い。遺産分割でもめたり、遺産の整理で手間取ったりすると、あっという間に期限が到来。それ以降は、遺産分割の決着がついていなくとも、お構いなしに無申告加算税や延滞税などがかかってくる。

よって、「遺言なんて縁起でもない」などと言わず、万一の事態を見据えて早めにしたためておくべし。余計なコストと時間のロスを防ぎ、残された家族の幸せにもつながることは言うまでもない。

■「永代供養墓」という選択をする人々

では、死後の準備の仕上げとして、墓にかかる費用について見ていこう。先祖代々入る墓が決まっている人はいいが、そうでなければ事前の調査を怠らずにしておきたい。というのも、墓の事情に詳しい第一生命経済研究所主任研究員の小谷みどりさんによると、「一口に墓といっても多種多様。選び方で価格が大きく変わる」からだ。

まず、墓のタイプにはどんなものがあるかというと、子孫継承を前提とする「永代使用墓」、子孫の代わりに墓地経営者が供養や管理をする「永代供養墓」、骨を共同で祀る「合葬墓」などがある。墓がいらないなら、遺骨や遺灰を自宅に安置したり(手元供養)、海などに散骨したりする手もある。

墓の形態は墓石を立てる「墓タイプ」のほかに、ロッカー式で骨壷を収蔵する「納骨堂タイプ」に大別される。加えて、墓地の運営も公営、民営、寺院などに分かれ、場所や石の選び方、デザインによっても費用が変わってくる。

細かなオプションの組み合わせ次第というわけだが、オーソドックスに永代使用で墓を立てた場合の費用を見てみると、墓石工事費を含めた初期費用総額は、200万〜300万円程度(図3)。永代供養墓、納骨堂タイプを選べば、場所にもよるが、永代使用権を買ったり、墓石工事費がかかったりしない分、一般的には安くなる。永代供養の納骨堂タイプなら、数万円程度から購入も可能だ。

さらに、墓のタイプに加え、価格を左右する重要な要素がある。立地だ。

例えば、都心部の納骨堂では、郊外に墓を立てるより高くつく場合もある。公営霊園であっても、都心の1等地だと何と1区画1000万円近くする場合も!

「民営よりも公営霊園のほうが安いだろうと思いがちだが必ずしもそうとは限らない」と小谷さんも釘を刺す。ただし、郊外の場合、1区画が広いため、立てる墓石も相応の価格になりやすい点も見逃せない。

無論、コスト最優先で自宅から遠い霊園を選んだりすると、後々、アクセスの面で後悔しかねない。自分が墓に何を求めるのかを考え、複合的な視点で選ぶことが大事だ。

(大沢玲子=文)