23日、中国が尖閣諸島を含む東シナ海上空の防空識別圏設定を発表。中央テレビ局(CCTV)は、まるで宣戦布告のような勢いでその経緯度を読み上げたが、それは日本の防空識別圏と重なっている。中国の防空識別圏設定の背景と経緯を解読する。資料写真。

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2013年11月23日、中国が尖閣諸島(中国名、釣魚島)を含む東シナ海上空の防空識別圏設定を発表した。

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中央テレビ局(CCTV)は、まるで宣戦布告のような勢いでその経緯度を読み上げたが、それは日本の防空識別圏と重なっている。まさに尖閣諸島上空部分で重なっているのだ。日本政府が中国側の設定は無効であると宣言し、中国の一方的な設定の撤回を強く求めたのは、当然のことだ。

あの媚中外交にはまり込んでいる韓国や北京政府寄りの台湾(馬英九)さえ懸念を示し、米国は「(地域の安定に関して)挑発的である」として中国に警告。中国政府は関係国の抗議や批判に対して激しく対抗している。
本稿では、中国の防空識別圏設定が出てきた背景と経緯を解読する。

◆立体巡航――2012年12月13日に中国機が初めて領空侵犯

2012年9月14日(日本時間)、中国の国連代表だった李保東は、尖閣諸島を含む海図を、「中国の領土」として潘基文(パン・ギムン)事務総長に提出した。
続いて同年12月13日午前11時前後、中国の航空機が尖閣諸島の上空で領空を侵犯。

9月11日の野田内閣による尖閣諸島国有化閣議決定を受けて、尖閣諸島周辺で中国の漁業監視船や海洋監視船が航行を続け、接続水域を出入りする状態が常態化していたが、領空侵犯までしたのは、このときが初めてだ。

実は12月13日は「南京事件」の日で、南京市では午前10時に巨大なサイレンが鳴って南京市民が黙祷をする習わしがある。日本と中国の時差は1時間。日本時間の午前11時前後は、まさにこの10時に当たる。

このとき同時に中国の監視船が尖閣諸島周辺の領海をも侵犯している。中国の国家海洋局のウェブサイトにはその瞬間、釣魚島の「立体巡航に成功した」という大きな文字が躍った。「立体巡航」とは領海を面積としてその垂線上方に延びる線を結ぶ「立体」を全て中国が領有権を持つ空間として「巡航」するという意味である。
中央電視台(中央テレビ局、CCTV)も、まるで戦争に勝ったような勢いで「立体巡航」を報道。ネット空間も炎上した。

この時の新華網のニュース記事などで、今でも「立体巡航」に燃えた中国の熱気を窺い知ることができる。

◆防空識別圏――2013年1月10日が分岐点

2013年1月10日、尖閣諸島北方の東シナ海上空で、中国人民解放軍の軍用輸送機Y-8が、日本の防空識別圏に入ったのを受けて、日本の航空自衛隊F-15戦闘機2機が緊急発進(スクランブル)で対処した。同日、情報収集などに当たる日本の自衛隊機に対して、中国人民解放軍の戦闘機J-10(殲10)やJ7(殲7)が緊急発進をしたことがあった。
その翌日の2013年1月11日から、中国のネット空間に「防空識別圏」という言葉が頻出するようになる。
それらには日本の自衛隊法第84条第1項が規定する「領空侵犯に対する措置」に触れたあと、「防空識別圏と領空とは異なる」という趣旨のことが書かれている。
9月に入ると、「環球新軍事」などが本格的に「防空識別権」に関して書きたて始め、「もう既に日本の家の玄関にまで迫っているよ」とか「中共中央軍事委員会は、とっくの間に防空識別圏設定を許可しているよ」といった書き込みがネット空間に現れ始めた。

◆決めるのは中共中央軍事委員会

中国が防空識別圏を設定するという決定をしたと公表したのは、国務院(中国人民政府)の中央行政省庁の一つである国防部だ。しかしその決定をしたのは中共中央軍事委員会である。その主席は習近平。習近平は中共中央総書記と国家主席を兼ねると同時に、軍事委員会の主席も兼任している。政府は党の下にある。すべてが「党の指導」で行われていることを忘れてはいけない。

ではなぜ今なのか?

1年前から計画されていたとはいえ、今この時期であることには理由がある。

今年9月11日の尖閣諸島国有化の日と、9月18日「満州事変」の日に反日デモが鎮圧されたのは記憶に新しい。鎮圧した原因は、薄熙来裁判があり、また「毛沢東の肖像画」が並んで反日デモが反政府デモに転換していくのを恐れたからだ。

その代わりに「売国政府」と罵倒されないために、中共中央は9月、尖閣諸島への領空領海侵犯を強めた。
今般また日本の領空への侵犯を一段と強めたのは、10月24日に「周辺外交工作座談会」をチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7名)が開いて、「釣魚島問題は一歩も譲れないが、対日関係は改善すべきだ」と習近平が発言したからだ。さらに習近平は「日中の経済交流と民間交流を強化せよ」と付け加えた。
これではまた「売国政府」と罵倒されてしまう。
そのために対日強硬策に出た。
こんなことを繰り返さなければならないところに、中国は本当は追い込まれている。

尖閣諸島が日本の領土であることは疑う余地がない。
にもかかわらず中国は韜光養晦(とうこうようかい=力のない間は闇に隠れて力を養え)を捨てるにつれて、理不尽なことを強引にやり過ぎている。内部から沸き上がる多くの矛盾との狭間で、やがて中国自身が苦しむことになるだろう。

日本政府が日本の民間航空機に「中国に通報する必要はない。従来通りに動け」と指示を出したのは正しい。日本は今般の厳しい局面をチャンスとして活かし、良識ある国際世論形成に尽力することが望まれる。
(<遠藤誉が斬る>第11回)

遠藤誉(えんどう・ほまれ)
筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』など多数。