Fenway Park



World Series Review by Game
Game-1:STL1 – 8BOS
Game-2:STL4 – 2BOS
Game-3:BOS4 – 5STL
Game-4:BOS4 – 2STL
Game-5:BOS3 – 1STL
Game-6 :STL1 – 6BOS

ベン・チェリントンの慧眼は、ボストン・レッドソックスに必要なモノがOPSやWARたる数字の羅列では語れないことを見抜いていた。ジェーク・ピービーにも似た顔立ちのチェリントンは、打者を幻惑するスライダーも、シルエットにしてうっとりと見とれてしまう美しい投球フォームも持ち合わせていない。だが、彼には現状を分析し、正しいアクションを起こす上で必要な「眼」の持ち主であった。

チェリントンはチームがファミリーになることの重大さを知っている。2011年シーズン末に「ビール&フライドチキン・スキャンダル」でクラブハウス内に蔓延る甘えが露呈されると、その年のオフにチームの球団社長であるラリー・ルキーノはチェリントンの意向に真っ向から対立し、ボビー・バレンタインの強烈なカリスマ性でクラブハウスを制圧させるプランを打ち立てた。しかし、バレンタインの強い個性はクラブハウス内の分裂を進める化学反応を生み出し、チェリントンを含めたフロントのメンバーはルキーノの尻拭いに奔走する不本意な形で夏のシーズンを辿らざるを得なかった。

70勝にも至らなかったレッドソックスの惨めな2012年が終わりを告げたことで、ようやくチェリントンは慧眼に支えられた自らのアクションを起こすことが出来た。苦い味わいに包まれた1年を通じ、レッドソックスとチェリントンが欲したモノは「調和」だ。メジャーを代表するリーダー(ダスティン・ペドロイア)も、スラッガー(デビッド・オルティズ)も、左のエース(ジョン・レスター)も、そして恵まれた資金力もが控える布陣で90以上の敗北を積み重ねるなんて、異常なシチュエーションだ。足りないモノにチェリントンが気付くまで、大した時間は要さなかった。

チームに調和を与え、ファミリーとすることがゴールであると見たチェリントンの眼は正しかった。調和?フィールド内で起こる全ての事象が数字を介して語られる昨今に、このワードの古めかしさを嘲笑する者は必ず存在したはず -他でも無い、私がその1人であった- だが、結果を見た以上はチェリントンが打ち立てた哲学を受け入れなければならない。レギュラーシーズンで誰よりも多い97もの勝利を積み上げ、地区シリーズも、チャンピオンシップ・シリーズも勝ち上がり、そしてワールドシリーズでもやってのけたレッドソックスを、全ての人間は認める必要がある。

全てのチームにとって理想的な姿形を体現しているセントルイス・カージナルスを、レッドソックスは打ち破った。称賛する他無いフィナーレだ。シリーズを通じて2回もアダム・ウェインライトから勝利を掴み、6試合目にはマット・ケイン(ジャイアンツ)に代わり「ビッグ・ゲーマー」の異名を得る予定であったマイケル・ワカの牙城を崩した。

その中心に立っていたのがオルティズであることは明らかだ。チャンピオンシップ・シリーズでのグランドスラム以来、本当のコンディションの良し悪しを問わず、オルティズは常に神秘的な存在として扱われた。だが、デトロイト・タイガースとの6試合に渡るカードに限定すれば、ホアキン・ベノアのプライドとタイガースファンの晴れやかな気分を打ち砕いた1発を放った彼の姿はまさしく幻想であり、シリーズ内では22打数で2安打をマークするに止まっている。OPSにして.427の打者。平均のラインにも至らない。

しかし、ワールドシリーズのオルティズは明らかに「モンスター」であった。ステロイドのパワーを借りて本物のモンスターと化したバリー・ボンズと同じ土俵に立つことに、このワールドシリーズで彼は成功した。それはオルティズまでもがステロイドに手を出したことを意味するモノでは無い。2試合目からの全てのゲーム、計5試合で、オルティズはいずれも3回以上の出塁を記録し続けた。2002年にバリー・ボンズが打ち立てて以来、史上2人目となるレコード。

項目バリー・ボンズ(2002)デビッド・オルティズ(2013)
打率 .429 .688
出塁率 .700 .760
長打率 1.294 1.188
本塁打 4 2
打点 6 8
四球20 8
三振3 1


オルティズの存在は絶対的だ。チームOPS.621にして27もの得点を生み出せた理由は、オルティズのバッティングを示すだけで十分である。カージナルスで最も良いコンディションを示していたマット・ホリディも.905と内容は明らかに良かったが、オルティズとの顕著な差がオフェンス面に影響を与えたことは言うまでも無い。シリーズを語る上で、両者の明暗を分けるワードがあるならば、それは「デビッド・オルティズ」だ。レッドソックスにはオルティズがいて、カージナルスにはオルティズがいなかった。それだけである。彼がMVPだって?当然ではないか。

「ビール&フライドチキン・スキャンダル」の当事者である2人の「ジョン」のパフォーマンスも取り上げるべきモノだ。左のレスターは15.1イニングで喫した失点はたったの1であり、右のラッキーは先発とリリーフいずれの役回りでもチームに大きく貢献し、2009年オフに結んだ$82.5Mの契約を少なからず正当化することに成功した。ラッキーは2002年もエンゼルスでワールドチャンピオンを決めるゲームの先発を任されており、異なるチームで優勝を決めるゲームの先発を任された、史上初の投手となった。

カージナルスの分厚いマイナーが生み出したワカとジョー・ケリーたる傑作に苦しみながらも、レッドソックスは4勝2敗でシリーズを勝利した。「ここであんな気分を味わうのは初めてさ」チームのリーダーであるダスティン・ペドロイアが語る。「明らかに、とにかく勝ちたかった。ここでそれが出来たなんて信じられないよ」

オフシーズンから始まったチェリントンのアクションは絶妙に作用した。シェーン・ビクトリーノと3年$39M、ジョニー・ゴームズと2年$10Mで契約を結んだ時、市場の評価は冷ややかなモノであった。ピークを過ぎたベテランのOFと、左右でムラがあるプラトーン要員に$50M近くも払ったレッドソックスはスマートとは対極にある存在であり、加えてスティーブン・ドリューにも$9Mを費やしている。内容はチームを漸進的に向上させるモノだが、オフシーズンを経て与えられたレッドソックスの評価は平凡であった。ヤンキース以上、レイズ未満。ブルージェイズにも追い抜かれるかもしれないな…。

だが、ビクトリーノとゴームズ、ドリューを欠いて2013年の、地区最下位のポジションから這い上がったレッドソックスを語ることは出来ない。これこそがチェリントンが求めていたチームの姿だ。生来のファイターであるビクトリーノに、クラブハウスの空気を正しい方向に導くゴームズ。ドリューも2010年から1回も無かった100試合以上の出場を示し、表には出さないものの内面に秘める熱い闘志をチームメート全員が理解していた。

上原浩治と田澤純一たる2人の日本人が中心となり作り上げたブルペン。トレードでは4人のプロスペクトを代償にジェーク・ピービーを迎え入れた。チェリントンが行ったアクション全てが成功を生み出す要因となったことで、2013年オフは多くのチームが「調和」を新たなトレンドに市場での立ち居振る舞いを模索するかもしれない。勿論、全てのチームにおいて本質的な部分の充実は必要だ。平均以上のオフェンスとディフェンスを無くして、ワールドチャンピオンへの道は拓けない。だが、チェリントンは証明してしまった。1+1が3にも4にも成り得る可能性があることを、2013年のレッドソックスは示している。

さて、2013年シーズンは幕を閉じた。これからもずっと続くであろうメジャーリーグの歴史に、また新しく区切りが付けられる。シーズンを振り返った時、何が思い出されるだろうか。センセーション。凋落。喜び。驚き。失望。30チーム全てが異なる道の上を歩き、異なる結末を辿った。その多様性こそがメジャーリーグの本質であり、またしても、私を含め、1年間を通じ惜しみないエネルギーと情熱をそれに注いでしまった理由である。

シーズンが終わったから、一息入れたいだって?

それは構わないが、一息を入れるなら、ほんの少しの間に止めた方が良い。

異論は無いはずだ。来年もメジャーリーグを楽しむ上で、次なるイベント「ストーブリーグ」に乗り遅れてしまっては大損に決まっているのだから。

Text by Koichi MIYAZAKI
写真:http://www.flickr.com/photos/31691917@N06/3047535542/in/photolist-5Diq9f-6adon8-6eVgUu-6k5p75-6x3rMP-6AuAxK-adMrFL-cJtxLG-bXJikJ-bX2ZKC-bXJiuq-bX311o-bX319f-bX2ZwW-bX2Zqw-bX2ZQ3-bX3165-bX2ZE5-bWwhij-bYjKkj-bXJixU-9WuLYi-9dQnXG-dQYCaW-dQT3W8-abEhzQ-8awBqq-8awBAs-8awBhW-8atmiB-bXJiKW-db4AJJ-db4Asq-db4xa8-db4z8j-db4wZi-db4xjB-db4AiN-db4Acf-db4wRg-db4zpq-db4wcg-db4yyN-db4zgw-db4vpV-db4wkV-db4vgx-db4v9a-db4ymd-db4yGs-db4xCQ