石井貴1軍投手コーチの退団が決まった。これで今オフにライオンズを去るコーチは光山英和作戦兼バッテリーコーチ、安部理打撃コーチ、橋本武広2軍投手コーチを含め4人目となった。確かに監督が代わるのだからコーチ陣が刷新されても決して不思議ではない。特に光山・安部両コーチは渡辺久信監督が招聘したコーチということもあり、渡辺監督と共に退団するのが自然と言うこともできる。だが石井貴コーチに関しては事情が違う。西武球団は来季も石井コーチと契約を結ぶ予定だった。だが責任感の強い石井コーチは今季夏場の投手陣不振の責任を一身に背負い、鈴木葉留彦球団本部長に辞任を申し入れた。

では今季1軍でローテーションを一年間守り続けた投手がたった1人だけだった先発陣のコーチングを担当した杉本正コーチは、果たして辞任をするという選択肢はなかったのだろうか。恐らく本人の中にはなかったのだろう。本来であればサポート役である石井貴コーチが責任を取るのではなく、チーフ投手コーチだった杉本正コーチが職を辞して責任を取るべきだったのではないだろうか。どうもこのあたりの成り行きを見守っていても、ファンの眼にはちぐはぐに映ってしまう。杉本正コーチのコーチング能力はファンの間だけではなく、球界にいる(もしくはいた)有能なコーチたちに話を聞いても、首を捻るばかりだ。

本来の形からすれば杉本コーチが責任を負い、来季以降を石井貴コーチに託すというのが自然な形であるはずだ。そうやってコーチ陣も少しずつ世代交代をしていく。だが今オフのライオンズは若い石井貴コーチが責任を取り、チーフ投手コーチだった杉本コーチは来季もファームで続投ということになっている。これは上司部下の関係としてはあまりにも滑稽ではないだろうか。普通に考えれば責任を取るのは部下ではなく上司だ。石井貴コーチも、恐らく先に杉本コーチが辞任し後を託されていれば来季もライオンズに残留していたのかもしれない。だが今季の結果を見て、誰も投手陣の責任を取らないというのはあまりに締りが悪い。だからこそ石井貴コーチは自ら辞任を申し入れ、投手コーチとしてのケジメを付けるしかなかったのだ。

ライオンズの来季監督は現段階の報道では伊原春樹氏に一本化されたと言う。だがそれもまだ未発表のままで、西武球団もCSファイナルステージが終了するまでは沈黙を貫くと言っている。だがこのタイミングで石井コーチが責任を取ったことにより、最悪の場合、10月23日から始まる秋季練習までに組閣が整わないということも考えられる。つまり部門によっては指導者なしで練習をしなければならないという状況になるかもしれないのだ。西武球団としては、それだけは避けなければならない。

さて、石井貴コーチが辞任したことにより、ここで非常に大きな問題が浮き彫りになってきた。それはすでに西武球団にFA権の行使を伝えていると言われる涌井秀章投手の存在だ。石井貴投手が引退した際、引退壮行会で涌井投手は「どこまでも石井コーチに付いて行く」と語っている。筆者はその言葉をよく覚えていたし、その言葉を覚えていたからこそ、涌井投手は来季もライオンズに残ってくれるはずだと確信していた。だが涌井投手が信頼を寄せる、その石井貴コーチがライオンズを去ってしまった。これで現マリーンズの大迫コーチ、石井貴コーチと、涌井投手が信頼し慕っていたコーチがチームにいなくなってしまったことになる。

石井貴コーチの存在は、ライオンズにとっては想像以上に大きなものだったのだ。選手たちからの人望もあり、とにかく若い選手の手本ともなれる人格者だった。将来は指導者としても非常に期待されていたはずだ。だが杉本コーチが自ら責任を取らなかったことにより、責任感の強い石井コーチが責任を取る形になってしまった。果たして信頼できるコーチがいなくなってしまった今、涌井投手がライオンズに残る可能性はどれくらいになってしまうのだろうか。鈴木葉留彦球団本部長が就任して以来、西武球団はFA残留も認めるようになった。つまりFA宣言=退団という図式はもう西武球団にはない。そのため涌井投手がFA宣言後もライオンズに残る可能性は半々であると言えるわけだが、しかし石井コーチが辞任してしまったことにより、その割合は間違いなく揺れ始めているはずだ。