石原壮一郎/コラムニスト。1963年三重県松阪市生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の素晴らしさと奥深さを世に知らしめた。以来『大人力検定』『大人の合コン力』などの「大人」をテーマにした著書を発表し続け、日本の大人シーンを力強く牽引し続けている。2012年7月に「伊勢うどん友の会」を立ち上げ、本腰を入れてコシがやわらかい伊勢うどんの応援をスタート。2013年8月には世界初の「伊勢うどん大使」に就任した。

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「吉田沙保里さんに会いに行きませんか?」
1月某日、そんなお誘いメールが届いた。送り主は『大人養成講座』『大人力検定』などでおなじみの累計200万部コラムニスト・石原壮一郎さん。

向かった先は、東京ミッドタウンで行われた「三重フェア」のオープニングセレモニー。石原さんは「取材」と称し、その場にいあわせた三重県縁のキーパーソンたちに、「伊勢うどん友の会」なる謎の組織を宣伝してまわっていた。
「オグマさん、吉田さんとのツーショット、ぜひ押さえてください」
そう、私の役目はカメラマンだった。
「いやいや、そんな腕もカメラも持ちあわせてませんけど……」というボヤキをする間もなく、石原さんはスルスルっと、セレモニーのスペシャルゲストにして、国民栄誉賞を受賞したばかりだったレスリング金メダリスト吉田沙保里(三重県津市出身)に近づき、「伊勢うどんのやわらかくてしなかやなコシは、吉田さんのレスリングの強さに何か影響を与えたでしょうか?」「あのやわらかいコシ(の麺)を食べてレスリングが強くなったと言っても過言ではないでしょうか?」と質問攻め。そしてうろたえる吉田沙保里の横にスッと並ぶと、すかさず私を呼び寄せた。これだけ近ければ撮影に支障はない。石原さんの、まさに吉田沙保里ばりの高速アタックに呆然としながら、私はシャッターを切った。
そんな調子で石原さんは、その後も鈴木英敬三重県知事をはじめ、三重県の重鎮たちに次から次と近づいては「伊勢うどん友の会」の存在を喧伝してまわっていた。石原さんの伊勢うどん愛と、そのための営業努力を痛感した1日だった。

あれから9ケ月が過ぎた先月末。郵便が届いた。
中身は石原さんの新著『伊勢うどん 全国制覇への道』。
付箋の貼ってあるページには、あの日、私が撮影した写真があった。


《伊勢うどんへの常軌を逸した面白がりよう》
─── ビックリしましたよ。僕の撮った写真と「撮影・オグマナオト」って書いてあるもんだから。

石原 あぁ、勝手に使ってしまいました。怒ってます?

─── むしろ喜んでます(笑)。念願の「伊勢うどん本」おめでとうございます。昨年、突然Facebook上に「伊勢うどん友の会」を立ち上げて、そこから取材も含めて、石原さんが伊勢うどんに傾倒していく過程を見ていた者としては、なんだか感慨深いものがあります。と同時に、このオッサン、すげー!!と。あ、大先輩に向かってすみません。

石原 でも、どうなんですかね、この本は。勢い任せに書き上げてしまったんですけど、この形でよかったんでしょうか?

─── 以前お話を聞いた時は、『ことりっぷ』のような伊勢うどん本を作る、ということだった思うんですが……完全に読ませる本になってますよね。

石原 もう、『ことりっぷ』の欠片もなくなっいましたね(笑)。最初は僕も、伊勢うどんの本は作りたいと思っていたけど、ガイド的な本のほうが現実味があるだろうな、と思っていたんです。でも編集の方が「いや、そうじゃないですよ。石原さんの、伊勢うどんへの常軌を逸した面白がりようとか、熱の入れようをメインにしましょうよ」と。それで、そんなの書いていいんだったら喜んで書きます! と。

─── いや、でもその「常軌を逸した」というのはわかる気はします。好きが高じて「伊勢うどん大使」になるなんて、なんだか不思議な話です。

石原 そうですね。「大使就任」は、まさかの展開でした。でも、そもそもこの本を書き始めた時には、大使の話なんて微塵もなかったんですよ。

─── そして今年は伊勢神宮にとって20年に一度の「式年遷宮」の年。いろんなタイミングが重なりあってますよね。だからこそ、「大使」の座も呼び寄せたんんじゃないでしょうか? まあ、遷宮は呼んでないと思いますけど。

石原 それはまあ、「呼んだ」というか、ちょっとだけ「狙った」節もあるんですけどね(笑)。でも、遷宮の前年に伊勢うどんに目覚めた、というのは大きいですよね。仮に来年が遷宮だったとしたら、果たして伊勢うどん活動をやっていたかどうか……年齢的にもそうだし、「大人力」が一段落してちょっと時間ができた(笑)という状況を考えると、他のことに時間を割いていたかもしれず、だとしたら、こんなことはできなかったかもしれない。

─── ちなみに今後、何か遷宮にからんだ動きなんかは?

石原 全くないですね。遷宮のテーマソングは藤井フミヤに奪われてしまったし、

─── 狙ってたんですか(笑)? というか、何ですか?遷宮のテーマソングって。

石原 私のことはさておき、遷宮がらみ、ということであれば、やっぱり大きいのはテレビや雑誌で伊勢うどんを取り上げられる機会が多くなったことですよね。先日もテレビ東京の人気番組「アド街ック天国」であんなにも伊勢うどんが大々的に取り上げられて……まあ、大々的なんて言ってるのは僕だけの見方なんでしょうけど、そんなになって皆さん、この本を間接的に応援してくれているのか、と。先週9月28日には、東京日本橋に三重県初のアンテナショップ「三重テラス」がオープンして伊勢うどんが東京でもますます身近になったりと、まさに時代が、伊勢うどんに風を送ってくれているようです。


《400年前からずっとそこにあるうどん》
さて、そもそも「伊勢うどん」とは何だろうか? 『伊勢うどん全国制覇の道』から引いてみたい。
「伊勢神宮のお膝元で、江戸時代以前から独自の進化を遂げていた伊勢うどん。極端に太くて念入りにやわらかくて、真っ黒なタレをからめて食べる伊勢うどん。あらためて考えてみたら、こんな個性的な、こんな興味深い食べ物は、そうそうありません」
特に特徴的なのは「念入りにやわらかく」だろう。そしてこれは、近年、うどんの一大潮流となった「讃岐うどん」に対してのカウンターでもある。私自身、昔から柔らかい博多うどんのファンだっただけに、讃岐うどんブーム以降の「コシのあるうどんこそ正義」の風潮を苦々しく思っていた一人だ。
そういえば、讃岐うどんのお膝元・香川県が「うどん県」を名乗ったのが2011年。石原さんがFacebook上で「伊勢うどん友の会」を立ち上げたのが翌2012年。やはり、対抗意識はあるのだろうか?

─── 最初は、伊勢うどんの「コシのやわらかさ」と「大人力」をつなげよう。という発想だったんですか?

石原 そうですね。ずっと「大人力」をやってきた身としては、「コシがやわらかい」というのは人間関係に通じる。伊勢うどんは大人力のある食べ物だ! というのはロジックとして成り立つな、と考える部分はありました(笑)。

─── 石原さん自身よくおしゃっていますし、本書でも書かれていますが、「ちょっと讃岐うどんをかじったからって、うどん全てを知ったかのように思っている東京人」が嫌だったりする部分もあるんですよね?

石原 まあ、昔から落語好きとそば好きのしたり顔が大嫌いだったりするのとも通じるんですが(笑)、自分がたまたま出会ったものが唯一の正解で、その他は受け入れない、みたいな風潮が大嫌いなんですね。あ、「大嫌い」とか伊勢うどん的じゃないので、「いかがなものか」と思うんですけど。

─── でも、讃岐うどんが嫌なんじゃなくて、讃岐うどんを無自覚に好きになることが嫌なんですよね。

石原 そうです。別に讃岐うどんを憎んでるわけじゃないんです。讃岐うどんは好きなんですよ。美味しいですから

─── 問題は、讃岐うどんしか認めない風潮であると。

石原 うどんもそうですけど、それこそ、僕個人のネットでの炎上経験(※アベする騒動)も関係あるのかもしれませんね。ネットでさんざん虐められて、「うーん、こいつらぁ」と思って考えたんですが、その人たちは往往にして他のうどんを認めたがらない人なんですよ。だからこそ僕は、「コシがあってもなくても、どっちのうどんだっていいじゃないか」という視点を持つことができれば、今のギスギスした世の中がもっとまろやかになるし炎上だってなくなると思うんですよね。

─── そこまで行きますか。

石原 そして伊勢うどんは、讃岐うどんに対抗して作ったものでもなんでもなくて、400年前からずっとそこにあるうどんなんだ、たまたま知らないだけなんだと。だから、「伊勢うどんを食べることで人生が変わる」とか、「伊勢うどんを食べることで人生の呪縛が解き放たれる」といったことを本書はもちろん、僕が普段から言っているのは、まあ半分冗談で言っているのと同時に、結構本気で思ってたりもするわけです。

─── だからこその、「食べるパワースポットだ」と。あれは、いいキャッチコピーですよね。

石原 エヘへ。ありがとうございます。日本一太くて、日本一やわらかくて、日本一やさしい伊勢うどん。「パワースポット」にピクッと反応することで、その魅力を知ってもらえれるキッカケになれば何よりです。

(後編へ続く)
(オグマナオト)

■君も伊勢うどん大使に会える! 伊勢うどんが食べられる!! 
「伊勢うどん&三重のうまいもの祭」開催
場所:東京・お台場「東京カルチャーカルチャー」
日時:10月5日(土曜日)17時30分より
伊勢うどんの試食はもちろん、たくさんのプレゼントやさまざまな特別限定メニューも!
詳しくは「伊勢うどん友の会」ブログへ

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