ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 いよいよ本格的な競馬シーズンの到来ですね。9月29日には、秋のGI戦線の幕開けとなる、スプリンターズS(中山・芝1200m)が行なわれます。

 注目は、やはりロードカナロア(牡5歳)です。昨年のスプリンターズS(2012年9月30日)から、GIは破竹の4連勝。層の厚い香港のスプリントGI(2012年12月9日)に、今春はマイルのGI安田記念(6月2日/東京・芝1600m)まで制して、短距離路線ではタイキシャトル(1997年〜1998年に活躍。フランスのジャック・ル・マロワ賞をはじめ、国内外のスプリント、マイルGIを5勝した名馬)以来の「絶対的存在」となりました。

 前走のセントウルS(9月8日/阪神・芝1200m)では、昨年同様に2着に敗れてしまいましたが、それは、本来スプリンターズSからの復帰予定を、あえて早めに使った結果。陣営としては、想定内の敗戦だったと思います。

 ロードカナロアにとって、最大目標はあくまでもスプリンターズS。安田記念のあと休養し、トレセンに戻ってきてからは、その大一番に向けて調整してきたところ、思いのほか早く仕上がってしまったのでしょうね。馬の調整過程において、ある程度(馬体が)仕上がってくると、馬の精神状態もレース仕様になってきます。その状態を数週間もキープするのは大変なことですから、ならばレースを使ったほうがいいと判断したのでしょう。

 まして、休養明けの場合は気負いもあって、非常にテンションが高くなりやすいもの。俗に言う「ガス抜き」をすることで、その後の好結果につながる場合があります。セントウルSは、まさにそんなケースだったと思います。結果的に2着と負けましたが、いい「ガス抜き」ができて、本番に向けての過程としては申し分ないと思います。

 時計、距離、展開、折り合い、決め手、すべてにおいて不安のないロードカナロア。唯一、道悪での競馬は見たことがありませんが、もし馬場が荒れたとしても問題なくこなしてくれると思います。連覇の可能性は、極めて高いと言えるのではないでしょうか。

 さて、今回の「ヒモ穴馬」ですが、指名馬をあげる前に、まずはレースの行方を左右する重要項目について考えてみたいと思います。

 ひとつ目のポイントは、馬場です。昨年はコースレコードとなる1分6秒7という快時計の決着となりました。昨秋の中山開催はとにかく速い時計が出ていて、開幕週の京成杯AH(芝1600m)では1分30秒7という驚異的なレコードが記録されるほどの馬場だったのです。それに比べると、今年の中山の馬場は全体的に1秒から1秒半ほど時計がかかっているように思えます。

 その理由は、今開催前に行なったエアレーション作業(馬場に穴を開けて、芝を活性化させるもの。それによって、馬場が柔らかくなる)の効果だと思います。昨年はものすごく硬い馬場に見えましたが、今年の馬場は非常にクッションが効いているように感じます。その分、時計がかかっていて、今年は1分7秒半ばから8秒近くの決着になるのではないでしょうか。

 ただし、ペースは決して遅くならないと思います。これが、ふたつ目のポイントです。

 ペースが速くなると思う理由は、セントウルSを逃げ切ったハクサンムーン(牡4歳)に加えて、フォーエバーマーク(牝5歳)というハナを主張する馬が出走するからです。2頭が競り合えば、テン(レース序盤)から相当速くなることが予想され、全体的なペースもそれに引っ張られると思います。

 そういう意味では、セントウルSでロードカナロアを下し、本番への期待も高まっているハクサンムーンにとっては、厳しい競馬になりそうです。というのも、セントウルSを含めて、3着だった高松宮記念(3月24日/中京・芝1200m)や、2着に好走したCBC賞(6月30日/中京・芝1200m)では、「ハクサンムーンが(ハナに)行くから」と、先頭に立つハクサンムーンに誰も競りかけませんでした。それが今回は、フォーエバーマークと熾烈なハナ争いになるのは必至ですからね。

 アイビスSD(7月28日/新潟・芝1000m)では、ハクサンムーンが快勝し、フォーエバーマークが2着。両者の勝負づけは済んでいますが、スタート直後はフォーエバーマークのほうが2完歩ほど前に出ていました。当時は、枠順が内(4番フォーエバーマーク)と外(13番ハクサンムーン)に離れての直線競馬だったので、ハクサンムーンの競馬に影響はありませんでした。しかし、コーナーのある今回は違います。

 フォーエバーマークも先頭で行ったほうが断然いい成績を残していますから、鞍上の村田一誠騎手は強くハナを主張するでしょう。ハクサンムーンに騎乗する酒井学騎手とは同郷(新潟県)の間柄ですが、そこは簡単には譲らないと思います。ハクサンムーンにとっては、ますます苦しい展開が予想されます。もし2番手という形になったとしたら、人気どおりの結果を残せるかどうかは微妙なところですね。

 話を戻しましょう。つまり、前を行く2頭、ハクサンムーンとフォーエバーマークが競り合うことで、前半からかなりのハイラップが刻まれると予想されます。そうしたレースでは、ジョッキーの判断がとても重要です。それが、レースの結果に大きく反映されることが多々あります。

 そこでクローズアップされるのは、冷静な判断ができて、なおかつ最善の勝負騎乗ができるジョッキーです。その最右翼と言えば、やはり横山典弘騎手でしょう。中山・芝1200mというトリッキーなコースで、極端な展開をさばくジョッキーのイメージとしては、まさにぴったりです。

 手綱をとる馬は、サクラゴスペル(牡5歳)。ある程度好位につけられ、どんな流れにも対応できる器用な馬です。終(しま)いの脚もしっかりしていて、今の時計のかかる柔らかい馬場も同馬にとっては好条件です。

 また、横山騎手は、2006年の天皇賞・春(京都・芝3200m)でリンカーンに騎乗して、ディープインパクトの2着と好走。2009年の毎日王冠(東京・芝1800m)、天皇賞・秋(東京・芝2000m)では、カンパニーの手綱をとってウオッカを立て続けに撃破しました。1頭抜けた存在がいるときに、その馬を目標にした勝負騎乗ができるわけです。

 そういえば、1999年のスプリンターズSをブラックホークで制したときも、1番人気のアグネスワールドをマークしての勝負騎乗でしたね。今回は、さすがにロードカナロアを破るのは難しいと思いますが、横山騎手の思い切った手綱さばきが炸裂する可能性は十分にあります。よって今回は、サクラゴスペルを「ヒモ穴馬」に指名。その奮闘を期待したいと思います。