2003年に公開され謎すぎる内容で話題になり、実況動画も多くアップされている『ゆめにっき』。これを日日日が大胆に解釈し、キャラクターすべての名前を排除して、意味をもたせたのが小説版。これが決定版になるか、解釈の一つと捉えるかはあなた次第。

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「あなたは、ちいさな部屋に立っている」
「あなたは、自分が動けることをまだ知らないみたいに、ぼんやり立ち尽くしている」
一人称小説じゃなくて、二人称小説。
これが日日日版小説『ゆめにっき』です。

『ゆめにっき』は、2004年にききやまがRPGツクールで制作・発表したフリーゲーム。
いや、ゲームと言っていいのか迷います。
「特にストーリーや目的はありません。歩き回るだけのゲームです。」と公式サイトにもあるように、何もすることがない、ただ不気味な世界を歩き回る作品だからです。
kikiyamaHP(公式HP)

ただ不気味なだけではありません。謎がたくさん散りばめられており、この世界になんらかの意味がありそうな、なさそうな。実に不安定な感覚が面白いんです。
主人公?にあたるのは通称「窓付き」と呼ばれる、目を閉じたままの三つ編みの少女。
この子を操作して夢のなかに入り、たくさんの扉を開き、エフェクトと呼ばれるものを集めていきます。
このエフェクトが、またよくわからない。一応「じてんしゃ」「しんごう」「かえる」「ゆきおんな」などを入手して、ゲームを有利に進めていきます。
有名なのは「ほうちょう」で、これで鳥人間以外殺しまくれるんですが、別に殺して点数を稼ぐゲームではありません。
一応エンディングもあるんですが、これもどう解釈すればいいかわかりません。
ほんと、なにすればいいのかわかんないんです。

公開されて以来、ファンが非常に多く、数多くの考察が行われてきました。
ただし、考察はすべて「二次創作」です。
なぜなら公式からの解は、一切ないからです。

なので、この小説も、日日日の独自の解釈による二次創作です。
そもそも、これはプレイすればわかるのですが、わけのわからないおかしな世界を絵ではなく文章で表現するってどうするの?って話なんですよ。
しかも、このゲームテキストがほとんどありません。窓付きはほとんどしゃべらないんです。
どこからが夢で、どこまでが現実かも分からない。出てくるキャラクターとして「ポニ子」「モノ子」などもいますが、それらも俗称で名前がない。
これを解釈した上で小説としてのエンタテイメントにするのは至難の業です。

まず、作者は「窓付き」の名前を捨て、「あなた」としました。
小説がはじまって、暫くの間は「あなた」が主格になっており、「あなたは○○する。」と現在形で描かれます。
小説で二人称というのは相当に珍しいので、読んでいて不思議な気持ちになります。
理由は2つ。一つは少女窓付きは、イコールプレイヤーのこと、つまり読者だから。
動くのは、操作しているあなたである、というふうに捉えるとストンと読みやすくなります。
もう一つの理由は、読んで確かめてください。

そして、ここからが日日日版のすごいところなんですが、途中から「わたし」が登場します。
つまり「わたし」は「あなた」を見て追うんです。
「あなた」=窓付きですので、「あなた」はエフェクトを集めてよくわからない色々なものに変化していく、ゲームのキャラクターと同じ行動を取るんですが、それとまた別に「わたし」はそれを見ることになります。
この「わたし」がゲームに出てくるかどうかは……これは読んで+ゲームをやってはじめてわかると思いますので、まずは読んでみてください。

かなり大胆な解釈をしていますが、ユングやフロイトの心理学に基づいた考察も挟んでいて、冷静な視点で書かれています。
かといって説教臭くない。最終的に「わたし」の物語としてきちんとエンタテイメントに仕上がっています。
おまけに、倦怠感というかけだるいというか……ゲームプレイ中のストレスもちゃんと表現されているのが、すごいんだ。

「あなた」が現在形で描かれることが多いのに対し、「わたし」は過去形「○○した」になっているのも興味深いところ。
「わたし」という人物を固めることによって、『ゆめにっき』の夢に形をあたえ、ゲーム内の様々な謎に意味をもたせたのが、日日日版ゆめにっき。ちゃんとモノ子(仮称)や鳥人間(仮称)やセコムマサダ先生(仮称)というようなキャラも登場します。
ゲーム内エンディングらしきものもつないで一つの線にしているのですが、エンディング=物語のエンディングじゃない。ここの解釈は、是非読んでほしいパートの一つ。
造本も非常にいい。見えるか見えないかのぎりぎりのグレーでページを包んでいるので、圧迫感と不安感が半端じゃないです。

できれば、ゲームをプレイしてから読んでほしい作品ですが、正直ゲーム自体はどうすればいいのかわけわからなくなって詰まることが多いです。
なので、小説版から、というのもありだと思います。読んでからプレイすると、「こういうシーンなのか!」とびっくりする部分たくさんあると思います。プレイ動画もニコニコなどに多く上がっているので、それを見るのも手でしょう。

何度も書きますが、あくまでもこれは一つの解釈であって、解答ではありません。
自分なりにプレイして考えるのが面白い作品なので、是非ゲームはプレイしてみてください。

現在は「ゆめにっきプロジェクト」が進行しており、グッズや漫画、CDなども同時進行中。
Project YUMENIKKI
ゆめにっき / 漫画:富沢ひとし/原案:マチゲリータ/原作:ききやま
こんなに『ゆめにっき』が取り上げられうとはびっくりだよ!
『エイリアン9』の作者、富沢ひとし版『ゆめにっき』がこれまた全然別物になっているので、こちらもオススメ。絵がある分、幻想度高いです。

窓付きという、この作品でいうところの「あなた」にはぼくもゲームプレイしてから散々心揺さぶられたものです。
まさか10年の歳月をこえて、また揺さぶってくるとはね。ほうちょう持って。

日日日・ききやま 『ゆめにっき』

(たまごまご)