「イラストでもあまちゃん」その4(木俣冬)

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いよいよ最終回が近づいてきた朝ドラ「あまちゃん」。
地震で多くの被害を受けた北三陸の復興、特に海女カフェの復活を目指すアキの奮闘を描く25週(9月16日〜21日/145〜150回)のサブタイトルは、「おらたち、いつでも夢を」です。
21週に続いてサブタイトルに「たち」がつきました。26週も「おらたち、熱いよね!」なので後半戦に入って、人々の団結を強調したい気持ちを感じます。

さて、残り2週分は、1回1回惜しむように、月から土まで回ごとに振り返ってみましょう。

  16日(月)145回  北へ来たミズタクと、重いユイ 


北三陸にミズタク(松田龍平)がやってきます。
春子(小泉今日子)のはからいで、スリーJプロダクションの岩手北三陸支社長となり、アキとユイをマネージメントしながら、もう一度、勉さん(塩見三省)のもとで琥珀掘りもしようとしています。
けれど、ユイ(橋本愛)は、やる気を見せません。
もはや悔しいとか嫉妬とかそういう腹黒い感情さえ見せず、ただただ重い諦念を漂わせるユイにアキ(能年玲奈)は苛立ちを爆発させます。
「あんたがたにとってはなつかしい思い出かもしれねえが おらにとっては大事なスタート地点だ 海女カフェ復活に向けての大事なチャンスなんだ 真剣にやってもらわないと困るんだ」とリアスにたむろする大人たちに向かって吐き出します。それは、昔、ユイが言ってたこと(47回)とそっくりなことでした。
そんなとき、GMTの面々が北三陸にやってきて・・・。

この回、女としてはこれから! とアキにメス感むき出しにしていたユイ(143回)はなんだったのか、と思うほどユイは意気消沈しています。
感情の波がコントロールできなくなるくらいに、地震の日、列車に閉じ込められたことはショックだったのでしょう。
そういえば、ユイって上目線キャラのわりに、すぐ「ごめん」と言います。「ごめん」が口癖になってしまっているように感じられますが、これって相当屈折している印じゃないでしょうか。
なにげないそのひと特有の言葉遣いをセリフに盛り込むことは脚本家の才能。そして、その登場人物の体験の中から口癖ができあがっていく感じが出せるのは長い連続ドラマだからこそできることですね。

  17日(火)146回   ユイと鈴鹿、逆回転体勢に突入 


GMTが東北チャリティーコンサートの合間に北三陸市に立寄り、住人は大盛り上がり。
それを冷ややかな目で見ていたユイは、ついに潮騒のメモリーズ復活を決意します。
145回とはうって変わって、毒舌のアクセル全開、フルスロットルの様子と、密かに「潮騒のメモリーズ現象〜第二章」という復活のシナリオをノートに記していたところは、視聴者をウキウキさせました。

その頃東京では、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が歌に興味をもち、口の固いボイストレーナーについてレッスンしていることを太巻(古田新太)から聞かされて、春子が驚愕します。
鈴鹿のことを「家内」とついつい言ってしまう太巻のはにかみと、「絶対無理音感の持ち主」という春子の表現がグッドでした。

ユイがなんだかんだ言って諦めてなかったことは、そのむきだしの二の腕に現れていたと思います。震災以降のユイの夏服は、彼女の白くてつるっとした白い腕がガバッと出ているものが多いのです。ほかには誰も腕いっぱい出してない中で、私、負けません感を強烈に感じるのですが気のせいでしょうか。

  18日(水)147回  プロちゃんにはなりたくねえ 


時は2012年2月。
復活した潮騒のメモリーズは足立功(平泉成)の市長選のサポーターをつとめ、功は無事に市長になります。
アキは20歳になっていて、投票もするしお酒も飲めます。
16歳のとき北三陸にやってきてから4年、変わったかな? とヒロシ(小池徹平)に尋ねると、返ってきた答えは「変わってない」でした。
「(芸能界、東京では)成長しないとなまけてるみたいに言われる 成長しないとダメなのか 人間だもの、黙ってても成長する それでも変わらない変わりたくない部分もあると思うんだ あまちゃんだっていわれるかもしれないけどそれでもいい プロちゃんにはなれないしなりたくねえ」ととても深いことを言うアキ。変わってないけど、成長しているんですよね。
そしてこれは、太巻が76回の「奈落にいたころが一番面白かったよ」発言に近いような気がします。原点をいつまでも大事にしていたらいいじゃないかという。原点、それが地元ってことなのかなと思わされるドラマです。

鈴鹿ひろ美は、自分の歌で東北の人たちを励ましたいとチャリティーコンサートを企画。レッスンの成果を、春子、太巻、正宗(尾美としのり)の前で披露しますが・・・。
鈴鹿の歌は無音で、春子たちの表情で状況を表現。
かつて、映画「BECK」でも歌声無音表現という実験的な演出が行われましたが、無音のほうが勝手にうまさもヘタさも想像できるから効果的です。


  19日(木)148回   鈴鹿ひろ美が海女カフェで歌う!?  


夢はあるけど、復興はなかなか具体的に進行していきません。
海女たちの苛立が募るばかり。
けれど、ついに、北鉄の復興計画が具体化し、2012年7月北三陸と畑野間が運行を再会することになりました。
鈴鹿ひろ美が、その日にチャリティーコンサートをやりたいと申し出ますが、その日はお座敷列車で潮騒のメモリーズが完全復活予定(ユイのシナリオによると)のため、前日の6月30日に前夜祭として行うことに決まります。
北三陸がにわかに忙しくなってきました。

復興が進まない中、アキが海辺で拾った、復興を祈る垂れ幕のようなものを海水で洗うシーンがしんみりします(これが149回で海女カフェに飾られているのがいい)。
その流れで、海女カフェに立ち寄ってしょんぼりしていると、ヤング春子(有村架純)が登場。
「断っておきますが これは幽霊じゃありません だって私生きてるし」と春子のナレーションが入ります。「じゃあなぜ? どうして若いころの母の姿がアキには見えるの?
理由はよくわかりません」って、不思議なことを「わかりません」で済ませてしまう宮藤官九郎。すごい腕力です。
考えてみたら、このナレーションだって、その場にいない人がなぜ、状況や感情を説明できるのか謎ではありますから、「わかりません」と言いきってしまったもの勝ちかもしれません。赤塚不二夫のこれでいーのだ精神ですね。

ヤング春子が出てきたとき、東京では春子が鈴鹿の歌レッスン中で「てーてー」と言っていて、ヤング春子が手招きする画と重なるのは「て」つながりなのでしょうか。演出家の西村武五郎さんに伺ってみたいものです。

ヒロシ、種市(福士蒼汰)、ミズタクが中心になって海女カフェの瓦礫の撤去などを行う場面も良かったです。ヒロシは負のアキにオーラを出してると言われてしまいますが、たくましくなっているし、アキも海女カフェに男子たちがやってきたとき、暗闇の中、ちゃんとヒロシに気付きます(最初にヒロシに目がいってるような画面になってます)。


  20日(金)149回   じっちゃん、鈴鹿さん、さかなクン 


2012年3月から6月まで一気に月日が駆け巡って、海開きを前にアキがウニの繁殖を確認してみると・・・。
さかなくんがやってきて、さかなコレクションを海女カフェに提供してくれることになり、海女カフェ復活に一役買います。
じっちゃん(蟹江敬三)も帰ってきて、鈴鹿ひろ美もやって来て、北三陸ががぜん盛り上がって参りました。

すみません、正直、これまで「あまちゃん」における、さかなクンの存在を軽視しておりました。「じぇじぇじぇ」と「ギョギョギョ」が合っていて面白いからの起用なのかと思っていたのですが、ここへ来てさかなクンの重要性を痛感し、目からウロコの思いです。
さかなクンは、魚が好きで好きでその一心で研究を深め、テレビに出て魚の魅力をアピールしている人。最初は、魚(ある意味)おたくの一般人だったが、その突出した知識量によって一躍有名人になった人物です。
海への愛をもっていることも含めて、「あまちゃん」の世界にピッタリの人物だったんですね。ギョギョギョー!

 21日(土)150回  どうなる、みんなの夢 

鈴鹿ひろ美はコンサートの気持ちをつくるため、6月18日という異様に早い時期に前乗りして、北三陸市を騒がせます。なんてったってスターですから。
そして、春子の84年部屋を見て、気持ちつくるのはここが最適と、ここで過ごすことを決意します。
朝、鈴鹿スペシャルを嬉々として作っている鈴鹿を「魔女なのか」というじっちゃんが最高ですが、彼が2年間、地震があっても帰ってこなかったのは「陸(おか)が大変なときに陸さ上がってどうする 海で銭こ稼いで陸の連中さ助けねばなんねえべ」というかっけー理由からでした。
皆、それぞれ自分のやれることをしているのです。「口じゃなくて手を動かす」ことが大事なのですと行動で示されている気がします。

84年部屋でアキが鈴鹿に「こういう部屋で見た夢を鈴鹿さんみたくかなえられる人って一握りなんだよなあ」と言ったあと、ヤング春子がオーディションに合格する夢見ている場面になります。ヤング春子のやたらと無邪気な希望に満ちた笑顔は、その後の絶望を知っているだけにしんみりします。
明日からこの部屋を使いたいと言う鈴鹿「気持ち作るのにはぴったり」「ここがいいの」と。
春子は過去の自分のわだかまりを解決できましたが、鈴鹿は解決できてない。自分の夢のために他者の夢を潰してしまったという重い出来事を、彼女は解決できるのでしょうか。
クドカン先生は、鈴鹿に大きな命題を背負わせました。
「いつでも夢を」ではじまった「あまちゃん」ですから、やっぱり物語が走って行く先は、それぞれの「夢」のようです。
26週、「おらたち、熱いよね!」の予告「最終週」と大きく出て、場面がめまぐるしく流れていくのを見て、胸が熱くなるのでした。

それにしても、今週のミズタク。北三陸に来た途端、髪の毛横分けで微妙なチェックシャツを着用、鈴鹿のマネージャーとしての使命(音痴を隠す)をもはやすっかり忘れ、その鈴鹿にはめんどくさいからメールでしか辞める挨拶をしていなかったことをカミングアウト、現代っ子は困ったものだと苦言を呈されてしまいそうな行動をとります。
ミズタク、松田龍平が魅力的だから救われているだけで、じつはすごいダメな人なのでは。そんな彼を受け止める勉さん。ミズタク自身が北三陸で磨かれてほしいですね。(木俣 冬)

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