最高税率アップに伴い、富裕層の海外逃亡が危惧されている。これを防ぐにはどのような方法が存在するのか? 現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏は、こう提言する。

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 このところ「金持ちの海外逃避」が話題になっている。日本は相続税・贈与税の最高税率が50%(2015年1月からは55%に引き上げられる)と高いが、海外には相続税がない国や税率の低い国がある。このため富裕層を中心に相続税対策や節税目的の海外移住(節税移住)が急増しているとされ、それがテレビの『NHKスペシャル』や週刊誌でも取り上げられて論争になっているのだ。

 実は、今の日本は社会主義国以上に平等主義で貧富の格差が小さく、経済規模の割に金持ちが少ない国である。世界を見渡せば、日本とはケタ違いの大金持ちが山ほどいるし、彼らの海外逃避は当たり前すぎて、ほとんどニュースにもならない。そんなことも知らずに、妬みそねみで金持ちを批判するのは間違っている。

 今や世界は、いかに金持ちに自分の国へ来てもらって心地よく暮らし、安らかに逝ってもらうかという競争になっている。世界にはスイス、シンガポール、香港、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、スウェーデン、モナコなど相続税のない国がたくさんあり、重い相続税を課している国の金持ちがそこに逃げるのは当然なのである。

 また、日本人の多くは彼らの現実もわかっていない。実際、私が知っている経営者も何人か海外に移住しているが、それで幸せかといえば、実はそうでもないのである。意外とみんな寂しがって、移住したことを後悔しているのだ。

 たとえば、日本人の金持ちが相次ぎ移住しているとされるシンガポールは、箱庭のようで息が詰まる。金持ちを吸引するために人工的に造られた国だから、あそこで幸せに死ぬのは難しいと思う。

 あるいは、アメリカのロムニー前大統領候補は資産を英領ケイマン諸島に置いて節税していると報じられたが、あんな島は3日もいたら飽きてしまう。住宅の入り口にガードマンがいなければ安心して暮らせない国も少なくない。

 そう考えると、日本という国は金持ちにとって最もコンフォタブルな場所だと思う。治安が良いし、食べ物は美味しいし、温泉、富士山、湖、スキー場からサンゴ礁まで、あらゆる天然・観光資源に恵まれている。住宅もシンガポールや香港、上海などに比べれば格段に安い。これらを生かしてアジアの金持ちを呼び込むべきなのだ。

※週刊ポスト2013年10月4日号