来たる10月6日、日本競馬サークルの悲願でもある凱旋門賞がフランスのロンシャン競馬場で行われる。明らかに競馬後進国だった昭和の時代ならともかく、平成に入り、サンデーサイレンスなど米国のスピードを重視した血統を最前列に興行を打っている日本競馬にとって、なぜ欧州の古臭い凱旋門賞が未だ悲願なのか、正直クビをかしげざるをえない気もするが、とかく欧州の伝統の前では跪いてしまう日本人気質だろうと気楽に考えておく。

 しかし、レースは気楽ではない。15日の前哨戦、3歳限定のニエユ賞でキズナが英国ダービー馬ルーラーオブザワールドをハナ差抑えて世界デビュー、続くフォワ賞では昨年の凱旋門賞で2着に惜敗したオルフェーヴルが3馬身差の圧勝、この勝利によりなんと10月6日の本番におけるブックメーカーの1番人気に躍り出たのだ。欧州の重い馬場に対応できるか不安視されていたキズナの勝利、昨年以上の状態で前哨戦を楽勝したオルフェ。この2勝によって「悲願達成」が現実的になってきた競馬サークルはさぞや盛り上がっていることだろう。

 しかし本番では、地元フランスの怖い3歳牝馬トレヴも出てくるし、今年無敗で現欧州最強と謳われるドイツのノヴェリストも参戦してくる。先行力もあり実績も人気もあるオルフェーヴルを徹底マークし、オルフェが追い出した瞬間、彼らがワンテンポ遅らせて仕掛けるのが見える。オルフェが本当に昨年以上の状態なら、それでも悲願を成就する可能性があるが、やはりゴール前の強襲には怯えなくてはならないはずだ。

 そこでキズナだ。ブックメーカーでは4番人気に上昇。しかし、欧州での実績はせいぜい7、8番人気レベルと考えていい。つまり穴馬だ。7年前、まさにVIPとして参戦した父ディープインパクトとは立場が違う。

 そういえば当時、日本競馬に頻繁に参戦していたペリエ騎手が海外で吹きまくったそうである。「日本のディープインパクトって馬は、最後方から行ってどんな馬も差し切ってしまうんだ」と。それを聞いた海外の騎手は一様に「それは無理だよ」と反応したという。

 そう、芝も長く、雨も多く、ペースもだらだらと緩まずにスタミナ比べになりがちな欧州の競馬では、後方一気はよほどのことがない限りハマらない戦法。それをどのレースでもやって、しかも勝っていると聞かされても、信じてもらえないのも当然だったはず。事実、1番人気に推された凱旋門賞では、ディープは日本では考えられないほどの“欧州仕様”の先行策で押し切りを試み、結果、ゴール寸前で2頭に差されるという結果となった(3着入線後失格)。あれには、なぜ、いつもの得意な競馬をしないのか。それで負けたらいいじゃないか、と敗戦以上にガッカリしたファンも多かっただろう。

 その息子キズナは、ニエユ賞で後方2番手からレースを進めた。日本の軽い馬場でこそのキズナが、果たして欧州でどのくらいの脚が使えるのか、武豊ははかりたかったのだと思う。最後の直線では中段に取りつき追い出し開始、結果、ゴール前では脚が上がり(スタミナが切れた)、英国ダービー馬に交わされる寸前まで追い詰められたが、みごとに勝利。圧勝のオルフェに比べれば見映えは悪いが、これにより「もっと脚を溜めるべき」と武豊が感じたなら、しめたもの。そう、先行するオルフェーヴルが徹底マークされる本番は、欧州競馬で何度かに一度キマる「後方一気」が勝利を呼び込むかもしれないのだ。オルフェをマークする有力馬よりさらにワンテンポ遅らせた仕掛けで、キズナの後方一気! 妄想が過ぎるかもしれないが、ぜひ堂々たる自分の戦法で父の雪辱を晴らしてもらいたいものだ。

 滝クリじゃないが、オリンピックついでに、フランスの大レースも日本馬2頭で「おもてなし」しちゃいましょう。