「イラストでもあまちゃん」その4(木俣冬)

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「あまちゃん」24週(139〜144回/9月9日〜14日)「おら、やっぱりこの海が好きだ!」は、2011年7月1日の海開きからはじまりました。

ところが、津波によってウニが海にほとんどいません。北鉄の復興には80億円もかかるとあって、北三陸の経済状態はこれまで以上の危機に瀕しています。そこで、アキ(能年玲奈)は、地引き網を使ったミサンガ作りを提案し、男たちは海の整備を行うなど、みんな各々やれることをやっていきます。
種市(福士蒼汰)も安部ちゃん(片桐はいり)もついに帰ってきました。
北三陸の人々が地元のために懸命に働く姿には、見ているほうが励まされてしまうほどです。
特に142回、夏ばっぱ(宮本信子)に「ここで本気ださねばどうする。いつまでたっても被災地だぞ。それでいいのか?」と発破をかけられたいっそん先生(皆川猿時)が「あそこまで言われて男が動かないなんて嘘でしょ」と発奮するシーンには武者震いしました。

みんなの姿を見てアキは、「ユイちゃんだけじゃない。夏ばっぱも海女クラブのみなさんも勉さんも大吉さんも菅原さんもみんなみんな多くのものを失いそれでも笑ってるんだ」と感じますが、ここでもやっぱりヒロシ(小池徹平)は出てこないという徹底した忘れっぷり。宮藤官九郎はもはやアキがヒロシを忘れていることに触れることさえしません。そこがまた面白いのですが。

ヒロシだって地元のためにすごくがんばっているのですが、なぜか相変わらずアキの眼中にまったくなく、ユイ(橋本愛)からも、イケメン枠からおりたとからかわれる始末(木曜142回)。そんな中でイラストの才能を披露します。
会議中、弥生(渡辺えり)が「んだんだんだ」とスーパーマリオのメロディで元気になったり意気消沈したりする気持ちを表現する姿を書類の端に落書きしていて、これがうまい。「あま絵」としてどんどん描いてほしいくらいです。

影の薄いヒロシに比べて、もうひとりのイケメン・種市は、お盆休みが来るまで待てずに北三陸へ戻ってくると、東京とはうって変わったイケメンっぷりを発揮します。
水を得た魚とはまさにこのこと。種市はやっぱり南部ダイバー。北三陸の海でこそ輝く男なんですね。
金曜143回で、ほかの海から親ウニをもらってきて放流する提案をする頼もしさも、(北三陸の海のことを)「うまくいえないけど基本だなと思った」というたどたどしさも、どっちも良いのです。高倉「不器用ですから」健さんみたいで。

種市は海だけでなく、アキとユイの関係のこともちゃんと理解しています。ユイは彼女の笑顔を見たくさせるものがあるが、アキは彼女を見た人が笑ってしまう魅力があるというふたりの違いを言い当てました。「月と太陽」は勉さん(塩見三省)が代弁したけれど、その名言に至るまでは種市がレールを敷いているのです。

そして、種市、東京編でアキの彼氏になったものの、ミズタク(松田龍平)に人気を奪われていた感がありましたが、再会したユイの「メス」の面を刺激したらしいです。
イケメン枠がヒロシくらいしかいない北三陸では、貴重なイケメン要員なのでしょう。

復興の物語を描き始めた「あまちゃん」にはちょっと深刻な部分も増えたものの、24週のハイライトは、ユイがただただあの日受けた傷に苦しみ塞いでいるだけではないというところです。
143回で「アイドルはあきらめたけど、女としてはむしろこれからだと思ってるからね。アキちゃんの彼氏だからスイッチ切ってるだけだからね、すぐ入るからねスイッチ」と言い放ちます。
23週で、トンネルの暗闇を出たところで衝撃の風景を見て心を閉ざしたかのようなユイが、こんなことを言い出すなんて意外な気もしますが、こういうところが宮藤作品の滋味で、どんなに辛くて悲しいことがあっても、生きている以上、笑ったり、ご飯を美味しく感じたり、人を愛したりするものだし、そうすることをためらうことはない、と優しく背中を押しているようです。

この場面では、アキと共に「こえーーー」とテレビの前の誰もが思ったことでしょう。
ユイは、種市がらみの話になると、妙にしゃべり方がヒステリックになって大きな声を出すんですよね。「失礼しましたー!」と言うのもそうだし、46回で「そっち! 自分のことはずぶんって言うくせに私はそっちなんだ! 何?方角?」「用もないのに呼ばないでよ!」と怒鳴ったり、47回で種市の話をはじめるアキに「大事なチャンスなんだー!真剣にやってくれないと困るんだー」と逆上したりしていました。それがメス部分の発露なのでしょうか。
ユイは小太りの愛犬家、ハゼ・ヘンドリックス、種市・・・と恋多き女のようですが、土曜144回で水口と1年半ぶりで再会して、どうなるかも気になります。
そしてやっぱり、種市との関係。種市が「ユイ」は名前で「天野」は苗字(時々、名前も呼ぶが)と呼ぶことも気になります。苗字呼び萌えってのもありますけどね。

さて、24週では、ユイとアキと種市のラブトライアングルの復活のほか、恋とか愛とかが多く描かれました。
春子(小泉今日子)と正宗(尾美としのり)がヨリを戻し、さらには鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)と太巻(古田新太)が平成元年からの長かった春を終えて震災婚をします(144回)

春子と正宗が元サヤに収まったとはいえ、正宗の「着いた場所が目的地だよ」という名台詞に春子は「そうかなあ、大反対」と異を唱えます。考え方が違うところがいいのでしょうかね。
そして、忘れてはならないのが、かつ枝(木野花)と長内(でんでん)が「北三陸のベストカップル」と讃えられる場面(火曜140回)。ふたりは結婚と離婚を繰り返しているにも関わらずベストカップルなのですね。
「北三陸は離婚率の高さとワカメの収穫高で有名」と夏が言います(144回)が、
なんだか春子と正宗の関係にも、かつ枝と長内の姿を重ねて見てしまいそうです。

140回では、かつ枝と長内の家は地震による津波で流され、19歳で亡くなった息子の遺影や遺品も失ってしまったという話が出てきます。
かつ枝の息子が海の事故で命を落とした話は18話で語られていて、アキはその時点で既に北三陸の人々がいろいろあるけど笑って暮していることを感じていたのですが、ここへ来て一層アキの心に強く響くことになるのです。
ギャグもシリアスも繰り返したほうが心に残ることを「あまちゃん」は教えてくれました。
弥生の「んだんだ」ネタは55回、「まだ書き写してねえべ」は15回で初出しています。

後になって実感してくることといえば、ミズタク。
143回で、彼もまた北に行く決意します。潮騒のメモリーズがお座敷列車で歌ったことが忘れられないのです。
「あれがぼくの原点というか。つたないけど一生懸命歌うふたり。それを見守る田舎の人たちの屈託のない笑顔と拍手。声援と窓の外の景色と全部が終わったあとの虚無感と。
ぼくの中のアイドルって結局これなんです。このときの興奮を追い求めているんだなって」と本質的なことを熱く語るミズタク。
でも、「顔に出ないから、気持ちがわからなかった」と春子に言われてしまうミズタク。

確かに東北ではポーカーフェイスで、そんなに潮騒のメモリー@お座敷列車にのめり込んでいたとは思えませんでしたが、彼はこの決定的な体験を心に抱いて、東京でマネージャー業に励んでいたのです。

自分の本当に好きなことをやろうと思うミズタクに対して、正宗は「好きじゃないことや向いてないことを避けて生きていけるほど、今の世の中甘くないと思うよ」は諭します。「人生は長い。道に迷ってもいい。混んでいたら脇道に入ればいい。どこかで誰かを拾うかもしれない」と。
正宗は好きじゃないことや向いてないこともやっているうちになんかいいことある派なんでしょう。
それを反対する春子と似ているのがアキ。
復興ドキュメンタリーを作ろうともちかけるテレビディレクター池田(野間口徹)に対して海、海女カフェ、北鉄・・・、自分が好きなものを取り戻したいから復興活動に励んでいるだけであると言います。
そのとき効いてくるのが、夏の使った言葉「お構いねぐ」。
当事者以外手出しできることなどないし、大義名分に囚われることなく自分が本当にしたいことをやればいい、と言われている気がします。
夏の口癖「来る者拒まず。去る者追わず」や花巻(伊勢志摩)の口癖「わかる人だけわかればいい」にも「お構いねぐ」と共通の突き抜けた自立のニオイがします。それが「あまちゃん」の強烈な磁力でもあるのです。
クリステルの「おもてなし」精神よりも、クドカンの「お構いねぐ」精神を推したい!
25週は「おらたち、いつでも夢を」。最終回まであと2週間12話! どうなる、北三陸! お構いねぐ、と言われたって気になります!(木俣冬)

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