『親はオタでも子は育つ!』は、怪獣オタクと腐女子夫婦の子育て奮闘記、なんですが、最大の論点になっているのは「コミュニケーションを面と向かってできるのか」という問題。今までのコミュニケーショントラウマ話を交えながら、コミカルに、かつシビアに人間である子供に向き合うマンガです。

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子供はおらず、嫁は二次元にしかいないぼくですが、子育てマンガ大好きなんです。
といっても子育てあるあるとかは割とどうでもいいんです。ぼくが興味あるのはその漫画家が子育てをするようになって、どう心情が変化するのかという点です。
今まですごいソリッドで攻撃的なマンガ描いていた作家さんが、子供生まれた途端作風が丸くなる、というのはよくある話ですが、逆に神経尖る作家さんもいる。男性はパパになって価値観かわることもありますが、女性は腹を痛めてる分母になると変化が大きい。
だから面白いんですよ。

堂高しげる『親はオタでも子は育つ!』は怪獣大好き80年代系バリバリオタクの作者と、ヒマさえあればBL見ているBL大好き腐女子奥さんのオタク夫婦の子育て記録。
堂高しげるといえば、かつて『全日本妹選手権!!』という名前からしてクレイジーな、萌えを茶化しつつオタクの腹に直球を投げ込むようなマンガを描いていた作家。大好きでした妹選手権もミス・コンビニ選手権も。
だからこの本が出た時、気になりました。オタク臭を噴出させるような作風の作者が、子供を育てることでどう変わったのか?
……あんま変わってませんでした。
なのでマンガは、オタクネタ満載(解説付き)の子育てギャグマンガになっています。ある一点を除いては。

マンガは子作り計画からスタートします。作る前からか!
なぜかというと、不安定な漫画家という職業と、オタク&腐女子の夫婦が果たして本当に子育てができるのか、真剣に考えないといけないから。
もっとも、親というのは実際に子供が出来てから実感するもので、誰もがこの不安は抱えていると思いますが、夫婦ともにコミュニケーションに関してトラウマを抱えているというのがこの作品のキモです。

実際に子供が出来て、面倒を見始めてから作者が妄想に襲われるシーンがあるのです。
赤ちゃんがなかなかあやしても泣き止まない。それを見て、娘がニヤリと笑います。
娘は言います(妄想で)。
「人並みに結婚できて、調子にのっちゃった? でも忘れちゃダメよ。あなたコミュ底じゃない」
娘は延々となじります。周りの人失望して離れていくよね。飲み会で隣に人座らないでしょ。
そんなんで子供を育てられるの、笑ってすますんでしょ、ソツなくこなして本気になれないんでしょ。
この完全な一人妄想で、作者は号泣してしまうんです。

リア充かどうかとか、そういう問題じゃないんです。
子供が出来て育てるということは、一人の人間に本気で接しないといけない、ということ。
となると、無理にスマートな親を演じようとすると、ほころびが生じます。
コミュニケーションが苦手な作者は、コンプレックスを隠し持っているのが端々に描かれます
それ自体はギャグなんですが、この娘と一対一のシーンで本当の意味で噴出。
「それ以来なぜか少し気が楽になった」という一文が、ずっしり重いです。

奥さんもかつて、女の子派閥にはじかれてぼっちになった、重たい過去持ち。いやあよく描くなそれ。
そこでBL友達に出会うことで、道を踏み外しつつも幸せを掴みました。
コミュニケーションが苦手な人間が、子供にうまく接することは、この夫婦の経験談からいうと、可能。
ただそこに至るまでに、たくさんのストレスを抱えながら、本気で接する決意が必要でもあります。
うまーくギャグ化することで読みやすくしていますが、コミュニケーションが苦手なオタクならではの感覚はしっかり描かれています。
それでも、やっぱり幸せそうだから、読んでしまうんだよなあ。

にしてもこの娘さん、ウルトラマンフィギュアで「メビウス!男同士だけど結婚してください!」「はい!」と人形遊びをするとは。
特撮オタクと腐女子の遺伝子が、見事に受け継がれたんじゃないですかね……。

(たまごまご)