さてさて後半戦に向けて連載スタート。「木俣冬のイラストでもあまちゃん」
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夏ばっぱ(宮本信子)の容態が気になってはじまった「あまちゃん」21週「おらたちの大逆転」(121〜126回/8月19日〜24日)ですが、夏ばっぱはやきもきさせながらもあっという間に回復。
今週のメインになるのは、アキ(能年玲奈)のオーディションと恋のゆくえです。

太巻(古田新太)の初映画監督作として「潮騒のメモリー」のリメイク版「潮騒のメモリー 〜母娘の島〜」が製作されることになり、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)とその娘役のW主演ということで、娘役のオーディションにアキが参加します。
最初、アキを落とす気満々だった太巻ですが、徐々にアキの演技や存在感に捨て難い思いを抱くようになり、最終的にはアキを選びます。
決め手になったのは、ヒロシ(小池徹平)が撮って観光協会のHPにアップしたアキの本気獲り(4週24回)の映像でした。ヒロシ! なんだかんだ言って役に立ってるねえ。

オーディションに受かったアキを思わず抱きしめるミズタク(松田龍平)に視聴者騒然! 種市先輩(福士蒼汰)とはどうなる!? とやきもきする中、アキは映画クランクインに向けてレッスンを積んでいきます。

いろいろあったけれど、意外とアキは順調にスター街道駆け上っていっていますね。
彼女の大物感を表すエピソードといえば、オーディション中に、種市との恋を進展させていくこと。
今は大変な時期と遠慮がちな種市に、「生きてる限り大事じゃねえ時期なんてねえし」「仕事も先輩もどっちも大事だ」と言いきり、種市もその気になってグイグイと接近していきます。
若いふたりのラブラブ度数アップを、マネージャーのミズタクが猛反対。「一般男性、ルパン三世」などと言葉遊びで執拗に種市を責めますが、それが逆にふたりの恋の炎を燃やすことになってしまったのか、ついにふたりはアキのマンション(兼事務所)で一夜を共にしそうになりますが……。

種市先輩、アキとキスしようとして、緊張のあまり、海に潜るときの息継ぎの動き(頭を横にかしげる)をしてしまったり、アイドルと恋愛することは「100万人のファンを失恋させることだ」と説くミズタクに「100万倍の男になってやる」という論点ずれた宣言してみたり、卵焼きが上手だったり、いろいろがんばっていますが、どうもミズタクのキャラに押され気味。やっぱ海に潜っていないと魅力を発揮できないのでしょうか。

種市を演じている福士蒼汰は目下、「あまちゃん」では能年玲奈の相手役、「スターマン・この星の恋」(火曜10時フジテレビ系)では広末涼子の相手役をつとめるというモテ男ぶり。
しかも、能年は、90年代後半、さわやかのびやか系アイドルとしてデビューした広末の再来とも言われているので、運命的なものを感じざるを得ません。

それも手伝ってか、水曜123回で、アキが意味深な表情をして見つめると、種市は「なんだ?」と彼女の真意をはかりかねる顔をし、「今日ならいいぞ、ママもパパも家さいねえぞ」とアキが積極的に誘うシーンで、「スターマン」の広末演じる佐和子が福士演じる星男に「この顔したらキスしたいってことだから」と言うエピソードを思い出してしまいました。種市も星男も女子にリードされている感じです。

さて、土曜126回、オーディションに受かったアキをミズタクが抱きしめるところは、日本中のミズタクファンが憤死状態。
アキ「いて」
ミズタク「うるさい。何も言うな」
アキ「泣いてんのか」
ミズタク「うるさい。もっと泣くぞ」
しばらくギュッとして、
「よし、もう大丈夫。行こう」とアキの腕を引っ張って行く。

うわ。うわ。たまらん。ハグにもキュンですが、腕を引っ張っていくところがキュンなんですよねー。「卒業」的な感じで。しかも野郎鮨の裏口前での行為です。種市大丈夫か!
とにかく、あまりのミズタクの真剣さに、「もっと泣くぞ」を「もっと抱くぞ」と空耳して勝手にむやみにドキドキしてしまいましたよ。

ミズタク、やっぱりアキにマネージャー以上の思いを抱いているのでしょうか。
GMTよりアキを選び、不利な状況の中、アキを売りだそうと懸命になっていたミズタク。GMTが売れていくのを横目にどれだけ悔しかったことか。だから、喜びもひとしおでしょう。
琥珀の勉さん(塩見三省)に「原石やっと輝きました」と報告します。北三陸にいたとき、あんなに琥珀を軽視していたのに、いつの間にか、勉さんとホントの師弟関係になってしまっているところも、ええ話です。

そして、オーディションの結果に大きく寄与したヒロシ。合格の知らせを電話してきたアキに、まだ「好き」と宣言したものの、まわりがうるさくてアキには届かず。「おめでとう!」と明るく言い直すときの笑顔に男の悲哀を感じました。どこまでも影のある男!
結局ずっとアキを引きずっているから、つきあっていた栗原ちゃん(安藤玉恵)は吉田正義(荒川良々)のほうへいってしまったのですね。

吉田が大吉(杉本哲太)の理不尽な嫉妬のため捨てられた結婚指輪をみつけてリアスに入ってくると、そこには、足立夫妻(平泉成、八木亜希子)がいるという場面がありますが、結婚指輪は足立夫妻の関係性が修復したことの隠喩のようにも思えます。

種市、ミズタク、ヒロシ・・・とモテモテのアキ。アキを目の敵にしていた太巻までが
彼女の魅力に注目してしまいます。まあそれは恋ではないですが。なぜなら、太巻、鈴鹿と一緒に暮らしていたことが判明します。昔つきあってたんじゃなくて、今もつきあっていたという。じぇじぇじぇ事実! だから、鈴鹿は公私を徹底的に分け、タクシーをマンションの前で止めなかったんですかね(14週80回)。

そして、撮影前に猛特訓を。土曜126回の演技レッスンの場面は、太巻演じる古田新太によるアドリブだそうですが、アキに伝授した「生まれたての鹿のように」四肢をプルプル痙攣させる動きは、演劇界(主に小劇場)では有名な動きであります。「生まれたての子馬」とも言いますね。
殊に、宮藤官九郎が所属する劇団大人計画の主宰にして純喫茶アイドルのマスター甲斐を演じる松尾スズキの舞台でよく登場する動きなので、古田は意識的に取り入れたのではないでしょうか。

このある意味伝統芸が、好視聴率の朝ドラで、アイドル能年玲奈がやる日がくるなんて、ミズタクばりに「もっと泣くぞ」と誰かを抱きしめたいほどの感動です。

とまあ、ここまで、アキを取り囲む男子たちのことを書いてきましたが、
21週は女子もいいんです。
本気獲りでウニを四つもとったユイ(橋本愛)の雄々しいガッツポーズはもとより、アキと一緒にオーディションを受けたGMTのメンバーたちもいい表情をしているんです。
アキと共に最後のふたりに選ばれた小野寺ちゃん(優希美青)が、審査を待っているときの会話が印象的。
小野寺ちゃん「アキちゃんが呼ばれるような気がする」
アキ「いや小野寺ちゃんだべ」
小野寺ちゃん「ほんと?」
アキ「ごめんわかんねえ。でもどっちがよばれてもちょっとうれしくね?」
小野寺ちゃん「ちょっとくやしいけどね。でも国民投票とは違う」
アキ「ぜんぜん違うべ」
最初、女子的なほめ殺し会話をはじめるふたりでしたが、結局アキは正直にわからないと訂正。しかも、どっちが呼ばれてもうれしい気がする、というところに、正々堂々と闘い合った者同士の友情を感じます(審査員の椅子の背越しに、待っているふたりを映す絵がなんかいいんですよねえ)。

そして結局アキが受かったとき「ほんとだ、ちょっとうれしい」と小野寺ちゃんは微笑むのです。小野寺ちゃんの可憐さも手伝って大変叙情的な名場面です。
でも、アキが太巻のところへ向かってひとり審査会場に残った小野寺ちゃんの表情はプロとして負けた悔しさも滲んでいて、かわいいアイドル顔とはちょっと違っていました。
小野寺ちゃん、本物だぜ。

あと、一次審査で、アキが「鈴鹿さんの大ファン」と興奮気味に言って鈴鹿が抑えると、
入間しおりが、ふふ、という表情をします。これは、無頼鮨ではじめて鈴鹿ひろ美に会ったとき、入間が暴言を吐いて鈴鹿の機嫌を損ねたこと(13週78回)を思い出したのだろうと想像します。ここでアキは鈴鹿から「いつか一緒にお芝居しましょうね」と言われ、それがようやく実現することになったのです。

春子(小泉今日子)がアキのことを「地味で暗くて存在感も・・・・なんだっけ?」と彼女のことを表す言葉を忘れてしまいますが(正しくは「地味で暗くて存在感も個性も華もないパッとしない子」です)、それだけアキが、その言葉から遠く離れたということなのでしょう。北三陸にはじめてやってきてから、2年、アキはいっぱいいっぱい磨かれたと思うと、あったかーい気持ちになりますね。

アキの「潮騒のメモリー」のオーディションでは「母ちゃん、親孝行できなくてごめんなさい」というセリフが課題にありましたが、春子は現実に親孝行をしています。
自宅療養の夏の介護です。が、その目的は「絶対『ありがとう』っていってもらう」こと。「『おかえり』と『すまなかった』は聞いたから」と、「この親孝行絶対渡さない」と気炎を吐きます。
むーん……なかなか簡単には母子の確執は完全に解消されないんですね。ほんとこじらせています。
『ありがとう』『すまない』『おかえり』(ただいま)って三種の神器というか、家族にはこの3つの言葉が大事のように思えます。

さて、22週はいよいよ「潮騒のメモリー」撮影開始。原石アキのほんとの輝きはこれからです!
(木俣冬)

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