『ネットのバカ』中川淳一郎/新潮新書

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『ネットのバカ』。本屋で見たときに、ストレートすぎるタイトルに思わず笑ってしまった。それとともに、4年前に出版された『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)を思い出した。両方とも、ネットニュースの編集者として活躍し、ネットユーザーの心理に詳しい中川淳一郎氏が書いた本だ。似通ったタイトルの本が、しかも同じ著者が、今なぜ?

この疑問を解決するために、まずは『ウェブはバカと暇人のもの』の内容をおさらいしておこう。簡単にいうと、ウェブは進化したが、人間は進化していない。ネットユーザーの大半はバカと暇人、つまり普通の人。芸能ニュースのコメント欄が荒れ、些細なことで企業にクレームが殺到するのも、ウェブがバカと暇人のものだから。ネットを活用して売り上げや知名度アップを画策する企業があるかもしれないが、そんなの無理。だってウェブはバカと暇人のものだから……といった内容である。辛辣だが核心をついた主張の本書は、現在まで9刷を重ねている。

それから4年。『ネットのバカ』が出るまでの間に、Twitter、FacebookといったSNSが浸透し、東日本大震災の際にはSNSの利便性が注目された。この4年間で何が変わったのだろうか?

「何も変わっていない」というのが、著者・中川氏の主張だ。

この4年間の間にネットを席巻したのは、例えば「ネットを使ってセルフブランディングをしよう」という発言。それすらも中川氏は、勝ち組になれるのは最初の一人だけであり、あとはそいつの「クリックする奴隷」と切り捨てる。

「いや俺、別にネットで儲けようとか、勝ち組になろうとか思っていないし」という方にも、こんな経験はないだろうか。Facebookで友達の仕事への意気込みや充実した私生活、休日に乱発される食事とペットと子供の写真を見て落ち込む、ということが。

実は筆者、こういったFacebookのフィードを見て、いわゆる「Facebook鬱」状態になった経験がある。そのことをある友人に話すと「とりあえずiPhoneからFacebookアプリを削除したら?」と言われてハッとした記憶がある。そうだ、「見ない」という手段があったのだ。そしてこのアドバイスをネットではなく、リアルの友達から受けたのが大きなポイントだったように思う。

というのも『ネットのバカ』の最終章は「本当にそのコミュニケーション、必要なのか?」というタイトル。この章で中川氏は「そもそもの話になるが、そんなに人と繋がっていたいか?」「ソーシャルメディア上のその“友達”、本当に助けてくれますか? 葬式に来てくれますか?」と問いかける。これを読んでドキッとする人も多いのではないだろうか。そう、中川氏がこの本で最終的に言いたいことは、「本当に信頼できる知り合いをたくさん作れ」。事実、筆者は「本当に信頼できる知り合い」からアドバイスを受け、Facebook鬱状態から脱却できたのだ。

『ネットのバカ』を読んで痛感するのは「いくらテクノロジーが進化しようと人間は進化しないし、ネットの付き合いはリアルの付き合いに勝てない」ということだ。なんだかネット嫌いな頭の固い先生が言いそうなことだが、それが、ここ数年起きている間はPCに張りつきっぱなしという中川氏が辿り着いた答えである。
(坂本茉里恵)