俳句にかけた青春、っつったって俳句わかんないよ! それを俳句甲子園によってはっきり見せて、いかに青春が詰まっているかを描く『ぼくらの17-ON!』。5・7・5を作るために日常に目を向けるシーンもいいけど、ディベートで全力でぶつかりあう様が面白い。

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もし仮にね、息子か娘が「俳句部に入ることにしたんだ」って言ったら、いいねとかやめなさいとかじゃなく、十中八九ぼくだったらこう言っちゃうと思うんだ。
「渋っ!」
渋いよ! なんでそう感じるのか分かんないけど……少なくとも「若々しい」印象はなかったですすいません。

そんな俳句部の青春を描いた漫画が『ぼくらの17−ON!』。
最近はほんと漫画になってない文化系部活ないんじゃないかと思うくらいですが、そもそも俳句部って何するの?って話ですよ。

ぼくは俳句については、ほとんど知りません。
5・7・5で、季語を入れて作る。そのくらいしか知らない。
これを部活にするってどうすんのと思いきや、俳句甲子園なる大会に出るんですね。
……俳句甲子園て、なにするの?

主人公の久保田だって、俳句が元から好きなわけじゃなくて、渋い趣味だなあ、と思っていたんです。
うん、同じだねぼくと。
だけどそういう偏見が取り除かれて、視野が開けていくっていうのは、面白いんですよ。

「俳句」を題材にしているというのは、実は特異なこと。
他の文学などを取り扱う漫画と違うのは、「俳句」は短いがゆえに、漫画での誇張ができない。
だって、17文字全部載っちゃうじゃん。
フォントとか変えるものでもないですし。

例えば、久保田の句で、ぼくもよくわかんないけど好きだな、と思ったもの。
「遊具の穴抜ければ世界しかも春」
分かる人には何がどうよいのかわかるんでしょうが、まあ、ぼくにはわからないですよ。
わかんないけど、「なんかいいな」程度のモヤモヤが残る。
このマンガは、その「なんかいいな」が何故いいのかを、変に説明的にし過ぎない程度に、でもどこがいいのかを感じさせるような描写を入れます。

まず、絵の追加。これは大きい。
聞いた後の語感とイメージをいかに膨らませられるか、というのが重要な「俳句」で、イメージできるであろう光景を絵で一部だけ表現できます。

でも結局絵だったら限界あるんですよ。
絵で表現できないから17文字で表現する俳句があるわけで。
その俳句の面白さをさらに表現するにはどうすればいいのか?

そこで出てくるのが、「俳句甲子園」なんです。
俳句甲子園というのは実際にある高校生大会で、愛媛県松山市で行われます。
1998年からはじまり、2012年で15回を迎えています。割と最近ですね。

で、何をするのか?
まず5人チームを組みます。
次に、5人チームがそれぞれ、あらかじめ知らされているお題に沿った句を発表します。
(これは5人の中からベスト3句選んだり、即興だったりと試合によって変わります)
ここからが面白い。句に対するディベートをするんですよ。

相手の句に対して「こうではないのですか?」という質問を出しあうんです。
たとえば「黒がゆきオレンジがゆく金魚すくい」という句があるとします。
相手チームはそれに対して「金魚の色がオレンジと黒というのはありきたりかと」という質疑をします。
ありきたりだってさ! 結構痛いところキますね。
味方チームは誰でも補佐できます。詠み人じゃない人が「発見が語順で表現できてるんじゃないでしょうか」と句のよいところを言えば、その俳句のよいところが見えてくる仕組みです。

このディベートがえらい面白い。ものすごい体育会系です。
もう殴り合いですよ、ボクシングですよ。グローブにあたるのはさしずめ知識量でしょうか。
全身全霊で17文字をひねり出していくのは、鍛えあげられた筋肉みたいなもの。
ディベートで殴り合い、5人一丸となって全力で言葉を探りあい、相手に勝つ。
このディベートがあるからこそ、周囲はさらに俳句のよいところが見えてくる、優劣がつけられる仕組みなんです。
俳句の句会自体が、読者がお互いに語り合うことで新しい発見をするものですが、それが競技ディベートになるとプラスにもマイナスにも作用するのです。

作品に優劣があるかどうかっていうのは、確かに難しいところ。
ですが、少なくともこの作品では、高校生が力いっぱい俳句をつくって、それを持ち寄ってぶつけあう様子が描かれているので、どちらが優れているか、感じさせるものがあるかは明確化されています。
それによって、軽快な青春物語としての縦軸を保ちつつ、すごく丁寧な俳句講座にもなっています。

不純な動機ではじめたけどハマっちゃった系青春物語は好きです。
だってねえ。高校時代はモテたいんだよ。
でもそこから、モテることよりも夢中になっちゃうこと見つけるのって、いいじゃない。
この作品も、あくまでも青春物語メインなので、深く俳句を考えすぎる必要はないんです。
でも、久保田が俳句の面白さと熱さにハマっていくように、外に出た時一瞬だけ世界に目を留めて、季語を探してみたくなる魅力は存分に描かれています。

個人的にはチャラチャラしている割に弱気な久保田と、カタブツ生真面目すぎるけど時に優しさがにじみ出る山本の二人の関係が、ですね。
いいよね。

アキヤマ香(協力 佐藤文香)『ぼくらの17−ON!』

(たまごまご)