松田奈緒子『重版出来!』 帯には「編集者から書店員までのチーム戦、出版業界騒然の胸熱ドラマ!!」

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『男の鳥肌名言集』という本を出したので、ライター編集者の呑み会で「どうやったら重版できますかねー」と聞きまくった。
「こっちが知りたいですよ」「どうすればいいんですかねー」
ほとんどの返答は、そんなものだった。
ところが、ライターの大山くまおさんは違った。
「そもそも、どうして重版しなきゃいけないんですか?」
意外な、そして根本的な質問。
「いやいやーそりゃ重版したいでしょー」
呑み会なので、こちらの返事は適当である。

その後、大山さんは、
・無名著者が重版するのが難しい構造
・重版のメカニズム
・重版しなくても次々と本を出す方法
・売れても重版しないケース
・プロとアマの差に意味なき時代にどうプロでいるべきか
・電子書籍と重版は対立するのか
・重版のリスクを負うのは版元だけでいいのか
という怒濤の話を展開。
ここに重版マスターがいた!

たしかに大山さんは、『名言力』が11刷ロングセラー。今年の1月に出た『中日ドラゴンズあるある』も重版している。
「無名ライターが重版の経験から導き出した法則」を教わって御満悦。
ところが、酔っ払いの悲しさ。すごい話の断片は憶えていても、翌朝は細部を忘れている。
ぜひ、酔っ払ってない状態で聞きたい!

ということで、『男の鳥肌名言集』出版イベントにもかかわらず「どうすれば重版するのか?」という名言とは関係ないイベントを敢行。
7月27日(土)20:00〜22:00(19:30開場)で、『米光一成×大山くまおトークイベント「どうすれば重版するのか?』を下北沢B&Bに開催。
と、ステマですらない完全に自分のイベント告知モードすみません、ぜひ来てね。

大山さんとの会話で印象に残ってるのは。
「米光さん、『重版出来』読みました?」
『重版出来!』というのは、いま出版業界で話題のマンガだ。
著者は松田奈緒子。
「重版出来」は「じゅうはんしゅったい」と読む。
漫画雑誌「週刊バイブス」に配属された新人編集女子が主人公だ。
知り合いの編集者が読んで「泣いた!」「俺もがんばる!」なんてツイートしてたので気にはなっていた。
「いや、えー、まだ読んでないです」
「読んでください。あの中で、地味だけどいい本を、編集者、営業が、仕掛けて、書店が協力して、それでヒットするってエピソードがあるんですよ」
「ほお」
「それで、「なんでこんな漫画が売れたのかわっかんねぇわww」って声を聞いて、営業の人が心の中で叫ぶんです。「…なんで売れたかわかんないって? 「売れた」んじゃない。俺たちが―売ったんだよ!!!」って。「俺たちが売ったんだよ!!!」のところ見開きバーンって立ってる人たちが、営業と書店員なんです。著者はいないんですよ」
実際に読んでみると、ほんとうにそうだった。
いや、正しい。
著者は、いい作品をつくる。編集者はそれを支援する。いい作品を営業と書店員が売る。
そういうふうに回ることが大切だし、当たり前であるべきだ。
だが、いま、出版業界は、構造そのものが、激動し、変動している。
当たり前のことができなくなった。そう嘆く人も多い。
「ジェット返本」なんて言葉もあって、送られてきた本を書店が箱も開かずに返本するケースがあると聞いた。
昔からのやり方でやろうとしている人たちにはつらい状況になってきている。
だからこそ『重版出来!』のような、まっすぐ奮闘し、まっとうに働いている人たちの気持ちが、胸に迫るのだ。
一話目は、出版社の面接を受けるエピソードだ。
出版社の社長は掃除サービスのおじさんに化けていて、あろうことか、彼女は面接の現場で社長を背負い投げしてしまう!
大昔のマンガで繰り返されてきたパタンが最初に登場することで、このマンガが、ある種の古き良き世界を描いていることが伝わってくる。
ネットではなくリアルな現場で動き、頑張ることが報われる。
失われつつある出版の世界で矜恃を保って走るからこそ、ジーンとくるのだ(特に昔からやってきている出版業界関係者には!)。
第2集、9月発売とのこと。
激動する出版界を背景に、どう展開していくのか楽しみ。(米光一成)