(写真)漁協直営店のうな重

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 古くは縄文時代から食べられ、万葉集にもスタミナ食として登場するウナギ。そんな日本の伝統食が今、絶滅の危機にあります。22日は「土用の丑(うし)の日」。ウナギ激減の背景とは。

 (芦川章子)

 ウナギの名産地、静岡県浜松市。JR浜松駅前の漁協直営店「浜名湖うなぎ丸浜」は甘いしょうゆだれの香りが漂い、正午前にもかかわらず満席です。

 ここにウナギを卸している養殖業者の一人「堀内商店」の堀内和之さん(66)は「浜名湖産は冬を越し、じっくり育てたから味がある。やわらかいだけの輸入ウナギとは違う」と誇らしげに語ります。

稚魚不漁が原因

 明治創業の堀内商店も「かつてない経営危機」にみまわれています。原因は4年連続の全国的な稚魚(シラスウナギ)の不漁です。

 ニホンウナギ稚魚の漁獲量は1960年代の5%ほど。ウナギは人工ふ化技術が確立していないため、稚魚は全て自然界に頼らざるを得ません。取引価格は年々高騰し、今年は1キロ250万円にも。「白いダイヤ」ともいわれ、密漁者の摘発も急増しています。

 エサにこだわり、水質管理も24時間気が抜けないという堀内さん。「このままでは資金力のある大手しか生き残れない。うちもいつまでもつか不安でたまらない」。日焼けした顔に汗をにじませます。

 浜名湖養魚漁業協同組合によると、養殖業者は40年前の約300軒から27軒にまで減っています。

 環境省は今年2月、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定。国際自然保護連合(IUCN)も絶滅のおそれがあるとしてレッドリスト入りを検討し始めました。

 減少はニホンウナギにとどまりません。ヨーロッパウナギはすでにIUCNのレッドリストに入っています。

 「まさか絶滅まではと思っていた懸念が現実のものとして迫ってきた」というのは「世界的ウナギ博士」と称される塚本勝巳・日本大学生物資源科学部教授です。同氏は2009年、世界で初めて天然ウナギの卵を太平洋・西マリアナの海山域で採取することに成功しました。

 世界規模でのウナギ激減の理由について、乱獲とともに、河川のコンクリート化やダム建設、水質汚染といった環境悪化、海洋環境の変化をあげます。

 「謎に包まれた生態がやっと分かりはじめたばかり。完全養殖までは時間がかかる。まずは乱獲を規制するべき。親(天然)ウナギの完全禁漁とともに稚魚の漁獲制限もやむを得ない。国や世界レベルの対策は急務です」

 世界のウナギ資源が減りはじめたのは60〜70年代。一方でこれ以降、消費が拡大しています。そして世界のウナギ消費の7割は日本が占めています。

国内の消費拡大

 国内のウナギ消費拡大のきっかけは、1987年ごろから盛んになった中国での日本向けの養殖業にあります。中国では、ヨーロッパウナギの稚魚を空輸し、内陸部で輸出向けに養殖しています。ヨーロッパウナギの減少にも日本が深くかかわっています。

 『ウナギ 地球環境を語る魚』の著者でジャーナリストの井田徹治さんは「ウナギは年に数回の“ハレ”に食べるごちそうだったはず。大量消費に向かない資源を薄利多売ビジネスとして拡大させたことが最大の問題」といいます。

 中国の安い労働力で大量生産した加工品を含めて日本の大手スーパー、コンビニ、牛丼チェーン店などが大量に仕入れ、低価格での販売競争を今夏もくり広げています。

 井田さんは「ウナギが置かれた状況は、現代の自然環境や食生活のあり方を映し出す鏡のようなもの。土用の丑の日を、ウナギとの付き合い方を考え直すきっかけにしてほしい」といいます。

 ウナギ 世界で19種が生息。外洋で生まれ、シラスウナギになるまで半年。その後川を上り、5〜10年成長。川を下り、海の産卵場へと行き、夏の新月に合わせて産卵し一生を終えます。生涯で数千キロの旅をするといわれています。