図8 夫婦の税・社会保険料は「妻の年収」でどう変わるか?/図9 妻の収入で夫婦の手取額はどう変わるか?

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前回の比較を総合すると正社員と非正規が働き始めてから死ぬまでに稼ぎ・貰える額の合計は片や3億円台、片や1億円台。どんなに少なく見積もっても、おおよそ2億円の差が生まれる。

収入や保障の面で恵まれている正社員とはいえ、もちろん気楽な稼業ではない。仕事の責任は重く、長時間労働を強いられ、転勤で単身赴任させられ、陰湿な社内イジメや半ば強制的なリストラが横行する……といったことも起こる。仕事も上司も部下も自分では選べない。自分のやりたくない業務であることのほうが多いのだ。それでいて業績への貢献度でシビアに評価され、賞与が目減りすることは珍しくない。加えて最近は、低待遇な「名ばかり正社員」も増えている。

しかし、それでも「正社員でいる」ことの重要性は今後さらに高まるにちがいないと語るのはFPの山崎俊輔氏である。

「正社員の座を維持することは人生設計上とても大事です。スキルを絶えず磨き、社内外で通用する人材であることが正社員の座を揺るぎないものにします」

そうして正社員を全うすることで貰える退職金のありがたみはかなり大きい、と山崎氏は続ける。

「30〜50代は出費がかさみ、老後資金を蓄えることは優先順位が低くなります。その結果、貯金ができなくても退職金があればとても助かるはずです。また、年金支給開始が65歳以上となる関係で60歳以上も働ける環境を整える企業が増えていますが、正社員はそのまま継続雇用される可能性が高い。仮に年収250万円程度に減っても無収入の人に比べ65歳以降の生活が楽になります」

前出・井戸氏は大学生のキャリア相談をしているが、入社3年以内にあっさり会社(正社員)を辞める若者が多いことに、こう苦言を呈する。

「やりたい仕事ではない、自分の将来像が描けない、と言って3年未満で辞めた人を採用する企業はほとんどありません。つまり、せっかく厳しい就活を勝ち抜き正社員になったにもかかわらず、その後は非正規という雇用形態で働き続けることになるかもしれない。それは生涯で2億円以上の損をするかもしれないということを強く認識すべきです」

一方、稼ぎの面では不利な立場にある非正規の人はどうすべきだろうか。非正規は正社員に比べてその働き方にメリットもある。まず自分の好きな、もしくは自分に向いている仕事を選択することができ、定年退職などとは関係なく長く働き続けられる。50代以上になってリストラされ「使い捨て」される正社員も少なくないなかで、常にアンテナを張り経験を積めば独立・起業も視野に入れることができる。またそれが成功すれば収入面でも正社員を大逆転する可能性もある。

「そもそも収入が多くても幸せとは限りません。高収入の正社員世帯でも浪費癖で家計がボロボロの場合も多いですからね。非正規の世帯では節約と貯蓄を心がけ、その働き方に見合ったレベルの生活を構築することができれば幸せな生活を送ることは十分可能です」(山崎氏)

もちろん正社員への道を模索し続けることも重要だと山崎氏は言う。そして、人生のマネープランのひとつとして、「現在契約や派遣として働く職場で正社員の伴侶を見つける努力もすべきですね。共稼ぎは経済的安定として重要です。仕事は辞めずにしっかり稼ぎ続ければ教育費負担、住宅購入、老後準備も乗り越えられるはずです」(山崎氏)。

逆に言えば、非正規の独身者で将来、親の住む家を貰えるアテがないなら、マネープランも若いうちから綿密に組まないと老後が苦しくなる。

既婚男性が「一生に貰えるお金」をより多くしようと考えた場合、正社員と非正規の両方に共通して言えるのが、妻の収入を増やすようにすることだ。

「夫婦ともに正社員の世帯のメリットは、ダブルインカムだけでなく、双方に退職金があることです」(山崎氏)

「共稼ぎ夫婦でいずれも非正規雇用という世帯でも、正社員の夫と専業主婦の妻の世帯よりも世帯収入が多いこともありますからね」(井戸氏)

夫が正社員で妻が専業主婦の場合も、「妻が年収100万円の仕事を10年間するだけで、その1000万円の蓄えが老後(20年間だとして)に年金プラス月々約4万円のゆとりになる」(山崎氏)。

井戸氏の試算によれば、妻が130万円以上稼ぐと妻の社会保険料の支払いが開始され、夫と合わせた世帯の手取額は減少するケースがある(図8、9)。妻の収入が増えると配偶者特別控除が段階的に減るなどして夫の負担が高まり、せっかく妻が働いたのに損することもあるのだが、「妻がたくさん働けば老後に妻自身が受け取る年金額も増え、夫婦で一生に貰えるお金は多くなります」(井戸氏)。

各データの出典など/(9)「妻の収入で夫婦の手取額」は井戸氏による東京23区における試算(概算)。健康保険は協会けんぽ(東京都)で夫婦ともに40歳未満という設定。

(大塚常好(プレジデント編集部)=文)