はじめに

 「統一球の変更」がプロ野球の枠を超えたニュースになってしまいました。こうした隠蔽の流れを見ていると「日本的だなぁ」と思わされますが,こうした隠蔽を嫌うのもまた日本人ですね(隠蔽が好きな外国人がいるとも思えませんが……)。

 ニュースバリューが示すように,この出来事は,悪い意味で日本人の琴線に触れてしまいました。この先の処理を誤ると,プロ野球人気に大きなダメージを残してしまうのではないでしょうか。

 とはいえ,ボールを変更したこと自体は,野球のゲーム性を損なうものではありません。ファンとしては,NPBの体質には嫌気がさしたかもしれませんが,野球を見ることまで嫌になった人はそんなに多くはないと思います。今回の場合,現場は完全に被害者です。

 プロ野球へのダメージとして懸念しなくてはならないのは,協賛企業の撤退だと思います。コミッショナーのあの会見,個人的にはいろんな意味で歴史に残る会見だったと思いますが,あのような会見を見せられては自社のイメージを守るために広告を引っ込める企業が出てきても不思議はないと思います。それくらい,なんというか凄い会見でした。

 ファンからの収入と,企業からの広告収入はプロ野球を支える両輪だと思います。トップの保身のために車輪をひとつ捨ててしまうよりは,NPB全体の価値を守るような判断と処置を期待したいのですが……。


データから見る本塁打と得点環境の変化

 さて,改めて問題を考えるに,「変わってないですよ」としらばっくれていた事が騒ぎを大きくしていると思います。しかし,変更が発覚する前から疑惑は上がっていましたので,「やっぱりね」というのが今回の騒動の感想としてはあるのではないでしょうか。

 ここからは個人的な話になるのですが,「疑惑の声は上がっているけど,あくまで主観的な印象で語られているので,きちんとデータを整理すれば見えてくることがあるのではないか?」と思い,このテーマでシーズンオフに出る予定のセイバーメトリクス・マガジンにでも分析して寄稿しようと考えていました。

 しかし,今回めでたく変更を隠していたことが公になってしまいましたので,シーズンオフに分析を載せてもタイミングを逃してしまったといわざるをえません。

 というわけで,このタイミングを逃してしまったデータを大事に取っておいても仕方がないので,この場を借りてまとめておこうと思います。

 今回用意したのは,2006年から2013年5月31日までのNPBで開催された試合のデータです。このデータより各チームの1試合ごとの本塁打数と得点を集計しました。データは,「プロ野球ヌルデータ置き場」様を参照しています。


1試合あたりの本塁打の発生状況

 まずは,1試合あたりの本塁打の発生状況の分布のデータを以下の表1-1に示します。

表1-1





 このデータをパーセンテージで示したものを以下の表1-2に示します。

表1-2





 このデータをグラフ化したものを図1-1に示します。

図1-1

 特徴がわかりやすくなるようにシーズンによって色分けしていますが,2006年から2010年までのシーズンのグループと,2011年と2012年のグループはほとんどデータが重なっているのに対し,2013年はそのどちらでもない結果となっています。

 この特徴をより把握するために,データを

 2013年の記録は5月までのものではありますが,2006年から2010年までの合計のグループと2011年と2012年の合計のグループと2013年の3つのグループで比較したデータを以下の表2-1に示します。

表2-1





 このデータをパーセンテージで示したものを以下の表2-2に示します。

表2-2





 このデータをグラフ化したものを図1-2に示します。

図1-2

 このデータを見れば,より違いがはっきりすると思います。2013年の特徴として言えるのは,

 ・本塁打数が0本のチームが2011-12年よりも少ない。
 ・本塁打数が0本のチームが2006-10年よりも多い。
 ・本塁打数が1本のチームの割合は,2006年以降大差がない。
 ・本塁打数が2本と3本のチームが2011-12年よりも多い。
 ・本塁打数が2本と3本のチームが2006-10年よりも少ない。


 といったところでしょうか。2013年のデータは5月末までのものではありますが,それでもシーズンの約3分の1を消化したものです。サンプル数を考えれば,シーズン終了時点の記録が,現段階から大きく変わる可能性は低いと見て良いと思います。

 こうしたデータを元に,2013年は「ボールが変更していない」と仮定した場合,2011-12年の成績と比較して2013年の成績は,誤差の範囲に収まると考えてよいものか,それとも誤差にしては考えられないデータなのか?といった観点から分析をやるつもりだったのですが,ボールを変えたことを白状してしまえば,元も子もありません。ボールが変わったからこんな結果になったというだけです。


1試合あたりの得点状況

 ついでに,1試合あたりの得点のデータも見ておこうと思います。データを表3-1に示します。

表3-1





 このデータをパーセンテージで示したものを以下の表3-2に示します。

表3-2





 このデータをグラフ化したものを図2-1に示します。

図2-1


 このデータを見ても,2011年と2012年の異質性が目立ちますが,2013年はむしろ2010年以前の傾向に近いことがわかります。

 こちらのデータも本塁打と同様に,3つのグループに分けたデータを以下の表4-1に示します。

表4-1





 このデータをパーセンテージで示したものを以下の表4-2に示します。

表4-2





 このデータをグラフ化したものを図2-2に示します。

図2-2

 データをまとめると,やはり2010年以前と2011-12年の間くらいの成績になっていることがわかります。


データはごまかせない

 以上,データを見た限り,2011-12年と比較してやっぱり何か変わっていることを疑わせるような結果とはなっています。シーズンが終わったころには打球の飛距離のデータも出てくるはずなので,そうしたデータを見ていけば,もっとデリケートなことはわかると思います。また,こんなことをしなくても,反発係数を実際に調べてみればわかることでもあります。

 なぜこんなに簡単にわかってしまいそうなことを隠蔽したのでしょうか?2013年の開幕前に変えますといえば,そこまで反発は起こらなかったと思います(ゼロではないでしょうが)。これはもう2011-12年に統一球を導入したことに対する責任を負うべき人間が,その責任を追及されることから逃れるべく隠蔽したと考えるのが妥当ではないでしょうか。

 ボールにひとつひとつサインを入れておいて,自分に責任はないと仰る度胸は大したメンタルだとは思いますが(私だったら多分泣きながら謝っていると思います),その保身がNPBの価値を貶めるものであるのなら,NPB全体として採らなければならない道があると思います。

 秋まで温めていたネタが駄目になってしまったのですから,私のネタの分まで責任を取れとはいいませんが,せめてこのくらいは書かせてください。



おわりに

 データを扱う人間として言わせてもらうなら,ボールの変更の隠蔽については,一般に言われるような道義上の問題に加えてもうひとつ問題があります。それは,選手の評価基準が歪められてしまうことです。

 ボールという仕様が変われば,それにあわせて選手の評価基準も改めなくてはいけません。しかし,仕様の変更を隠蔽してしまうと,古い基準のまま新しい環境でのデータが評価されることになってしまいます。これでは選手を正しく評価することができません。

 別にデータを集めている人のために野球をやっているわけではないのですが,何もデータ分析のことだけに限られるはなしではありません。データとは記録であり,記録とはすなわちプロ野球の歴史だからです。

 プロ野球の偉大な先人達のデータを見ると,現在の記録とは単純に比較できないものも多々あります。こうした先人たちの記録は,現在の価値基準ではなく,その時代時代の背景を理解した上で評価されなくてはなりません。

 ボールの変更を隠蔽したということは,この時代背景を歪めようとしたということです。今をときめく選手たちも10年20年後にはほとんど引退しています。そのとき彼らはプロ野球の歴史として語られることになりますが,その際になるのが今の時代の背景となる情報です。もし,このままボール変更の事実を隠蔽し続けたとしたら,10年20年後に今の現役選手たちが受けるべき正当な評価を受けることが出来なくなってしまうところでした。

 隠し事をするのは良くありませんが,それだけではなく,選手たちの正当な評価を妨げようとしていたという自覚も持ってもらいたいところです。

 さて,今後の顛末はどうなるのでしょうか……。


データ引用&参照

 ・プロ野球ヌルデータ置き場