現在公開中の劇場アニメ「ハル」。キャラクター原案を担当したのは、『ストロボ・エッジ』『アオハライド』などで人気の少女マンガ家・咲坂伊緒。

「ハル」
絶賛公開中
CAST:細谷佳正 日笠陽子 宮野真守 辻親八 大木民夫
監督:牧原亮太郎 脚本:木皿泉 キャラクター原案:咲坂伊緒
(C)2013 ハル製作委員会

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現在公開中の劇場オリジナルアニメ「ハル」。シナリオを手がけたコンビ脚本家・木皿泉(妻鹿年季子)のインタビュー。後編は、SFラブストーリーの中心となる主人公のハル(ロボハル)とヒロインのくるみなど、キャラクター描写のポイントから尋ねていく。

(前編はこちら)

肉体を通せばリアルになるけど

――飛行機事故で死んでしまったハルそっくりのロボットであるロボハルと、ハルの恋人だったくるみ。メインキャラ2人に関して、こういうキャラにしよう。あるいは、こういうキャラにはしたくないといった狙いはありましたか?
木皿 アニメなので、頭で考えただけのキャラやお話になると、本当に薄っぺらい映画になると直感的に思いました。ドラマの場合は、肉体のある人が演じるわけで。例えば、私たちが古くさいセリフを書いても、若い人がやれば今どきのセリフになる。肉体を通せばリアルになるんですよ。今回は、絵が動くアニメなので、そこが怖かったですね。とはいえ、私たちがリアルに書けるわけじゃないし(笑)。
――映像や声優さんの芝居も含めて、非常に繊細な人間描写だったと思いますが。
木皿 はい。牧原(亮太郎)監督がすごく丁寧に(芝居を)積み上げてくれる方だったので。映画は、とてもリアルなものになってると思います。

やっぱり年寄りは出したい

――2人を見守る人々も魅力的ですよね。特に、ロボハルを作った荒波博士や、博士が勤めるケアセンターのお婆ちゃんたちが大好きです。
木皿 ウチ自体、旦那さんが自宅介護なので、訪問介護の人も、リハビリの先生も来るし。あれって、けっこう身近な状況なんですよね。それに、やっぱり年寄りは出したい。ドラマなんかでも、若い人や綺麗な人ばかり見せるのは抵抗があって。ちょっとは汚いものも見せたいっていうか……。って、汚いって言葉は違うけど(笑)。
――キラキラした若い人ばかりじゃなくて、という話ですよね(笑)。
木皿 そうそう! それは意識的に、対比させているのかもしれないですね。(ドラマの)「すいか」で、浅丘ルリ子さんの教授(役名は崎谷夏子)を入れたのも、遠いところから若い人を見る視点を作りたかったから。そういう視点を入れると、ドラマが重層的になるんです。この話のキャラクターは、(少女マンガ家の)咲坂(伊緒)さんが描かれた美男美女で。本当に可愛いですよね。それを生かすためには、そういう(綺麗な)世界を描くのではなくて。もっとリアルな世界の中で、咲坂さんのキャラクターをよりリアルに感じるみたいにできたら、すごく良いじゃないですか。
――より血の通ったキャラクターになるわけですね。
木皿 ええ。私たち(木皿泉)が入って、ちょっとダサく、雑になることで生まれる面白さもあるんじゃないかなって思ってます。

恋愛物にしたいと思ってた

――ロボハルのベースになっている作業ロボットの名前が「Q01(キューイチ)」だったり。ルービックキューブがキーアイテムになっていたり。ドラマ「Q10」との繋がりを感じる要素も多いのですが。これはファンサービス的な感覚ですか?
木皿 いや、無意識なんですよね〜。自分の中では、「Q10」とは違う作品だと思ってます。でも、この人(WIT STUDIO社長・和田丈嗣プロデューサー)も勝手に、「Q10」「セクシーボイスアンドロボ」「ハル」で、「ロボット3部作」だって言ってるし(笑)。まあ、ロボットの扱い方みたいなところは似てるし、同じなのかもしれないですけどね。ただ、「Q10」のときに「恋愛物で」と言われながら、恋愛物にはなりきらなかったので……。
――そうですか? 僕は、高校生男子とロボットの恋愛物だと思いましたが。
木皿 自分では、恋愛物になってたのかなって微妙な思いが残っていたので。今回は恋愛物にしたいとは思ってました。河野(英裕)プロデューサー(「Q10」などを担当)に、「恋愛物も書けるぜ」って言いたかったし(笑)。
――「ハル」は、完全に恋愛物でしたね。人間と、死んだ恋人の身代わりロボットの恋愛という切ない恋愛ではありますが。
木皿 う〜ん。正直、咲坂さんや監督がいたから恋愛物になってるのであって。私の元々の話は恋愛物になってないんじゃないかなって気はします(笑)。
――ええ? そんなことはないと思いますが……。

若い人に観てもらいたい

――僕は試写で「ハル」を観て、今後も木皿さん脚本のアニメをぜひ観たいと思ったのですが。木皿さん、ご自身としてはどうですか?
木皿 そうですね……。監督さんがどう思ったかですよね。きっと納得して無いんじゃないかなと思うんですけど……。
和田 (驚いた表情で)いやいやいや。
木皿 してくれてるのかな?
和田 してくれてますよ!(笑)
木皿 ホントに? でも、次があるなら、今度は牧原監督のやりたいことをある程度すくって。それにウチも(アイデアを)乗せていくって感じにしたいですね。今回はウチが作ったイメージを、さらに(監督が)飛躍させて作ってくれたので。
――木皿さんの脚本のイメージを、牧原監督が膨らませてくれたわけですね。
木皿 あのイメージの飛躍は、本当にすごいですよね。天才ですよ。アニメなので、絵はたくさんの人が描いてるけど、そのイメージは牧原監督一人の中から出てきてる。最初に絵コンテをもらったとき、「すっげー!」って言いましたもん。そのときは別の仕事があったんだけど、読み始めたらすごい楽しくて。結局、仕事しないで、最後まで見ちゃった(笑)。
――木皿さんもそこまで楽しめたという「ハル」ですが。観てくれた人にとって、どんな作品になって欲しいですか?
木皿 今回はアニメということもあって、10代の人に観てもらいたいと思って書いたところがあるので。若い人に観てもらって、どう思ったか聞きたいですね。
――なるほど。
木皿 お話としては(昔から)よくある話。だけど、今は無いような話の気もするし。きっと、若い人たちはすごく深いところで、この話をちゃんと拾ってくれる気がするんです。若い人はいろいろと切実な問題を抱えているから。そういうところとシンクロしながら、観てくれたら良いなと思います。まあ、本音を言えば、年とか関係無く、みんなに観てもらいたいんですけどね。
――ま、当然ですよね(笑)。
木皿 年を取った人は、エンターテイメントとして、楽しんでくれるんじゃないかなって気がします。あ、ウチの母ちゃんが面白いと言ってくれたら、一番嬉しいですね。私の書いた話は、たいてい「分からん!」って言われるんで(笑)。
(丸本大輔)