『おやじ女子図鑑』フカサワナオコ/幻冬舎
「ラスト・シンデレラ」とのコラボ企画。帯に篠原涼子の推薦文あり。おやじ女子の「あるある」がいっぱい。当てはまり過ぎてこわくなりました……

写真拡大

ドラマ「ラスト・シンデレラ」(フジテレビ 木・22時)が人気である。
1話から7話まで回を増すごとに視聴率が上がっていくという異例の記録をつくった。残念ながら8話でその記録は止まったが9話でまたまたアップ。
残りの10話(6月13日放送)と最終回(6月20日放送)がどうなるか気になるところ。

人気の秘密はなんといっても、アラフォー・ヒロイン(篠原涼子)を誘惑する20代男子を演じる三浦春馬。
細マッチョ系の肉体と無邪気な笑顔の持ち主の三浦は、男っぽさだけでも少年っぽさだけでも物足りない、どっちもほしいという欲張りなアラフォーにドンピシャ。
天使かと思えば、ヒロインの知らないところでは悪魔っぽい表情も見せてくれて、かなりの高スペック・キャラだ。
にも関わらず全然濃くなくて、透明感を保っている三浦春馬に、ため息でちゃいます。

とはいえ、こんな無敵な男子も、ひとりではやっぱりドラマははじまらない。
もうひとり、気の置けないツンデレプレーを楽しめるヒロインの同世代男子がいるからこそ萌えるのだ。
演じている藤木直人も、ヒゲを生やしていても、酒ばかり飲んでいても、毒舌でも(役の上です)、爽やかさが残る貴重な俳優。
三浦と藤木、最強の2トップだ。

こんな年下と同世代の男子の間で揺れ動くのが、仕事ひと筋、10年彼氏のいないヒロイン・桜(篠原)。
ドラマは、桜があまりに女を忘れ過ぎて、とうとうヒゲが生えてきた!という衝撃的な場面からはじまる。
「シンデレラ」は12時過ぎると魔法が解けてしまう童話だが、「ラスト・シンデレラ」は、40歳過ぎたシンデレラがどうなるのか? という物語である。
もう一度、女を取り戻そうと思いはじめた桜は、合コン会場のホテルで偶然出会った、15歳も下のかっこいい男子・広斗(三浦)となりゆきで一夜を過ごす。彼はなぜか桜のことを好きだと追いかけてくる。桜もだんだんその気になるが、広斗にはある目的があって……。
一方、桜がつとめる美容室の店長でありマンションの隣人でもある凛太郎(藤木)は彼女の同期で、何かとぶつかる仲。でも、なんでも言い合えることが心地いいし、何かあると手を差し伸べてくれるのもありがたい。
10話と最終回の注目ポイントは、桜が、広斗と凛太郎のどちらを選ぶか、その一点のみ。
これはどこからどう見ても、女子の永遠のドリーム・三角関係の黄金パターンである。
少女漫画だと「花より男子」「はいからさんが通る」「ベルサイユのばら」、韓流ドラマだと「冬のソナタ」など、このパターンを挙げれば、枚挙にいとまない。それでも、なぜか何度も見ても飽きることがないのだ。
ご飯にお味噌汁はいつだって美味しいみたいなものでしょうか。

オーソドックスなドラマといえばそうなのだが、ちょっと待て。そうカンタンに片付けないでほしい。
黄金パターンの中でも、ちょいちょい進化しているように思うのだ。それはどこか。
オンナたちがピュアなプラトニックラブではなく、エッチに積極的であることが描かれているところである。
ヒロイン桜のふたりの女友達と合わせて3人の女性像を見てみよう。

桜は39歳(ドラマの途中で40歳になる)。10年間も彼氏がいなくて、当然、セカンドバージン状態。エッチの仕方を思い出そうと頑張る。

友人その1 志麻(飯島直子)は44歳。バツイチでエッチ依存症。トイレでやってしまうくらいがっついているし、挙げ句「へたくそ」と容赦ない。

友人その2 美樹(大塚寧々)は42歳。2人の子持ちで専業主婦だが、エッチレスに悩んでいる。夫の性欲を復活させようと自ら仕掛けていく。

女性のエッチものというと、80年代の「金曜日の妻たちへ」のような不倫もの、80年代から脈々と続く昼ドラ、「真珠夫人」や「赤い糸の女」などのドロドロ路線などが思い浮かぶが、「ラスト・シンデレラ」のようにサバサバと笑いも大いに交えて性を描くドラマは痛快だ。
ホルモンバランス、妊娠検査薬などの話題もサラッと出てくる。

女たちに比べて、男は保守的に描かれている。
桜のケンカ友達・凛太郎は、「おまえみたいに強さばっかりアピールしてると、男はだんだん自分は必要ないんじゃないかって思えて来るんだよ」と言い、甘えるべきと薦める。
人間は、常に誰かに必要とされていると感じてないと、なかなか自分の価値を見いだせない、というのだ。また、女にはつつしみが必要とも。
弱さを出してもらえないと男らしさが発揮できないなんて、言い訳だよなあ〜。

年下・広斗も、桜をリードしているようで、彼女の懐の大きさに甘えている節もある。だいたい、桜に接近したワケが、義理の妹に命令されたという、シスコンの面をもっているのだ。

しかし桜は、おやじ女子に対抗して乙女男子とでも呼びたい彼らを、でっかく包んでしまう。
何もできず、やたらつっかかってくることしかできない凛太郎に、「あんたさ、あたしのこと好きなんでしょ」とズバ。
好きな女子をいじめることでしか愛情表現できない小学男子のようとまで言う。これが決して悪口ではなくて、こういうふうに言って相手を気楽にしてあげているのだと思う。
このように、「ラスト・シンデレラ」では、自分からは何もできない男子に、女子のほうが手をさしのべていく。そこがいい。

ほかにも、志麻は、親友・美樹の旦那と危うく関係を持ちそうになるが、美樹の旦那と知ると、決して手を出さないという潔さをもっている。
さらに、旦那のEDを治すために、ひと肌脱ごうとする(肉体的ではなく精神的に)、人情まで。かっこいい。

美樹は、ホストクラブの男に騙されそうになるが、ちゃんと気づいて回避する。従来のドラマだと、騙されちゃってさあ大変! みたいなことになるものだが、美樹はそこまで世間知らずには描かれない。

ある程度の知性や良識をもって、ちゃんと自立している女性が恋や性を楽しむ描写は、女性脚本家(中谷まゆみ)ならでのものだろう。
「ラスト・シンデレラ」が放送されているフジテレビ木10時の枠は、「最高の離婚」(坂元裕二脚本)、「最後から二番目の恋」(岡田惠和脚本)と、おもしろいラブストーリーを放送する枠として定着をはじめているが、徹底して女性主体に描いた「ラスト・シンデレラ」は今後の方向性を探る上で重要な作品になったといえそうだ。

桜が最終的に、凛太郎を男にするのか、15歳も年下の広斗のトラウマをはらうのか、どっちにしても桜は強い。「ラスト・シンデレラ」はおやじ女子が女に戻る話でも、女の魔法が解けておやじになってしまう話でもなく、おやじ女子ならではの恋と性が描かれているのだ。
(木俣冬)