AKB48劇場にほど近いベルサール秋葉原で6月16日(日)まで開催中の「AKB48選抜総選挙ミュージアム」にて展示されている、選抜総選挙で第1位になったメンバーしか座れない椅子。ただ、今回の選抜総選挙で1位になった指原莉乃(HKT48)は開票イベント当日、結局この椅子に座れなかったようだが……。

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6月8日に横浜・日産スタジアムで行なわれた「AKB48 32ndシングル 選抜総選挙 〜夢は一人じゃ見られない〜」の開票イベントの終盤、選抜メンバーが決まる開票結果の発表は、まさに波瀾に次ぐ波瀾であった。

※今回のAKB48選抜総選挙の17位〜64位までの開票結果を受けての記事はこちら

選抜メンバーの順位のうち、最初に発表された16位には、私も投票したSKE48の須田亜香里(チームKII。以下、所属チームはこの春に発表されたものにしたがう)がランクイン。どこかに入ってくるとは思っていたが、初のAKB48シングルの選抜入りはうれしい予想外だった。

須田は、握手会でのいわゆる“神対応”でじわじわと人気を伸ばしてきた。だが、ステージ上でのあいさつでは、じつは「握手会の須田亜香里」という面ばかりがとりあげられることに悩んでいることを率直に明かしていたのが印象深かった。固定したイメージから脱却したいという、向上心の表れだろう。今回の選抜入りを機に、新たな一面が見られることを期待したい。

予想外といえば、板野友美(AKB48チームK)が11位と、総選挙で初めてトップテンから転落したこともそうだった。卒業をすでに発表しているだけに、票数もかなり伸びると思っていたのだが。ステージ上では、総選挙がじつは嫌いだったことを告白、それでも「ファンの方々が頑張ってくれたと知って、とても温かい気持ちを知りました」と、ファン思いの一面をうかがわせた。板野△

板野の最後となる総選挙でのあいさつに感慨にふける間もなく、続く10位の宮澤佐江の「SNH48専任宣言」にまた胸を打たれた。昨夏のAKB48の東京ドームコンサートにて、中国・上海のSNH48への移籍が決まった宮澤だが、就労ビザが下りないなどの事情からSNHとしてほとんど活動ができなかったこともあり、この4月の武道館コンサートでは古巣のAKB48との兼任が発表されていた。

しかし宮澤は、「彼女たち(現地のSNH48メンバー)の可能性は全然見えないけど、自分もいつ彼女たちとステージに上がれるかわからないけど、私はカッコ悪い姿を見せたくないので、一本に絞っていきたいと思います」と、自らの進退をきっぱり決めたのだった。ボーイッシュキャラで知られる宮澤だが、この決断もいかにも彼女らしいと思う。

「らしいな」といえば、12位の島崎遥香(AKB48チームB)と9位の小嶋陽菜(AKB48チームB)もそうだった。握手会でのそっけない対応(「塩対応」ともいわれる)で知られる島崎は、檀上でのあいさつもあっさりとしたものだったが、それでも司会の徳光和夫から「速報よりも順位が落ちてしまったけど……」と話を振られると、「去年は選抜に入れなかったので、本当にうれしい」と喜びを見せた。

一方、小嶋については、総選挙のたびに、速報や開票結果に一喜一憂していることが話題となっている。今回も先月22日に発表された速報では20位と、ツイッターでも選抜入りできるか不安をほのめかすツイートしていた。結果的に順位は9位で、速報後の投票で巻き返してくれたファンに感謝を伝えるとともに、「来年もし、総選挙に出ることがあれば、速報前に投票を」と茶目っ気を見せた。

NMB48のツートップ、山本彩と渡辺美優紀(いずれもチームN)は、それぞれ14位と15位にランクイン。そしてSKE48のツートップ、松井珠理奈(チームS、AKB48チームKを兼任)と松井玲奈(チームE)は、それぞれ6位と7位と、初の“神7”入りを果たした。4人ともAKB48のシングル常連である。ただ、山本は、ファンなどからよく「AKB48の選抜に入ると借りてきた猫みたいになる」と言われてきたという。ここから「猫かぶりはもう卒業して、野獣のように選抜のみなさんにくらいついて、そしてこれからも48グループを私がかき乱していきます」と決意を新たにした。

松井玲奈もまたステージ上にて、選挙後の握手会では毎回、ファンから順位を上げられなかったことを謝られていたと告白。それが今回は、一つの目標であった7位にランクイン。“SKE48のかすみ草”というキャッチフレーズなどからは線の細いイメージのある彼女だが、今後は「ギラギラいきたい」と力強く語ったのが、SKEファンとしてはとても頼もしかった。

さて、今回の開票イベントの会場がもっともどよめいたのは何といっても、5位に入った篠田麻里子(AKB48チームA)の卒業発表だろう。突然の、それも来月の故郷・福岡のヤフオクドームでのAKB48コンサートをもって卒業するとの宣言に、会場はどよめいた。

私が興味深かったのは、あいさつを一通り終えた篠田と、AKB48総監督・高橋みなみ(今回8位。チームA)とのやりとりだ。高橋が「(篠田が)離れていくのは寂しい。でも、ずっと前を歩いていてくれたので、その前を行く背中を見ながら、みなさんも押してあげてほしいなと思います」と滂沱の涙で語ったのに対し、篠田は「総監督はAKBに本当に必要な存在だと思うので、30年、いや100年頑張ってもらいたいと思います」と返した。行く篠田、残る高橋、というわけである。こうなったらたかみなには、宝塚歌劇団で生涯現役を貫いた春日野八千代の域に達するぐらいの気持ちでAKB48を続けてほしい。

今回の1〜5位の顔ぶれ……指原莉乃(昨年4位。HKT48チームH)、大島優子(昨年1位。AKB48チームK)、渡辺麻友(昨年2位。AKB48チームA)、柏木由紀(昨年3位。AKB48チームB)、篠田麻里子(昨年5位)は、考えてみると、順番こそ変わったとはいえ昨年と変わらない。それなのに、指原莉乃が1位になっただけで、あれほどのお祭り騒ぎになったのが面白かった。

15万を超える票数に指原は「私は孤独じゃないんだ」と喜ぶ一方で、先輩である大島を押さえて1位になったことに、「どうしましょう、優子ちゃん、すごく変な気にしてしまいそう」とあわてふためく。まさにヘタレキャラとして人気を集めてきた“さしこ”の面目躍如だった。ステージ上でのあいさつののち、カートに乗って会場をウイニングランした彼女だが……あれ、あの1位だけが座れる椅子には着席したっけ?

今回の選抜総選挙のキーワードに、「世代交代」「次世代」があった。前出の松井珠理奈(現在16歳)は次世代エースの代表格だが、順位発表後には、「世代交代って言われていたりするけど、やっぱり先輩方は近くで見ていてすごいって思うし、勉強になることがいっぱいある」と語った。昨年よりSKE48に加え、AKB48チームKのメンバーとしての活動を続けてきた彼女だけに、その言葉には実感がこもっている。それでも「ちゃんと世代交代というか、もっと若いメンバーが前へ出ていく機会があるといいなと思いました」と付け加えたのが彼女らしかった。

若手の珠理奈や島崎が選抜入りし、17位以下でもHKT48の中学生メンバーがランクインするなど世代交代を予感させるところも多々あった。ただ、その一方で、次世代のエース候補としてランクインを期待されながら、果たせなかったメンバーも少なくない。年々、層の厚くなっているAKB48グループだけに、票が分散されてしまったというのもあるのかもしれない。

卒業ラッシュが続いている48グループだが、渡辺麻友が「第3位という順位はまだ上を目指していけるということだと思うので、頑張っていきたい」と語っていたのをはじめ、ほかのメンバーからも来年を見越して「さらに上を目指す」という言葉がたびたび聞かれた。総選挙は、彼女たちにとってこの一年の総決算であるとともに、新たな一年の始まりでもある。さて、来年、48グループはどんな変化をとげているのだろうか。

※「AKB48モバイルサイト」では、今回の選抜総選挙での各メンバーのコメントなどくわしい情報を掲載している。この記事とあわせてチェックしてみると、より楽しんでいただけるはずだ。

(近藤正高)