『からすのおかしやさん』かこさとし/偕成社

写真拡大 (全2枚)

いずみがもりは、からすのまちでした。
いずみがもりには、おおきなきがにひゃっぽん、
ちゅうくらいのきがよんひゃっぽん、
ちいさいきがはっぴゃっぽんありました。
そのきのうえには、みんな、からすのうちがありました。

みなさん、おぼえてますかこのお話を。
そう、かこさとし(加古里子)作の絵本『からすのパンやさん』ですよ。
あー、子供のころに読んだよなー。
あらすじを忘れてしまっている人も多いと思うので書いておくと、物語はからすのパンやさんに4羽の赤ちゃんが生まれるところから始まるのである。からすだけどみんな違った色、オスの2羽はチョコちゃんとオモチちゃん、メスの2羽はリンゴちゃんとレモンちゃん。それぞれ体の色はわかりますね。元気なのはいいことだけど子育てには手がかかる。
ついには仕事がおろそかになってパンや家業は左前に。でも売れ残ったパンを子供たちのおやつにしたことから再び運が開けて、というお話だ。

物語もおもしろいのだけど、途中でいろいろな形のパンが出てくるのが楽しいのだよね。とんかちパンにきょうりゅうパン、かびんパンにおそなえパン、ヘリコプターパンなんてのもある。すいかパンは丸のままと切ったのと2種類。だるまパンは、かこさとし作の別の絵本〈だるまちゃん〉シリーズの顔をしているのですね。このページが楽しくて、児童館や学校の図書館などで、取り合いをしながら読んだっけ。もちろん今でも現役で、私がやっていた小学校の読み聞かせでは、毎年どこかのクラスで必ずこの絵本の出番があった。

その人気絵本、今見てみたら2010年9月には初版380刷を達成している。そして同年10月には2版1刷が刊行され、現在までに27刷に到達している。日本の子供なら誰もが目を通しているといっていい、文字通り国民的人気の作品なのである。

その『からすのパンやさん』に続篇が登場した。今度の主役はあの子供たちである。大きくなった4羽が、それぞれ手に職を持って自立するお話なのだ。長男のチョコくん(大きくなったからチョコちゃんから格上げ)が活躍する『からすのおかしやさん』、長女のリンゴさんが主人公の『からすのやおやさん』が先に刊行され、次女のレモンさんの『からすのてんぷらやさん』、次男の『からすのそばやさん』が今月になって世に出た。4冊はどの順番で読んでもいいのだけど、ゆるーいつながりがあるので、ここに挙げた順番で読むとその分だけちょっと楽しさが増すかもしれません。

かこさとし氏は1926年生まれ、東京大学工学部応用化学科を卒業して民間化学会社の研究所に勤務するかたわら、セツルメント運動という一種のボランティア活動に従事、『からすのパンやさん』を上梓した1973年に職を辞してからは作家として、また児童文化研究家として活発に著作を発表し、大きな功績を残している。
氏がなぜシリーズを再開させたか、という経緯は『からすのおかしやさん』のあとがきにあるが、この連作を手に取る方は物語を味わった後でぜひあとがきにも目を通していただきたい。子供と一緒に本を読むであろう大人のための、ちょっとしたボーナストラックとしても読める内容になっているからである。たとえば『からすのてんぷらやさん』は「いつもは静かで楽しい」いずみがもりに「思いがけない事件やわざわい」が起きる話である。なぜそういう話なのか、そして何をかこ氏が伝えたくて筆を執ったかは、ぜひ本を読んで確かめてもらいたい。ついでに書いておくと、『パンやさん』のあとがきにも今回初めて気づいた種明かしがあった。第1版のときにもおなじ文章だったか、ちょっと記憶がないのだが、大人になってから絵本を読み返すといろいろな発見があるものなのである。

もちろん『パンやさん』のあの楽しさは変わっていない。『からすのそばやさん』ではオモチくんたちの作ったそばが予想以上に売れたため、そばといっしょに、

はなみうどん
まよなかうどん
ゆうやけうどん

なども売ることになる。そしてそれがまたまた大好評だったので、

ごうけつうどん ごちそううどん
やまもりうどん あつもりそば
みけねこそば うさぎそば
わんわんうどん わんこそば

などもメニューに加わり、といった感じでどんどん品数が増えていくのである。ああ、この感じ、『パンやさん』のあのわくわくするページと一緒ですよ! 音読するとさらにニコニコ感が増していく。お子さんがいる方は、読んであげると絶対に喜ばれるはずだ。
2013年9月30日までに新作4冊を全部買った人には、オリジナルトートバッグをもらえる全員プレゼントも実施されている。もちろん私も全冊そろえたので応募します。

あともう1つ耳寄り情報を。
『絵本『からすのパンやさん』のパンをつくろう!』は、下にご紹介した写真のとおり、かこさとしの原作に登場したさまざまなパンの作り方を解説した、魅力的な料理本である。成型の仕方だけではなく、きりんパンやてんとうむしパンの紋様のつけ方まで教えてくれるので、この本のとおりにがんばれば、きっとあの絵本そのままのパンが作れると思います。絵本を読み返して『からすのパンやさん』熱が再発してしまった人はぜひどうぞ。
(杉江松恋)