童貞がテーマの雑誌創刊! 『ヤングコミックチェリー』は全編にわたって童貞・初心者を扱った、童貞力抜群にくさい雑誌。でも童貞がテーマってどうなっちゃうの??

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「処女」って響きはちょっと物語性あるじゃないですか。清らかとか、ユニコーン的なものとか。巫女とか。
しかし、童貞となると、割りとこれは言いづらい。話題にしづらい。童貞はかっこわるい、みたいな印象が世にはびこっているから。
でも本当にそうか!?

こんなポイズンな世の中に、ついに登場しました。
童貞専門コミック誌『ヤングコミックチェリー』。

この雑誌は主に「童貞」と「初心者」を扱っています。
つまり「ベテランではない新米」も、「童貞」という言葉の範疇です。「処女作」みたいなのと同じです。

童貞の漫画といえば、2つにわかれるでしょう。
「モテたい・ヤリたい」という熱心な性欲の方。
「童貞であることの強さ」という童貞力の方。
この2つの視線から、童貞を描いていきます。

表紙にもなっている『モテるマンガ』は、『マンガで分かる心療内科』でお馴染みのゆうきゆう×ソウの作品。
どうやったらモテるようになるのかを、お得意の心理学的見地から立証していきます。
これは割りと役に立つはず。「モテ術」ではなく、どういう心理がモテなのかを科学的に解析しています。

一方、『ナナとカオル』の作者甘詰留太の『ハッピーネガティブマリッジ』は今まで続いていた作品の移籍作。
主人公の佐藤啓太郎は極めて真面目な童貞男子。結婚するはずだった秋緒志麻子との仲はある出来事で破断に。
それでも彼女のことが好きで、遠距離恋愛で通い続ける彼。
現在童貞30歳。ああ、真面目で清らかで純粋で、見ていてキュンキュンする!

「モテようぜ!」「セックスしようぜ!」というテンションの作品もありますが、最終的に「童貞素敵じゃん!」という方向性の強い雑誌です。
原型は『ヤングコミック』という、コンビニ売りのちょいエロ雑誌でした。18禁のつかない程度のエロで、セクスありのコミックスを出していたのです。
それが、少年画報社の采配で、いろいろな雑誌を組み合わせて『チェリー』になりました。
セックス中心の本が、よもや童貞中心の本になるとか、想像もしませんよ。
でも、確かに今まで「童貞メイン」という雑誌はなかった。これは新しいかもしれない?

その他のコミックも、実に童貞力に満ちています。
『メンヘラちゃん』の作者琴葉とこによる『バージンコンプレックス』は、童貞ではなく処女をこじらせてコンプレックスに感じでいる23歳OLの話。
タイトルにコンプレックスとあるだけあって、セックス未経験者の心の機微の描き方はピカイチです。

環望の『ハードナードダディ』は、ガチオタクエロ漫画家男子の夫婦生活を描いた作品。結婚をしているからこそ童貞に対して語るというスタンスの面白い作品。
「あのなー、SEXなんて気持ちいーのはほんの一瞬! 趣味は一生だぞ」「女はめんどいぞー泣くわふてるわ気分屋だわ。そんなもののためにおまえはあ○にゃんを捨てるのか!!」
おお、かっこいい。一理ある。趣味はSEXと比べ物にならない!
ですが後輩の童貞くんはいいます。
「あ○にゃんとはSEXできないもの!!」
せやなー。脳内ではできるけどなー。解脱がたりない。ぼくもあず○ゃんとしたい。
そんな彼に、子供ができてしまった。さあ趣味に人生を費やせるか?

このへんはまだ「きれいな童貞・初心者」を描いたマンガなので、安心しておすすめできます。
でもこの本の真価はまだまだあります。

蓮古田二郎が描く『ちむちむチェリー』は、子供しかいない世界の話。
働く子供にはできないことを担当している孤高のヒーロー、それが「ドーテー」。
……ん! わからん!
もう「ドーテー」がゲシュタルト崩壊気味です、一冊目の雑誌にして。

そして究極は、ガロの臭いがプンプンする、下品で生々しい昭和を描く東陽片岡の『童貞おスナック「三千代」』。
元の絵を知っている人なら、いかにそれがすごいチョイスかわかるはず。昭和の汚らしくて貧乏で、しょんぼり肩を落としながらお酒をちびちび飲んだり女を買ったりするような、そんなマンガばっかりの作者です。
このブルース感がたまらないのですが、彼の薄汚さあふれるマンガと、コミックLOの表紙で有名なたかみちのマンガが一緒に載っているという事実。
中身は、童貞と野球についてスナックで語っているだけといういつもどおりの中身。
なんなんだこれ。

つまり、童貞だったり初心者だったりすれば、なんでもOK、というはちゃめちゃな雑誌になってます。
新人漫画賞の募集もあるのですが、それもテーマは「童貞」。
「素人童貞、セカンド童貞、中年童貞……。童貞というテーマが入っていればSFでもサスペンスでもなんでもアリ!!」
やべえ、童貞ワールド広すぎる。深すぎる。

その他、喜国雅彦のフェチズムマンガ『FET』や、半自伝的優柔不断漫画家マンガ『ハナムラさんじゅっさいプラス』、モテる部屋探しをする『たわまん』など、「モテたい・やりたい」か「童貞道を貫け」の二極。
濃いです。

実は最近、文学フリマやコミティアにいっても、オリジナル作品で童貞をテーマにした小説が増えてたりします。
うーん、なんかこう、この、……童貞ブームきちゃった?


『ヤングコミックチェリー』6月号

(たまごまご)