Kyon30〜なんてったって30年!
小泉今日子
ビクターエンターテインメント
2012年に発売されたベストアルバム
宮藤官九郎も選曲に参加している

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「1回2回勝ってどうすんだ。ゼロか10しかねえ」
うーん、かっけー台詞!
「スラムダンク」か「ONE PIECE」か、いやいやこれは、これはスーパーおばあちゃん・夏(宮本信子)の鳥肌名言です(39回に登場)。

1週、2週勝ってどうすんだってことで、先週の連続テレビ小説「あまちゃん」7週〈おらのママに歴史あり〉(5月13日〜18日)も全力で勝ち抜いた感があります。
なんてったって小泉今日子週。
ヒロイン・アキ(能年玲奈)が地元・北三陸市でアイドル扱いされていることに危惧の念を抱いていた母・春子(小泉今日子)。彼女自身のアイドルを目指していた過去が、ついに明らかになった上、封印していた歌が唄われたのですから、ドラマとしては相当大きなブースター週であります。

週明けの月曜(13日)小泉今日子がドラマオリジナル曲「潮騒のメモリー」を唄うというニュースが発表され、「あまちゃん」ファン、及び小泉今日子ファンは、いつ唄うのか、どんな歌なのかとワクワクしてテレビに向い続けました。
火曜日に高校時代に春子が作ったデモテープが出てきたところ、「残念時間切れです。15分って短いですねえ。というわけで明日ちゃんと聞きましょう」というナレーション(宮本信子)が入って、引っ張る引っ張る。
水曜日、ついに! と思ったら、既存の曲「初恋」で、「潮騒のメモリー」登場は土曜日という、当然ながら見事な戦略でした。

春子の気持ちを変化させたのは、海から帰ってきた父・忠兵衛(蟹江敬三)。これまで1年のうち10日しか陸で生活していなかった彼が、一度は漁師を引退する宣言をしますが、やはり海への思いが捨てられず、今一度漁に出る決意をします。
皆があえて黙っていた、春子がアイドルを目指していた過去をうっかり口に出してしまったのも忠兵衛でした(第6週)。
「田舎の人は腫れ物に触らないの。上辺だけの優しさと作り笑いで誤摩化すの。だから腫れ物はいつまでたっても引かないの」(37回)という春子の印象的な台詞がありますが、田舎に染まってない独自の時間と生き方をもった忠兵衛にしか、春子の凝り固まった気持ちを壊すことはできなかったのですね。

ちなみに、春子は先週、娘・アキから以下のように表されています。
元スケバンのやさぐれもの  あの異常な警戒心 被害妄想 (37回)
ちょっと痛い子だなって思うけどださくはないよ (38回)
ふだん不機嫌でがさつ(42回)
アキって容赦ねえ〜  

こんな散々なキャラなものだから、過去、春子は灯台の下にSTOPと書かれたところで東京の憧れと田舎への嫌悪を書いて悶々としていました。
でも娘のアキはそのSTOPを超えて海に飛び込んでいます(5回)
つまり、天野家では、忠兵衛とアキが世界の境界を行き来できる存在なのです。

世界を股にかける、かっけー忠兵衛の見せ場では、「星めぐりの歌」(宮沢賢治:作詞、作曲、大友良英:アレンジ)がかかります。
8回でこの曲が初登場したときも忠兵衛のことが語られていて、「海女が獲ったウニやアワビには家族のために海で働く漁師と留守を守る嫁の愛情がいっぱいつまってるんだ」という夏ばっぱ(宮本信子)の名台詞が登場したシーンでした。

で、アワビです。
38回で夏ばっぱが「アワビもらった」と喜んでいる回想シーンも出てきますが、アワビをとる海女が出てくるのが、三島由紀夫の「潮騒」。
問題の「潮騒のメモリー」に「潮騒」の名場面のオマージュ(?)が出てくるのです。周到ですわー。この歌の歌詞(歌詞は脚本の、現在監督作「中学生円山」公開中でもある宮藤官九郎によるもの)は、コミックソングか? という感じで、春子さんの苦労が忍ばれるってもんです。

「潮騒」は何度も映画化されていて、4度目のヒロインは山口百恵、5度目が堀ちえみで、どちらもアイドル事務所の大手ホリプロ制作。
次週予告にも出てきた「火を飛び越える」というエピソードも、アキがSTOPを超えたところと重なります。
春子独自のアイドル論で「(今はジャンルに棲み分けができているが)昔は全部アイドルがやってたの」と語られますが、アイドルはジャンルの境界も超えちゃうものであり、アイドルの絶対条件には「境界を超える力」があると「あまちゃん」では定義しているといえましょう。
国の違いというジャンルを超える父の旅立ちを祈る場で、春子が強い決心で封印していた歌を唄ったことは、とても意味深いです。
「あまちゃん」ってほんと隙がない。
歌詞に「早生まれのマーメイド」とあって、小泉今日子が早生まれ(2月4日)だし。

春子の高校時代からの葛藤を整理することで、いよいよアキの物語が本格的に動いていくことになるこの週で、新キャラ・水口琢磨(松田龍平)が登場するのもチェックポイント。
水口は大学で考古学を勉強していて、琥珀掘りの勉さん(塩見三省)に弟子入りしますが、なんとなくあやしい雰囲気で、弥生(渡辺えり)に「町おこしのスパイに来た」と疑われます。八戸のスパイと言われていましたが、北海道から来たほうが松田の出演映画「探偵はBARにいる」(2が公開中)シリーズつながりでよかったかも? 

それはともかく、松田龍平は、出演作「探偵はBAR〜」や「まほろ駅前多田便利軒」や「悪夢探偵」などを見ていると、世界の裂け目に存在して橋渡ししているようなつかみどころのない雰囲気がありますので、「あまちゃん」の世界にも、ひとつ違った世界を繋げてくれそうです。キャスティングも盤石過ぎます。

このように勝つために徹底的に作り込んでる「あまちゃん」ですが、ひとつ気になる点が。
松田聖子やチェッカーズなどをリアルに語り、80年代アイドルのことを検証しているにも関わらず、ホンモノの小泉今日子は彼女が出演している関係上か、今のところ出てきません。アイドルをメタ化した存在として歴史を語る上で重要なのに。みんなが春子の過去に触れなかったみたいに、あえて知らん顔でスルーしているんですねえ。
「あまちゃん」はリアルなように作り込まれていますが、完全にリアルな時間を語れない(語ってない)んです。
とすると今「あまちゃん」では2008年を描いていて、やがて2011年の東日本大震災も描かれるであろうと誰もが想像し、少しドキドキしているわけですが、もしかしたら、
違う時間、違う世界を書ける可能性もあるのではないかなあという気もして・・・。
宮藤官九郎は、2011年とどう向き合うかいろいろ考えているようですが、どうなるのでしょうか。

今週の「おら、ドキドキがとまんねぇ」は予告編で相当ミスリードが仕掛けられている気がしますが(このへんが民放のドラマの戦略っぽいよなあ)、今週も勝つしかねえべ。
(木俣冬)

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