連続テレビ小説「あまちゃん」オリジナル・サウンドトラック
ビクターエンターテインメントより6月19日発売予定

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連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK)第6週 5月6日〜11日 おらのじっちゃん、大暴れ  を振り返ります。

この週は、ヒロイン・アキ(能年玲奈)とその親友ユイ(橋本愛)がテレビデビューしたり、アキの誕生日もあったり、アキの母・春子の過去が徐々に明らかになってきたりと、「あまちゃん」を語る上でかなり重要な週ですので、しっかり抑えておきたいですね。

今までの振り返りレビューは、9つに分けて見どころを分析してきました。
今週は、月曜日放送の31回で、じっちゃんも交えた家族4人の朝食が、なぜか11人で食べることになるというエピソードがあり、それは脚本家の宮藤官九郎のドラマ「11人もいる!」(11年 テレビ朝日)にかけてるの?と思ったので、11人の主要キャラクターの動向に沿って振り返ってみます! 

1.北三陸大好き! 天野アキ(能年玲奈)

東京から母の故郷・北三陸にやってきて、海女になったアキ。
海女の仕事がお休みになる10月以降は、潜水士の資格をとるべく訓練に励んでいます。
最初の頃は、多少おばかなくらい純朴な少女という印象が強かったし、目下、高校の先輩・種市浩一(福士蒼汰)に夢中で乙女な面も見せるアキですが、回を増すごとに「うっせーな」などと怒鳴ったりして、やっぱり元ヤンキーで切れやすい母・春子(小泉今日子)の娘なのだな、と思わされる場面もちょこちょこ出てきます。
けっこう一筋縄ではいかないヒロインです。
でも、目の離せない感じもかわいいんだよなあ〜

2.アイドル一直線  足立ユイ(橋本愛)

アイドルを目指す、ユイ。
ミス★北鉄に選ばれた彼女と海女のアキのローカル人気に注目したテレビ局がテレビ出演の話を持ちかけてきたとき、ユイは逸る心を抑えて、スタイリストやヘアメイクがつくのか、事前にVTRはチェックできるのかなど、細かく確認します。
しかも「地元を利用する」という開き直りを見せ、方言までしゃべり出すのです。
それだけアイドルになりたい気持ちが強く、いろいろ情報を集め、若くして自己プロデュースにも長けているわけですが、耳年増になってしまっているところも否めません。
ユイちゃんも春子さんみたいにこじらせないといいなあと心配です。


3.元アイドル志望だった 天野春子(小泉今日子)

「あまちゃん」の中で重要な部分であるアイドルストーリーの、もうひとりの主役はアキの母・春子です。
これまで、彼女が高校生のときに故郷を出て東京へ行ったきり24年間帰ってこなかった春子に、何か秘密があることを匂わせていましたが、第6週でついに「アイドルになりたくて」東京に行ったことが、父の忠兵衛の口から明かされます。
アキやユイが祭りあげられることに対して妙に神経過敏なところがあったので、そうじゃないかと予感もありましたが、やっぱり・・・。
アイドルを目指してどんなことになったのか。「危ない輩」をしきりに連呼していた春子さん、危ない輩から危ない目にあったのか気になります。

4.うさんくさいテレビディレクター 池田一平(野間口徹)

アキとユイをテレビに出したディレクターで、「薄いサングラスの男性、薄いサングラスの奥の目」と形容されるいかにもな業界人・池田。ユイには「池田ってひとも適当でぼんやりしてるし」と軽んじられます。
こういうひとはどっちかっていうと、プロデューサーっぽいですけどね。

さて、「あまちゃん」のそらおそろしさは、アイドルや芸能の世界の裏側を描いているところ。
アイドルを目指す少女と、町おこしのために彼女を利用する大人たち、アイドルを取り巻くファンたち、それらを描くことで、アイドルの幻想をすべて剥いでしまうところです。

朝ドラといえば、ザッツ・ドラマという印象ですが、「あまちゃん」はドキュメンタリーのニオイも若干感じます。それは、訓覇圭プロデューサーの個性でもあるし(「ハゲタカ」「外事警察」「TAROの塔」などのリアリズム)、ドラマや歌に実在の人物を登場させることが多々ある作家クドカンの個性でもあるのかなと(今週は岩手出身の福田萌が本人役で登場)。

80年代のリアルスターや、まめぶなどの地元名産が出てくるかと思えば、架空の町・北三陸市、「潮騒のメモリー」という歌や「大吟醸 海鳴」などのドラマオリジナルが出てくるなど、虚構と現実が混ざり合ったおもしろい世界観になっていきそうな気がします。
そういう意味では、アキとユイが出た番組が、リーマンショックのニュースで途切れてしまうというエピソードも意味深。
2008年がドラマの舞台であることにも意味があるような気がしてきました。

5.大暴れしたじっちゃん 天野忠兵衛(蟹江敬三)

誰も口にしなかった春子のアイドル志望話を、しゃべってしまったのは春子の父でした。
それは「爆弾を落とす」と表現されますが、サブタイトルにあったじっちゃんの大暴れは、土曜日放送の36回で炸裂したのです。
じっちゃん忠兵衛が1年のうち10日しか地元に戻らず、あとは海に出ていることをアキに「人とは違う時間が流れている」と言わせることによって、誰もが言えないことを悪気なく言ってしまっても仕方ない人物となる。クドカン脚本のうまさです。

破天荒なじっちゃんですが、一年中世界をまわっているわけは「ここ(北三陸)がいいところだっていうのを確認するためだな」と言って、アキに「かっけー」と思わせる魅力的な人物でもあります。

6.帰ってきたお父さん 黒川正宗(尾美としのり)

北三陸は強い女で保っているように描かれていますが、男性陣も滋味あふれていると以前から主張していることですが、第6週で、じっちゃんが活躍することで、海の男たちの魅力も改めて感じさせます。
そんなじっちゃんとすぐに打ち解けてしまったのが、アキのお父さん正宗です。
アキの誕生日を祝うために東京からまたやってきました。
アキに添い寝して、アキだけでなく天野家の人たち全員にとがめられるエピソードは、朝ドラというより深夜ドラマの趣。

女性は、夏、春子、アキと三世代が描かれていますが、
男性も、忠兵衛、正宗という、夫であり父であるラインができました。
しかも、ふたりとも家族と離れて暮すという生活様式を奇しくも体現しているのです。
これは、震災で家族が分かれて暮している状況への問題定義でもあるのかなあ、なんて思いました。
→参考

春子は離婚した気で、紙の上だけの夫婦である(離婚届を未だ出してない)と言いますが、春子は左手のくすり指に指輪をはめたままなんですよね。
女心はリアス式海岸よりも複雑に入り組んでますな。

7.とことん報われない男 ヒロシ (小池徹平)

東京に破れて故郷に出戻り、くすぶっていたが、観光協会のWEB担当になったことで再生しはじめたヒロシ。
ところが、思いを寄せるアキがすっかり種市先輩に夢中で、ストーブの前に(引きこもりの表れ)に逆戻り。

春子に、アキには「るいがとひなきす」(逆さに読むと「すきなひとがいる」)だから諦めるように言われたあと、高校のプールの窓に「るいがとひなきす」と指で書くシーンは切なかったですし、アキの誕生パーティーで種市と出会ってしまうところも涙を誘います。
こういう悲しいエピソードにも、どこか笑いがまぶしてあるところがクドカン流。

小池徹平が男のやるせなさを滲ませて、「あまちゃん」は彼の俳優としてのターニングポイントになる作品と確信しました。
ユイとアキのマネージャーとなるヒロシ。まだまだ頑張ってほしいですね。

8.罪深い先輩 種市浩一(福士蒼汰)

第5週から登場し、アキに一目惚れされた、問答無用にかっこいい種市先輩。
第6週では、アキになにげなくミサンガをプレゼントして勘違いされたり、
潜水士の試験に受かったらデートしてくださいとアキに告白されたりしながら、
実はひそかにユイを見つめていて、視聴者をやきもきさせています。
「あまちゃん」はイケメンを優遇してないところが新鮮。


9.密かに重要キャラ アイドルオタク ヒビキ一郎(村杉蝉之介)

春子に「カルキ」と間違われる、アイドルオタクのヒビキ一郎。
たまにしか出てきませんが、ドラマを客観視する役割であり、視聴者とドラマをつなぐ役割でもあります。つまり重要な存在です。
「オタクは食いつくのも早いですけど離れるのも早いです」は、心に留めたい言葉でした。

それにしても驚いたのは、ユイが「ヒビキさんに相談しようかな」と彼に信頼を寄せているのかと思わせる台詞があったこと。悪い人ではないとは思うけれど若干うさんくさいのに、おいおい、ユイちゃん、大丈夫か、と心配になっちゃいました。


10.朝ドラOG VTR出演 斎藤由貴

下級生たちに「ねらわれ」?「ねばられ」?「ねじられ」?「ねぎられ」?「ねだられ」? と、みんなで悩むエピソードが、パパとアキの添い寝ネタと並ぶ今週のおもしろ場面でした。

この歌「卒業」(松本隆・作詞、筒美京平・作曲の名曲〜)を唄っている斎藤由貴は、朝ドラ「はね駒」(86年)のヒロインで、80年代を代表するトップアイドルでした。
クドカンの昼ドラ「吾輩は主婦である」(06年)にも主演している、ご縁の深さを感じる女優です。

11.耳を疑う者 聞き流そうとする者 聞いてなかった者

土曜日放送の36回で行われたアキの誕生パーティー(主要メンバー勢揃い)での、じっちゃんの爆弾発言のときのそれぞれの対応が、耳を疑う、聞き流そうとする、聞いてなかった(弥生〈渡辺えり〉)です。

こういう各々の言葉にならない表現は、舞台や映画だとなんの説明もなしに、俳優の視線だけで見せることが醍醐味ですが、「あまちゃん」では、それをナレーションで説明してしまいます。
わかりやすさを開き直ってメタシアター的に使っていることが面白い。

「あまちゃん」を見て育つ子供たちが将来的に行う表現は、おそらく新しいものになる。
「あまちゃん」は次世代の表現に多大な影響を及ぼす作品になると思います。


今週第7週は「おらのママに歴史あり」。いよいよ小泉今日子の歌唱が聴けるか!
カラオケで春子のために「潮騒のメモリー」を入れた正宗の真意もわかるのか!
今週も早起きするじぇ!
(木俣冬)

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