『みんなのあるある吹奏楽部』(オザワ部長:編著、菊池直恵:イラスト/新紀元社)
Twitterに集った「吹奏楽部あるある」ネタ350本以上のほか、人気の「神様シリーズ」、胸にジンと来る「顧問の名言」、名門吹奏楽部への突撃レポートなども収録。

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福山雅治と堺雅人、つるの剛士……3人の共通点とは?

と聞いてすぐにピンと来た方は間違いなく吹奏楽部経験者。
この3名、揃いも揃って吹奏楽部OBで、しかもホルン奏者だったという。ホルンやってると、将来モテるのか? と疑いたくなるほどのスリーカード(つるのは違う?)。吹奏楽部、恐るべし。

《吹奏楽部あるある007:有名人が元吹奏楽部で、しかも自分と同じパートだと知った瞬間、好感度が急上昇する》

こんなあるあるを紹介しているのが先頃上梓された『みんなのあるある吹奏楽部』。この中ではさらに、篠田麻里子・島崎遥香(AKB48)、指原莉乃(HKT48)、河野早紀(NMB48)、仲間由紀恵、磯山さやか、はるな愛、林家正蔵……などなど、他にも多数の芸能人たちが吹奏楽部OBだと紹介している。なんだか根性の据わった面々が多いのが、さすがは「体育会系文化部」の異名を持つ吹奏楽部出身者らしい。

書店ではいま、そんな吹奏楽部をめぐる2冊の「あるある本」が並び、鎬を削っているのをご存知だろうか?
ひとつは前作『吹奏楽部あるある』の人気を受けての続刊『吹奏楽部あるある2』(白夜書房/4月23日刊)。ただ、版元は一緒にもかかわらず編著者もイラストも変更され、ある意味まったく新しい作品となっている。
もうひとつが上述した『みんなのあるある吹奏楽部』(新紀元社/4月20日刊)。こちらは編著者・オザワ部長 、イラスト・菊池直恵……つまり『吹奏楽部あるある』の制作陣。ある意味ではこちらが本家本流と見ることもできるのだ。
「吹奏楽部」をめぐる仁義なき戦い……なのかどうかはよくわからないけれど、ひとつだけわかることは、今、吹奏楽部が熱い!ということ。

2冊を読み比べてみたところ、『吹奏楽部あるある2』の方がよりライトユーザー向け、『みんなのあるある吹奏楽部』が吹奏楽部にどっぷりハマっていた人向けのマニアックさが満載、という印象を受ける。ただ、発売日もほぼ一緒、内容に関しても「吹奏楽部にまつわるあるあると1コマ漫画」というフォーマットが一緒なので、「吹奏楽部のあるある本買ってきて」なんて頼もうものなら、親御さん書店で大弱り間違いなしです。

じゃあ、どっちを買えばいいのか? 2冊の一番の違いは、『みんなのあるある吹奏楽部』のほうがより足を使ったレポート記事が多く、吹奏楽部を世代的にも文化的にも多角的に切り取っている、という点。以下本稿では、『みんなのあるある吹奏楽部』の“吹奏楽部を巡る旅”の行方について紹介していきたい。

例えば、女子率の高い吹奏楽部における「男子」の悲哀を探る企画<あるある男子校吹奏楽部>。
実際にとある男子校吹奏楽部を訪ね、部員や顧問へのインタビューを通して、「部室が臭い」「共学校男子部員への対抗心」など、ある種期待通りの「あるある」を聞き出す一方、「中学時代は女子ばかりで入部しづらかった」「女子とはうまくはなせない。男子校だからこそ入部した」という声からは、桐島的なやるせなさ・もどかしさも見えてくる。

例えば、吹奏楽強豪校における「コンテスト」と「スポーツ部の応援」、どっちが大事なの? を訪ねる<あるある強豪校〜市立習志野高校の強さの秘密>。
顧問教師が発した「野球部が負けたら吹奏楽部の応援のせい、勝ったら野球部のおかげ、それがポリシー」とは、世の体育会系の面々にこそ聞かせたい名文句。公立校にもかかわらず野球部では谷沢健一・掛布雅之・小川淳司・福浦和也らを、サッカー部では廣山望、福田健二、玉田圭司らを輩出した影に、吹奏楽部の応援があった……なんてもっと広めたいあるあるだ。

そして、本書の中で訪ね歩くのは吹奏楽部だけではない。楽器店、ヤマハ、ミュージシャン、音楽レーベルなどなど、吹奏楽や広く音楽業界を支える大人たちからも「吹奏楽部」をめぐるドラマを引き出していく。
そもそも『みんなのあるある吹奏楽部』に登場する「あるある」は、編著者・オザワ部長が管理するTwitterアカウント(@SuisouAruaru)の9000人を超えるフォロアーから寄せられた「あるある」ネタを中心に構成されている。その中には、中学生もいれば強豪校の部員、遥か昔に吹奏楽部だった年配の方、プロ級の演奏技術を持つ人もいれば、楽器を触らなくなってウン十年という人もいるという。一説によれば、OB・OGを含めた日本の吹奏楽人口は500万人超! 立場や年齢・世代によって本来散り散りになっていた面々が「あるある」によって引き寄せられた、という点に、本書の意義と「あるある本」の可能性が垣間見えるのではないだろうか。

吹奏楽部は社会の縮図。
《吹奏楽部あるある060:社会に出てからしばしば思う「これ、吹奏楽部でもあったわ…》を噛みしめながら、また今日も悲喜こもごもの「あるある」が集まっていく。

(オグマナオト)