デモレビュー第2弾。5月4日に新宿で行われた「自由と生存のメーデー」デモで、半裸にブラジャーの男性がもっていたプラカード

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2013年5月4日。土曜日。快晴。
「自由と生存のメーデー」という貧困問題を訴えるデモが東京・新宿で行われた。
街宣トラックからダンスミュージックやヒップホップなどを流し、それに合わせて参加者たちがコールする。サウンドデモと呼ばれる、日本では比較的新しい手法のデモだ。
目測で150名前後の参加者が、約2時間にわたって行進した。

13時30分。集合場所の新宿アルタ前の広場。
カジュアルな服装の参加者が多いなか、人目を引く格好の者もいる。
全身ボーダータイツの女性。半裸にブラジャーの男性。パンクロッカーのような格好をした外国人。チマチョゴリ風のコスプレにネコミミの男性。楽器を持った人も散見され、政治的なデモなのかパレードなのかわからない。
マイクを持った男性が突然声を荒げた。

公安コノヤロー! そこの喫煙所にいるお前らだよ! 消えろコラ! 俺たちは何度も何度も不当逮捕されてきた! 敵は近くにいるんだ、オイ

訝しむ歩行者。罵声の先はスーツ姿の集団。片耳にイヤホンをつけている。俗に言う公安警察だろうか。一切動ぜずこちらを見つめていた。

このメーデーデモは10年前から始まり、今年で10回目。新宿に拠点を構えるフリーター全般労働組合が中心となり、各地から有志が集まる。茨城や長野、名古屋からやって来た参加者もいた。
しだいに列をなしていく参加者たち。街宣トラックのスピーカーから音楽が流れた。

YO!YO!東京! 新宿から始まるぜ今日! 俺たちは路上でつながっていく!

ライムが合図となり、デモが始まった。

「気をつけろ! 雑民の敵がいる」という副題のついた今回のデモ。参加者の主張は貧困問題に限らない。

時給を増やせ! 残業代よこせ! TPP反対! 上司が怖いぞ! 憲法改正ダメ!
社長もムカつくぞ! 有給よこせ! 普天間基地やめろ! しぶとく生きるぞ! 
ニートもひきこもりも障害者もメンヘラも、団結していこう!

参加者のAさん(46歳男性)は言う。
「他のデモだと主催者側でコールが決められていたりする。今回のデモはそれが緩やかだ。参加した理由は、自由と生存を求めて。憂さ晴らし、お祭りという側面もこのデモにはあるんじゃないかな」

祭りに似た空気が、確かにこのデモにはある。事実、音楽に合わせ踊っているデモ参加者もいた。タンバリンを叩く男性、ハーモニカをひたすら吹いている女性もいた。

参加者の多くは、非正規雇用者、フリーターであった。
Aさんもまた派遣労働者である。長期契約で、パソコン部品の製造作業に従事している。仕事はキツい。それでも、この派遣先を逃すと短期契約しか残っていないのだと言う。
「自分は23歳のころからずうっと非正規雇用。もう、ここまでくると勝負はついちゃっている。あと、老後ですよ。年金払ったっていう実績が難しいから。どうなるか本当に心配ですね」

半裸にブラジャー姿のBさん(38歳男性)。彼もまた、普段は非正規雇用者として倉庫で働いている。
「格差社会に反対します。貧富自体は悪くない。本当の格差社会って何か分かります? 世間から排除されることです。勝ち組と負け組です。僕もゴミクズ扱いされてきた。仲間はずれにされた経験もある」
どうしてそのような格好をしているのか尋ねてみた。
「これ? メンズブラですよ。アピールのためです。結構前のメーデーデモで男性がブラを着けていたのを見て憧れたんです。その次の年から参加しました。寒くないのかって? 被災地の人の気持ちになれば楽勝ですよ!」

参加者のなかには失業者の姿もあった。
Cさん(33歳女性)は生活保護の受給者である。自作のピンクの横断幕を掲げて行進している。そこには「どんなわたしも 大切なわたし」との文字。デモの参加理由は「自己表現のため」だと言う。
「生活保護へのバッシング? 私もね、最初は生活保護を受けるの、恥ずかしいと思っていました。でも、本当は私たちを守ってくれる温かい制度なんだ。そういうことが言いたくて」

Dさん(63歳男性)は無職。ドヤ街、山谷からこのデモに駆けつけた。
「参加理由? へへっ。盛り上げるためにね。職業は缶集め」
落ちているアルミ缶を集めて業者に引き取ってもらう。1kgあたり100円にも満たない。これが彼の生活の糧となっている。
「昨日、恵比寿で野宿者と失業者のメーデーがあったでしょ? みんな疲れちゃって来ないっていうからさぁ。俺だけ来たんだ。山谷代表としてね」

一方、Eさん(31歳男性)は現在、正規の会社員である。
「知り合いづてにこのデモを知ったんです。労働者の権利や規制緩和について関心があります。僕は正規雇用だけど、貧困は自分の問題だと思っている。結局、いつ首を切られるかもわからないし、正規だからだといって特別安定しているわけではない。このデモは、ある程度スローガンを決めた方がいいとは思いますけどねえ」

新宿アルタ前から始まったデモ行進も、甲州街道の初台交差点に差し掛かったところで終わりとなった。
われわれはデモ隊の先頭でラップを歌い続けていたFさんに話を聞いた。
彼は、半年前まで福島第一原発で除染作業員として働いていた。
「自分は、原発の下請け作業員だったんです。半年契約で下請け会社の正社員になりました。だけど会社の方の都合で、1ヶ月で突然首だと言われて」
福島でのFさんの仕事内容は建屋や水処理ではなく、他の作業員を作業現場に送り出すこと。また、作業員の被爆の程度を機械で調べることだった。Fさんは言う。
「ある作業員は、10ヶ月の作業で約20ミリシーベルトが観測されました。原発労働者の人のなかには仕方なくやっている人もいれば、誇りを持ってやっている人もいる。俺たちの要求としては、危険作業手当の支給、労働環境の改善。そして給与のピンハネをやめてほしいということです」

様々な境遇の人が様々な理由で参加していた自由と生存のメーデー。
歩行者の多くは足を止めたり、視線を送るなど、デモ隊を意識していた。だが、参加者のメッセージが彼らに伝わっていたかどうか、難しいところだ。

われわれは相当数の歩行者に話を聞いた。デモ隊は何を言っていると思うかという質問に、ほぼ全員が口をそろえて「よく分かりません」と答えていた。
彼らの叫びは届かなかったのだろうか?

耳をつんざくような大音量。拡声器からのコールに耳を塞ぐ歩行者もいた。
路上でのダンスには冷ややかな目が向けられていた。
ラップの声はひび割れて、傍らにいたわれわれですら、内容をうまく聴きとることができなかった。
タバコ屋のおばあさんは、露骨に嫌そうな顔をしていた。商売の邪魔になるからだ。

比較的、静かに行進をしていたGさん(40代男性)。彼は在特会などの行動する保守の立場だという。左翼色の強いメーデーデモに参加した理由を聞いてみた。
「特定の立場にこだわらず、見物したいと思って参加しました。自分も仕事は非正規。このデモに対する感想? お祭りな感じ。悪く言うと『ガス抜き』かな」

(HK 吉岡命・遠藤譲)