千客万来熱烈歓迎松木安太郎

僕の中で、サッカー観戦の最高のツマミとなっているのが松木安太郎氏の解説。そのことは何度かここでも書き散らしてきましたので繰り返しは避けますが、敷居が低く、盛り上げ上手な解説はテレビ観戦の価値を高めてくれるものです。

松木氏は現役時代サッカー日本代表として活躍し、監督時代はヴェルディ川崎を率いてJリーグ2連覇を達成した輝かしいキャリアの持ち主。しかし、それを超えて今、第3の人生でさらに輝きつづけています。多くの若者は松木氏の現役時代も監督時代も知りませんが、松木というオッサンのことは知っています。サッカー界が生んだクリーンな板東英二と言っても過言ではありません。

そんな松木氏が30日のフジテレビ「笑っていいとも!」のご出演されました。そこで松木氏は、全然話題に食いついてくれない司会のタモリさんと、特にサッカーに興味なさそうな会場の女子たちというサッカー的にはアウェーの雰囲気の中で、最初から最後までサッカーのことだけを話しつづけたのです。そして、そのトークスキルと赤ら顔で、サッカーの楽しさを大いにアピールすることに成功したのです。

ということで、近所のサッカーオヤジ日本代表・松木安太郎氏の奮闘について、30日のフジテレビ「笑っていいとも!」からチェックしていきましょう。


タモリさんはサッカーの話題にとりたてて興味はないぞ!


松木安太郎氏、「笑っていいとも!」ご出演。やはりこれはゴールデンウィークスペシャルなのか。連休の合間に浮島のように挟み込まれた平日を少しでも楽しくするため、「昼間から飲んでそうな人」ということでブッキングされたに違いありません。サッカーの話と酔っぱらい風のオヤジ…昼間からパブに来たような気分です。

↓松木氏が選んだオープニングトークはサポーターとの交流話!

タモリ:「(花を見て)これ何すか?MTK48」

松木:「あー嬉しい、これ僕もビックリしちゃったんですけど、私解説やってるじゃないですか。日本代表のサポーターなんだけど、解説をやっている僕を応援してくれるグループがあるんです」

タモリ:「MTKってMATSUKI?」

松木:「そうなんです!で、実は48枚、応援のマフラーを作ってくれたんですよ。僕の顔が描いてある。MATSUKIって入ってて。48枚の48枚目を僕に渡すということで、どこで渡されたと思います?」

タモリ:「どっか国内のサッカー…」

松木:「いや違うんです。この前のオマーン戦です。オマーンまでわざわざ来てくれたの。日本がオマーンに勝って解説が終わったんですよ。そしたら、ひとりマフラーをかけた方が来て『松木さーん松木さーん』って。日本代表よかったですねって言ったら『いやいや松木さんに会いに』って言って(渡された)」

(中略)

松木:「もう感激しちゃいましたよ!この花も、ありがとうございますね。いやー、なかなかいい顔に写ってますしね!」





タモリ:「ほぉ」
タモリ:「へー」
タモリ:「はぁ」

何か肩書自体が軽いボケみたいだな!

元サッカー日本代表じゃなく、面白サッカー解説者だろ!





3分近くに渡ってサポーターがくれたタオルのことを語る松木氏。この熱烈歓迎の心がどれだけ温かいか。まず、ケツの穴の小さい野郎なら、このタオルについて肖像権の侵害を気にするところ。しかし松木氏は感激し、喜び、中継でそれを着用までしているのです。人の厚意を最大限受け止める懐の深さ、人柄。

ごく自然に話をしていますが、これだって相当なことです。まず4月も末のこの時期、マフラータオルなんか持って歩くわけがありません。花が届くのを事前に知っていたか、つかみネタにしようと意図していたか、急遽スタッフを自宅に走らせたか。とにかく松木氏はこのトークのためにわざわざマフラーを持ってきたのです。

当該サポーター集団の報告では、この日の出演を知ってから急遽花の用意を始めたとのことですので、松木サイドやテレビ局側の仕込みではありません。まさに厚意と厚意のワンツーリターン。温かい気持ちに温かい気持ちで応えたからこそ生まれたオープニングトークだったのです。

こういう粋な対応をしてくれると、また何か楽しいことをしようという気持ちや、相手方を大切にしようという配慮が生まれますよね。楽しくなりますよね。そういう場所に近寄りたくなるじゃないですか。

……しかし、その話はタモリさんには刺さらず、「オマーンの海岸がキレイ」などの話題でお茶を濁されます。手強いぞタモリ。頑張れ松木。

↓つづいてのトークテーマは20年目を迎えたJリーグについて!
松木:「Jリーグ始まって何年か知ってます?」

タモリ:「何年ですか?松木さんがサッカーやってる頃はないですよね?」

松木:「ないです。僕は監督で1年目からですから」

タモリ:「20年?」

松木:「はい、20年なんですよ!だから今の選手…香川選手とか、もう世界のナンバーワンですよ、ヨーロッパでプレイでする選手がたくさん出てきましたけど、20年前の僕の監督時代を知らない選手がほとんどです。香川選手知らないですから。3歳くらいですから。まぁ本田選手で…」

BGM:「チャラチャッチャチャッチャッチャチャッチャラチャーチャーチャ」

タモリ:「あぁぁ…」
タモリ:「はいはい」
タモリ:「あっそうか」

香川にそれ聞くなよ!

1998年のセレッソ監督時代と2001年のヴェルディ再登板時代は、触れないほうがいい話題だと思ってトボけてるんだよ!

もしくは98年と01年の記憶が鮮烈で、2回も優勝したことが捏造された歴史のように見えてるんだよ!


松木氏は会場の若い女子、若い視聴者を引き込む狙いを持って話を始めた模様。ちょっとしたJリーグアンバサダーのような感じで、20年で大きく成長してきたJリーグを紹介し、新たなファンを獲得しようとする意思が顔から漲っていました。

……しかし、この話もタモリさんに刺さることはなく、「香川は俺を知らない」のところでBGMに強引に打ち切られてしまいました。手強いぞいいとも。頑張れ松木。

↓そして、次のトークテーマはサッカー解説の哲学について!
タモリ:「今(CM中に)話してたんですけど、面白いゲームばかりじゃないですよね」

松木:「そうですよ、サッカーの退屈なゲームはホンンンンッッットつまんないですからね!それをいかに楽しく見るかというね」

松木:「我々だとサッカーやってますから見方がありますけれども、初めてご覧になる方々は多分相当つまんない。やっぱりシュートが少ない、点が入らない、どっちもファイトしない、こういうゲームは最悪ですよね」

松木:「そういうときは私のジョークで!楽しんでいただければいいと思います」

タモリ:「そうですよね、名勝負って少ない。僕はラグビーをよく見るんですけどね、面白かったのは名試合を当時の選手が出てきて振り返るんですよ。名試合だから俺たちも見てて、こうだからこうしたんだろうな、こういうこと言ってたんだろうな、っていうのがまったく違うんですよね。サッカーもあるでしょ、違うのが」

松木:「絶対あると思うんです。違うのが。サッカーの場合、ゴールを決めた選手が異常に喜ぶじゃないですか」

松木:「あれやっぱり、狙ってないところに行ってる証拠なんですよね」

松木:「ほとんどが思いつきでドーンと撃ってますから、あ、外れたと思ったらキーパーの予測と違うほうに行ったとか。そういうケースがあるんです」

タモリ:「ほとんど偶然で入ってるんだ。だから大喜びするんだ」

松木:「7割そうだと思いますよ。これホントに決めた人には失礼で、何言ってるんだって怒られちゃいますけど。あと監督の采配とかもそうじゃないですか。ここで上手く代えたなんて言いますけど、全然違う理由で代えてる場合もありますし」

↓松木:「ホンンンンッッットつまんないですからね!」


タモリ:「あーそうすか」
タモリ:「そんなに!」
タモリ:「ふぅーん」

つまんないって言うときの顔wwwwwwwwwww

ホンンンンッッットつまんねぇんだろうなwwwww





これは僕も同意見なのですが、サッカーはただ見るのにはそれほど向かないエンタメ。ほかの多くの種目に比べて、面白味に欠けることは否めません。何の思い入れもない試合を見るなら「チャンス」「得点」「途中経過でのいいプレー」がハッキリと認識できる他競技のほうがよっぽど面白い。しかし、「つまんない試合はつまんない」と自覚し、その上で「初めて」の人を何とか楽しませようと腐心している…それが松木安太郎という解説者。

タモリさんのように「つまんない?」という感覚を持っている人や、「サッカーを見るのは初めて」という人向けに、この日のトークで教えてくれた「ホントにそうかな?」という視点はなかなか秀逸です。「喜びすぎじゃね?」「実は狙ってないでしょ?」「スローでチェック!」という流れを体験してもらうと、一瞬で流れていくサッカーのプレーの中にも駆け引きがたくさん詰まっていることが見えてくるもの。

そうやって疑いながら見て行く中で、「7割の偶然」と「3割の狙いどおり」を見分けられるようになれば、その頃にはサッカーが楽しめているはず。サッカーの良さを押しつけるのではなく、まずひと笑いして楽しんでもらうことを優先する。まず楽しませよう。喜んでもらおう。それが松木氏の解説哲学なのでしょう。何か、よく教育が行き届いた接客業のようです。だから松木解説は面白いんですね。

……と、イイ話をしたのですが、間が悪くスカイツリーからの放送テストが始まってしまい、松木氏の顔はブレブレです。頼むよ電波。頑張れ松木。

その後、松木氏は監督視点から「選手の体調は把握できるけど、メンタルの調子は見極めが難しい」という話や、失敗から立ち直りポジティブになるには周囲の支えと切り替えが必要だというトークを展開。それをキッカケとして、タモリさんが自ら話を始めます。始めたのですが、それは野球の話だったのです…!

タモリさんは野球の話でトークをサッカーから遠ざける!しかし松木氏はそれを強引にサッカーに引き戻す!
タモリ:「これ(ネガティブ思考)を感じない人がひとりいると思ったの。長嶋さん。長嶋さんに会う機会があったら一度聞いてみようと思ったの。聞いたんですけど、全然関係ない答えが返ってきたの。あーこの人は全然関係ないんだと思って。だから天才って言われてるんだと思って」

松木:「僕大好きですからね長嶋さん。僕現役時代3番つけてたんですよ。レギュラーになると好きな番号を選べる時代がありまして、僕は3がいと。何で3がいいかと言うと長嶋さん。長嶋さんの3がつけたくて、サッカー選手で僕は3をつけた。長嶋さんはすべての競技のスポーツ選手の憧れ」

タモリ:「長嶋…」
松木:「長嶋?」
両者:「長嶋!」





……と、ついにサッカーの話は最後までタモリさんには刺さりませんでしたが、どんな流れからでも話題をサッカーに戻すなど、松木氏は大いに奮闘しました。最後は会場アンケートで「オーストラリア戦のチケット買えた人」という質問をし、100人中2名ということで景品をゲットした松木氏。チケットを持っている2名に「一緒に応援しましょう!」と呼び掛けて出番を終えたのです。

熱烈歓迎。松木氏はいつもそんな風を吹かせています。初めましての人には優しい言葉をかけ、またおいでよと笑顔を向ける。見知った顔にはまた来てるのかと親しみを込め、気の置けない仲間となる。店のドアを開け放した酒場のように、中からは主に松木氏の楽しそうな声が響いています。

こういうオッチャンがもっと多くてもいい。僕はそう思います。天の岩戸とは逆パターンですが、サッカーという囲いの中から、誰よりも大きい声で「みんなおいでよ!」と叫んでいるのが松木氏だと思うからです。美味しい料理が並んでいても、敷居が高い会員制レストランじゃ意味がありません。ドアを開けて、客よりも先に一杯やり始め、店を覗く人の手をつかんで、おいでよ!君も飲めよ!と引きずり込む。そういう場所のほうがより多くの人が楽しめるはず。

サッカーを子どもたちに教えることは出来なくても、システム・戦術を解説することは出来なくても、そういうオッサンにはなれるかもしれません。松木氏の「一緒に応援しましょう」「つまらないときは僕のジョークで楽しんで」のココロ。もし女子とのデートで、初めてサッカーを見る機会があったら、僕も細かいことは抜きにして、松木氏のココロでナビゲートしようと思います。そして、夜にはその女子から逆に、初めて体験する何かを僕が教えてもらおうと思うのです。それはとてもとても楽しいデートになりそうですよね。

なお、私のGW後半のスケジュールは真っ白です。

真っ白です。

真っ白です…。


松木:「次の試合も見てくれるかなー?」 客:「いいともー!」