princessMONONOKE〜もののけ姫〜
2013年4月29日〜5月6日
ホール・ホグ・シアター
アイアシアタートーキョー

「princessMONONOKE〜もののけ姫〜」の千秋楽のもようをニコニコ生放送
2013年5月6日17時〜 
詳細は
http://princess-mononoke.jp 

(C)Princess Mononoke 実行委員会 In association with WHT.

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何かただならないものを見た感じがします。
宮崎駿監督、やってくれました。
説明いらず、バケモノクラスの人気アニメーション映画、ジブリの「もののけ姫」が3Dになって登場です。生です。ほんまもんの立体です。だって、人間だもの。
今、渋谷で、宮崎駿監督がはじめて許可した舞台版「もののけ姫」が上演中ですが、それは予想を超えたものになっていました。
千秋楽はニコ生で見ることができるので、一見していただきたいです。

きっかけは新進劇団から送られてきたパイロットビデオ。それを見て、これまで舞台化のオファーに首をたてに振ったことのなかった宮崎監督がOKしたのだそうです。
肩書きとか実績とか関係なく、可能性に賭ける宮崎監督ってかっけー!
とはいえ、コダマが浮遊する壮大で幻想的な森を、ヤックルに乗って駆けるアシタカ、激しく躍動するサンをはじめとして、モロ、乙事主、シシ神、ナゴの守・・・などなど、アニメだからこそ表現できた神々をいったいどうやって表現するのでしょうか? 気になります。

見に行ってみました。劇場はNHKホールや渋谷公会堂のそばのアイアシアタートーキョー。キャパ1000人ほどの小さ過ぎず大き過ぎない空間です。
入り口前には「もののけ」ファンが期待に胸ふくらませてうじゃうじゃ。
みんな気になるよね、やっぱ。とか思いながら、ロビーに進みます。
宮崎駿監督や鈴木敏夫プロデューサーから贈られた花を眺めつつ、客席へ。

生き物の息吹が聞こえる薄暗いステージに緑の照明が当たって幻想的な森ができていました。舞台後方には滝が流れる森の映像があって奥行きが出ます。
椅子の背のカーブがもたれやすいなあと思って身を委ねていると、ちっちゃいコダマが出てきました。
パペットを女優がふたりで動かしているのだけれど、コダマが生きているように見えてきます。ややヤンキー座りでコダマを動かし続ける女優の脚力ハンパない。
つか、驚いた。女優、外国人でした。
そうです、「princessMONONOKE〜もののけ姫〜」はイギリスの劇団ホール・ホグ・シアターによる公演なのです。
出演者、1名の日本人をのぞいて全員外国人。台詞、英語。日本語訳は字幕。でも「侍」はSAMURAIのまま。日本語の歌もあります。
ジブリの絵柄とはイメージが違う彫りの深い外国人たちですが、現代日本人が演じるよりも距離があって、作品のファンタジー性を高める気もします。
生演奏もムードあります。

台詞は英語ですが、話はほぼアニメに沿っているので、アニメを見ている人なら筋を追えますが、念のためあらすじを記しますと、
北のエミシ一族・アシタカはタタリ神に呪いをかけられ、それを解くために西に旅立ちます。たどりついた森では、人間と神々(もののけ)が戦いを続けていました。アシタカは、森を守る犬神一族と行動を共にする人間の娘サンと出会って・・・。
という物語、冒頭ではアシタカとタタリ神の死闘が繰り広げられます。

タタリ神の本体は大量のビデオテープ! 斬新! しゃかしゃかした感じが不気味さを煽りました。
闘うアシタカは、大人になったダニエル・ラドクリフ君みたいな感じの青年。脱いだら、彫刻みたいな白い肌にムキムキじゃない超薄型しなやかそうな筋肉。
アシタカが乗る大カモシカ・ヤックルも人間がやっていて、頭部は人形で、乗っかる時はアシタカを背負うような形になります。
ヤックル俳優、待機しているときも、ずっと鹿的な細かい動きをしているのが愛おしい。
あ、あれだ。「ライオンキング」的な感じです。

サンは小柄な女優が演じています。体が柔らかそうだし、よく動きます。
彼女と行動を共にする犬神モロは、紙粘土みたいなもので作ったパペットを3人で操演。
ひとり頭、ひとり前足、ひとり後ろ足で、巨大さも作り出せ、かつ生き物の繊細な動きが再現されます。
あ、あれだ。「巨神兵東京に現る」みたいな感じです。
巨神兵の動きは3人の操演スタッフによるものなんですよね。
(参考→文楽がなければ巨神兵はなかった「巨神兵東京に現わる」監督補・尾上克郎に聞く)

イギリスで生まれた演劇「戦火の馬」(スピルバーグの映画の元になったもの)とも言えます。どっちにしても文楽人形の影響下にある表現です。

次々現れる乙事主、シシ神もパペットを人間が操っています。
俳優が動かすパペットの独特な動きが、人間とは異なる存在感を作り上げます。
自由自在のアニメと比べたら動きは断然不自由ではありますが、これはこれですごく意義深いアプローチです。
なぜなら、こんなふうに人形に魂を宿らせることはアニミズムにつながっていて、神と共存していた時代の物語「もののけ姫」の世界観にふさわしい表現といえるでしょう。
さすが、論理的な演劇の国イギリスです。勉強してるなー。

ほかにも、衣裳はすべて古着、ビニールやペットボトルなどの廃材を様々な自然や小道具に見立てるという手法が使われたり、ダンスで感情を表現したり、イマジネーションに溢れています。
演劇好きなら、NODA・MAPを思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。
非常に芸術的な「もののけ姫」になりました。

廃材を利用するというアイデアは、森を守るエコロジー精神にもつながって高いメッセージ性を感じさせます。
舞台化を希望して宮崎駿監督に連絡をしたというイギリスの劇団ホール・ホグ・シアターのアートディレクター アレクサンドラ・ルターは「もののけ姫」が好きで演劇化したいと考えたとき、ただアニメの表層をマネするのではなく、描かれた本質に迫ったのですね。
日本公演に先駆けて、イギリスで行われた公演は、チケットが早々に売り切れ、本番も好評だったそうです。
驚くべきは、この劇団のメンバーたち、数年前に大学を卒業したばかりの若者たちなんです。それにしてはアイデアや身体性のレベルが高くてビックリ。

ただ、アクションシーンは日本の刀というよりやっぱり西洋の剣使いだなあと思いましたが、それはご愛嬌。アジアとヨーロッパ文化の違いを考えるさせる好場面です。

ゴールデンウイーク中ということもあって、地方から見に来ている方々も多いようですが、
行けないよ〜という方は、千秋楽公演をニコニコ生放送で見ることができます。
宮崎駿を動かした、海を超えたジブリファンの感性、ぜひ、この目で確認していただきたいです。
(木俣冬)