『ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』文芸春秋が創業90周年記念として創刊したジブリ文庫の一冊。

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『風の谷のナウシカ』の制作現場。不眠不休で働いている。
「だが、このままでは公開に間に合わない」
宮崎駿が関係者を集めて言う。
「プロデューサーの高畑さんの意見をまず聞きたい」
“ところが高畑さんはなかなか口を開かず、やっと開いたと思ったら「間に合わないものは仕方がない」。”
宮崎駿は「これ以上相談しても仕方がない」と、間に合わせるために絵コンテを描き直す。
このときの幻の絵コンテには“巨神兵と王蟲の激突シーンもありました”。

うはー、観たかったなそのシーン!
『風の谷のナウシカ』ファンなら、あれこれ妄想してしまうエピソード。これを語っているのは、ジブリのプロデューサー鈴木敏夫。
『ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』の中の語り下ろしだ。
これ以外にも「風の谷のナウシカ」ができるまでのエピソードがふんだんに語られる。
アニメ雑誌をやっていた鈴木が初めて宮崎駿に取材を申し込んだときの返答もすごい。『太陽の王子ホルス』について一言コメントほしいので電話する、が。
“「あらましは聞きました。僕は取材を受けます。その代わり八ページじゃなく一六ページにしてください。この作品を語る上で、組合活動のことなどちゃんと話しておかなければ自分の言いたいことは伝わらない」”
ページを倍にしてくれ、と! いや、その前にそもそも一言コメントほしいだけなのに。
結局、このとき鈴木は取材を諦める。
その後の出会い。宮崎駿と映画をつくるために雑誌『アニメージュ』で漫画連載をはじめた経緯。高畑さんにプロデューサーを依頼するとき、呑めない日本酒をのんで泣き出してしまう宮崎駿。制作会社を探す困難さ(“とにかくみなさん、口を揃えて同じことを言いました。「宮崎さんが作るのならいいものが作れるだろう。それはわかっている。でも、スタッフも会社もガタガタになるんだよ。今までがそうだった」”)。そして実際にスタートする過酷な現場。
鈴木敏夫の語り下ろし「汗まみれジブリ史 今だから語れる制作秘話! “賭け”で負けてナウシカは生まれた」だけでも、ナウシカファンにとっては大興奮だが、それだけじゃない。
充実している。
『ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』は、文春ジブリ文庫第1弾のなかの1冊。
「風の谷のナウシカ」に関するエピソード、対談、エッセイ、論考がつまった318ページの文庫だ。
再録は、
・公開前年の高畑勲と宮崎駿の映画『風の谷のナウシカ』の基本設定をめぐる対談。
・宮崎駿による「『ナウシカ』誕生までの試行錯誤」のテキスト。
・島本須美(ナウシカの声の人です)の制作現場訪問記。
・巨神兵の原画担当の庵野秀明インタビュー。
など『風の谷のナウシカ』の制作現場に迫る内容。

書き下ろしテキストは、それぞれの視点でナウシカを語る。
世界各地の辺境に極限生物を探索する長沼毅のテキスト「腐海の生物学」。
“ナウシカという少女の存在が、耐え難かった”二十代半ばのころを振り返る川上弘美「ナウシカの偶然」。
タクラマカン砂漠の楼蘭という国とナウシカについて椎名誠が記す「夢と生きる力を与えてもらったナウシカ」。
など。

巻末の大塚英志による解題は、「ジブリの教科書シリーズ」で継続され、高畑と宮崎を軸にしてジブリの歴史が語られるものになるようだ。

文春ジブリ文庫、5月は『ジブリの教科書2天空の城ラピュタ』と『天空の城ラピュタシネマ・コミック』。これまた楽しみ。(米光一成)