『となりの関くん』の森繁拓真の10年前の作品『学園恋獄ゾンビメイト』が初の単行本化! 閉ざされた学園で、見分けの付かないゾンビ達が好きな相手の脳をすすろうと襲いかかり、次々と増殖していく。伝染するという意味では、恋もゾンビも同じなのか?

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最新刊4巻が発売された『となりの関くん』。ついにアニメ化も決まりました。
ただ隣の席で、授業中に色々なあそびをしているだけ、という地味すぎるマンガなのですが、これがとっても感覚的に「あるある」で面白い。
実際そんなこたぁしねえよ、ってことばかりなんですが、授業中の遊びって共通体験なのですよね。
マンガ『となりの関くん』なぜこんなに売れてる!?(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
しかし席から一歩も動かないこのマンガ、アニメってどうするんでしょう。

さて、関くんの作者、森繁拓真が2003年に連載していた『学園恋獄ゾンビメイト』が上下巻で発売になりました。
もう10年も前の作品ですが、これが初単行本化になります。
さすがにこれだけ前の作品になると、『となりの関くん』の絵柄に慣れている人だと古さを感じてしまうかもしれませんが、この作品実にゾンビ物語として面白い作りになっています。
 
舞台は山の中にあって、ケータイの通じないような全寮制の高校、私立愛染高校。
主人公の鷹丸悟志は、関くんとはうってかわって、お調子者で女好きの少年。この軽さが女子にウケるのか、モテます。
彼には付き合っている彼女がいます。それは後輩の弓子。淡々とした不思議な美人。鷹丸は女性経験も多い方ですが、どうもうまくつかめません。
ある日弓子は、「好きだということを証明してください」と彼にクッキーを渡します。ところがクラスメイトがふざけて、弓子の作ったクッキーを全部食べてしまいまうのです。
まあ、ここまではよくある高校のワンシーンです。
 
ところが、クッキーを食べた男子達は、突如卒倒。
これにはみんな大騒ぎ。毒か? いや、でも意識ははっきりしている。
彼らは起き上がると、突然好きな女子に「オレ、○○が好きだ!」と告白を始めるじゃないですか。
これに、クラスメイトはやんややんやの喝采。告白された女子も照れてどうすればいいのやら。
すると、告白した男子は、彼女の頭をゴリゴリとかぶりつきはじめます。
クラスは一気にパニックに。噛まれた女子は、好きな男子に同じようにかぶりつき、狂乱の叫びが上がります。
 
表紙を見ると、血まみれでふらふらしている人間が多いので、いかにもゾンビゾンビしているように見えるんですが、実はこの作品の内容全く違います。
クッキーの中に入っていたのは、弓子の血。これを食べると自分の感情に素直になり、その結果として好きな相手に思いを打ち明け、脳みそをすするようになるのです。
噛まれただけだと、ドーパミンが出ているのと同じような状況になり、非常にハイな気分なります。
抑圧されていた恋愛感情が解放され、好きな相手の脳をただひたすらに求めるようになるのです。
けれども、思考がシャットダウンしていないんです。あくまでも恋愛感情が開いただけで、脳を食べたいという欲求がわき起きるだけ。本来の感情もありますし、記憶も残っています。
だから、はたから見ると「彼女・彼はゾンビなのかどうか」がわからない。
これがとても厄介で、学校にいる他の生徒も「なんか変なのがいる・・・」という感覚止まりになっている不意をつかれることもありますし、大変なことが起きているかどうかわからない人もいるまま、事件に巻き込まれてしまう。
 
じゃあゾンビじゃなくて「解放」されただけじゃないか?と思ったりもするのですが、そうではないことを一人のキャラが描き出します。
鷹丸の元カノで、上巻表紙で祈りを捧げている少女原口真紀。彼女もまた、噛み付かれてしまい、感染した一人です。
真紀は鷹丸と別れたことは理解していましたし、その上で仲良くしていたのですが、噛み付かれて「鷹丸のことまだ好きなの」「こんなに素直になれたの初めて」と幸せそうに鷹丸の脳みそを狙うんです。
赤面しながら、背景に点描の幸せマーク背負いながら、頭を割りにかかる少女の図ってすごいですよ。
ここだけ見ていると、ゾンビ化していないように見えますが、彼女の頭は既に噛み砕かれていて脳が丸見えです。
事故で割れたガラスの中に頭をつっこんでしまい、喉元に深々とガラスも刺さります。
逃げまわる鷹丸を追って、体中にガラスの破片が突き刺さります。
それでも動く。
やはりゾンビなんです。
一見感情が解放しただけに見えますが、解放された感情に忠実に動くために他に何も見えなくなり、半分不死状態になっています。
 
逃げながら真紀やみんなを救う方法を考えようと、鷹丸と、真紀の親友葛木ひばりが、閉ざされた空間である学校を奔走する物語です。
まず閉じた空間としての山の中の学校は実にいい。走って外に逃げてもはるか街は遠いし、ケータイも通じない。
そして、ゾンビ達が狙うのは無差別ではなく、好きな相手だけというのが非常にいい。
食欲ではなく恋愛欲求なんです。
作中で、ある男女が相思相愛になって、脳を貪りあいながら死んでいくシーンがあるのですが、これがえらい美しい。そんなの見せられたら幸せそうすぎて、困る。
弓子の願いは、好きな人と愛しあって食い殺しあって、幸せの中死ぬこと。
確かにそれは良いことに聞こえるからまた困る。
 
この恋愛惨劇の締め方も変わっていて、救われる人間もいれば救われない人間もやっぱりいるんです。
しかし救われなかった人間・ゾンビがどうなるかをちゃんと描いています。
ある意味、その部分こそが「恋愛」と「ゾンビ」を結びつける重要なテーマになっていきます。
 
フラれた人間はゾンビのような気持ちになるかもしれない。
けれど、そこから立ち直る人もいれば、一生傷を負う人も、手遅れの人もいる。
この感覚をそのままゾンビとして描き上げた作品なのです。

自分も今回の単行本化で初めて読んだのですが、ピタゴラスイッチのような『となりの関くん』の緻密さの源流が、このホラー作品にあることに面白さを感じました。
是非今の画力で、またこのようなホラー作品を描いてもらいたいと思う反面、表紙の帯を並べるとつながる関くんと横井さんの絵の確信犯っぷりに笑ってしまいました。やっぱ関くん面白いな!

それにしても森繁拓真の描く女の子はかわいいですね。
特にゾンビメイトのひばりちゃんは実にかわいい。
ぼくもすべすべの脚触りたいです。

森繁拓真
『学園恋獄ゾンビメイト 上』
『学園恋獄ゾンビメイト 下』

(たまごまご)