■同一マーケットでの移籍という観点

たとえば香川真司がまずボルシア・ドルトムントに入ってその後マンチェスター・ユナイテッドという最高峰のクラブに移籍したように、ある市場で活躍した選手は、その市場に於ける価値を認められ、同じ市場内で他クラブに買われていくという現象が起きる。欧州1部の優良クラブに加入したければ、極端な話、どのクラブでもいいから、まずは欧州のどこかに移籍して欧州市場に参入することが第一歩となる。

これはもちろん、日本でも同じ。そういう、同一マーケット内移籍という観点でJリーグを観ると、味わい深さが増すように思える。

たとえば今季の場合、V・ファーレン長崎のFW小笠原侑生。愛媛FCユースからトップに昇格したが昨季末に戦力外となり、一時は引退も考えたが、熱心なオファーをした長崎に移籍。J2第7節では四国ダービーの相手だった徳島ヴォルティスとの一戦に先発出場し、個人的にダービーを継続することができた。この場合はJ2という同一マーケット内での移籍。やることをやっていれば誰かが見ていてくれる、という典型だろう。

京都サンガF.C.では三平和司が着々と得点を積み重ねている。湘南ベルマーレに在籍していたときには、2010年、昇格の際にそのままクラブに残り、J1でプレーしたが、今季J1に昇格した大分トリニータとは、期限付き移籍満了に伴い運命をともにせず、京都に完全移籍。

その得点力を、今度は別のクラブのJ1昇格のために活かしている。中村充孝を失った京都にとっては獲ってよかったというお買い得感があり、三平もゴールという結果を残すことができ、移籍一年めの良ケースと言えるかもしれない。

■J1上位にふさわしい戦力を抱える鹿島

外国籍選手を中東や韓国Kリーグから獲得したり、若手の韓国人選手を新卒で獲るという手法も定着してきた。中国に職場を求める監督や選手もいるし、タイやシンガポールなど東南アジアで活躍する日本人選手も数多い。

そのようにつながりのあるアジア圏内からの移籍加入という意味では、Jリーグ発中東から出戻りのダヴィ、バレー、レアンドロらがそれぞれ鹿島アントラーズ、清水エスパルス、ガンバ大阪でプレーしているのは興味深い現象だ。まして鹿島の場合、中国超級の大連阿爾濱足球倶楽部からのオファーを断った岩政大樹を維持しながらの今季だから、Jで勝つのみならずアジア市場のレベルで競争している感が漂っている。

国内での活躍から自分たちの強さを想像するのではなく、中東で評価されたフォワードと中国で評価されたディフェンダーを抱えているのだという客観的なものさしを当てることで、J1上位にふさわしい戦力を揃えているのだと確認できる鹿島のファン、サポーターはある意味で幸せな地位にいるような気がする。

■興味深い大卒選手の活躍

年代というカテゴリーで分けると大卒選手の活躍も興味深い。特に関東大学リーグは有力な選手が集まる傾向があり、今季も早稲田大学卒のフォワード富山貴光が大宮アルディージャ、明治大学卒のミッドフィルダー三田啓貴がFC東京で、それぞれ公式戦のピッチに立っている。

この東京と大宮が味の素スタジアムにて対決したJ1第5節は、今季に大宮から東京へと移籍した東慶悟にブーイングが集中したこともあり、緊迫した雰囲気の漂うゲームとなった。

その東は古巣相手の試合で緊張したのかどうか、悪くはないプレーながら最高時の出来には到らないように見えた。ベンチもそう判断したのか、途中で東を交替させている。

これに対して大宮は、ゴールこそ決めなかったものの富山が半ば強引にシュートを撃ち、あるいは速攻でチャンスをつくり、確実に東京に嫌な思いをさせていた。トップ下またはサイドハーフの東と、純然たるフォワードの富山とではポジションが異なるが、大宮は東を失っても、少なくともプラスマイナスゼロと言えるほどには、富山で損失を補うことができている。