(上)2008年6月の河口湖・六角堂。まだ湖面に浮いている。富士河口湖町提供。(下)3月27日時点の六角堂。水位低下で湖底が露出している

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富士山の北側にある富士五湖のひとつ、河口湖の「水位低下現象」が話題を呼んでいる。

昨年10月頃から一部で関心を集めていたこのニュースが全国に広がったきっかけは、3月4日にネット配信された河口湖水位テレメータ(自動計測器)の異常値だった。同日午前9時頃から約1時間の間に水位グラフ線がなんと、4mも急降下したのだ。ところが、そのテレメータを管理する山梨県富士・東部建設事務所吉田支所の担当者コメントは、なんとも拍子抜けする内容だった……。

「3月4日に計測器を点検したことが異常数値の原因と思われます。つまり、ネット配信を一時停止しないままテレメータの計測棒を引き抜いたため、急激な水位低下と誤認されるデータが表示されたようです。河口湖では水位の緩やかな低下傾向が続いていますが、その原因は、この冬の降雨量が少なかったためと判断していますし、一日に何mも水位幅が減少するというのはあり得ません」

この発言には首をかしげざるを得ない。なぜなら、そもそも今回のテレメータ点検は、検出下限レベルを下回る水位となったため実施されたものだからだ。

実際、週プレによる現地取材でも、3月4日の河口湖では、4mとはいわないまでも、かなりの速さで水位低下が起きたという目撃証言が続々。富士河口湖町内コンビニ店員が振り返る。

「僕が見た限りでは午前中から夕方にかけて最低10cmは水位が下がったと思います。昨年の暮れ頃から歩いて渡れるようになった八木崎(やぎざき)公園沖の六角堂でも、周りの干上がった湖底の面積が夕方には間違いなく広がりました。これは河口湖を見慣れている地元の人ならわかること」

しかも、河口湖の水位低下自体は昨年10月頃から目についた現象。公式見解の「今冬の雨不足」だけが原因かどうかは非常に疑問だ。

昨年秋から現在にかけて進行してきた今回の河口湖の水位低下は約2m。富士五湖のなかで標高が最も低い河口湖で、約半年間にこれほど水位が下がった記録は過去に見当たらない。

そして、3月4日には、約10cmの大幅な水位低下が起きたとみられるが、これが事実なら単純計算で約57万5000tになり、東京ドーム(容量約124万立方m)の半分近い水量が半日足らずで消えうせたことになる。だが、人工的に大規模な排水が行なわれた形跡はない。

ダムや湖など閉鎖水域の水位変化について詳しい研究者の小川進氏(長崎大学大学院・システム工学部門教授)に聞いてみた。

「河口湖ほどの面積の閉鎖水域では、上空に高気圧が居座ると水面が数cmほど押し下げられる場合があります。しかし、3月4日の天気図では日本列島をふたつの低気圧が通過しており、そのケースはまったく当てはまりません。

もうひとつの可能性として、海洋の潮汐(ちょうせき)変化と同じように、湖でも月の引力の影響を受けた多少の水位変化があります。しかし、これもまた今回の河口湖の水位低下と結びつけるのは無理があるでしょう。なぜなら同日は満月から6日目で、富士五湖地方に近い小田原潮位観測所のデータでは2時5分と15時15分が干潮(マイナス74cmとマイナス32cm)ですが、仮に海よりも狭い湖面で潮汐変化による数cmの水位低下があったとしても、それは一過性の現象でしかなく、ずっと下がったままになるはずはない。従って、河口湖の水位低下が人為的なものでないなら、より原因の特定は難しい」

そこで浮上するのが、なんと、河口湖の湖底へ吸い込まれたのではないかという可能性だ。

富士山の火山活動についての取材を続けているジャーナリストの有賀訓(あるが・さとし)氏は、こう語る。

「実は、5年前に河口湖湖底の東西に走る断層沿いに『発熱現象』が起きているのですが、その断層になんらかの動きがあったのかもしれません。今回、河口湖で進行している水位低下の原因は、ほかに可能性がないのなら、南側にそびえる富士山の火山活動にあるとみられるのではないでしょうか」

今回の水位変化は、富士山噴火の前触れなのか……?