■カードの明細が毎月3〜4枚に!

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高橋 守さん(仮名)●大手マスコミ勤務 36歳
【年収】1200万円【貯金】100万円【家族構成】妻と子供1人

かつて高収入の代名詞だったマスコミだが、不況で諸手当が次々カット。「もう給料は上がらないかもしれませんね」。

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「家計は……妻も僕も、どちらも管理していないんです」

そんな衝撃的な告白から高橋守さん(36歳、マスコミ勤務)の話は始まった。

バブル世代の40代より遅いとはいえ、高橋さんの年収は数年前に額面で1000万円を超えた「勝ち組男性」だ。しかし毎月100時間を超える残業で、幼稚園に通う子供との時間はほとんど持てない。日本によくある「企業戦士の母子家庭」である。

「月に使うお金は都内に買った家のローン(5000万円、25年ローン)が月15万円、カードの引き落としが妻の家族カードの分も合わせて、30万〜40万円ぐらいです」

毎月3、4枚になる長い長いカードの明細は3秒見て、総額をチェックして終わりだ。

「妻が何にお金を使っているか……多分、美容院とか、子供とのランチとか? 大したことはしていないのに、なんでこんな金額になるのか不思議です。でも、子育ては妻にまかせっきりなのでストレスがたまるだろうと思い、好きにしてもらっています」

つまり妻も夫も、カードを使い放題なのだ。それでも「1回も赤字になったことはない」というのだから、いかに年収が高いかがよくわかる。

特に大きな買い物は2人ともしないが、毎月の手取り60万円はほとんど残らない。こざっぱりとおしゃれな高橋さんは洋服も季節に合ったものがあれば大丈夫……といってもユニクロではないが。妻もブランド物を衝動買いすることはないが、気に入った靴やニットなどは色違いでまとめ買いするという。1万円でも五枚になれば5万円。ひょっとすると、いざとなったら換金できる高価なブランドバッグや時計を(計画的に)買うほうが、資産として残るのかもしれない。

「たまの贅沢は外食と海外旅行ですが、子供が生まれてからは、海外に行ったのは1回だけですね」

休みが取れたら海外に行きたいと航空会社のカードを使っているが、そもそも貯めたマイルを使う機会がない。

夏と冬のボーナスはそれぞれ手取りで100万円ぐらい。

「半分は住宅ローンなどに消える。半分の50万円を妻に渡すと結構持ちます」

子供関連のお稽古ごとや幼稚園など、日常の支出でカードが使えないことが多い。奥さんはこの現金を使って支払いをし、足りなくなったら「お金がなくなった」と申告する。そのたびに高橋さんは口座にある現金をごそっと下ろして手渡す。結局、残高のほとんどを奥さんに渡してしまい、貯金は常に100万円を切るぐらい。10万円を切ってしまうこともしばしばだ。

「お金を下ろすとき、残高も確認しないなあ」と高橋さん。

さて、こんな高橋家だが、どうしたらお金が貯まるのだろうか? ファイナンシャルプランナーの花輪陽子さんに相談してみた。ざっと家計を診断し、花輪さんはまずカードの使い方について指摘する。

「カードを常に使っていると現金より2割は多く使ってしまうというデータがあります。奥さんに毎月決まった額の現金を渡し、家族カードを使わせないようにしては?」

しかし、高橋さんは渋い顔を見せる。

「限度を考えながらお金を使うのがイヤだと言うんですよね……妻は、『やりくり』とか『家計簿』という言葉が一番嫌いなんですよ」

おそらく、高橋家の平和が保たれ、夫が仕事に専念できるのは、夫婦でお金のことを話し合わないからなのだろう。しかし、花輪さんによれば、これから1番お金がかかるのは子供の教育費だ。

「私立の小学校に行くなら月に10万円以上。中学からでも、塾に行かせるだけで年100万円前後かかります」

妻が真剣にお受験を考えているか、高橋さんにはまったくわからない。

「妻は芸術大学出身だから、同じところに行かせたいのかなあ。劇団に入れたいとは言っていましたが……」

本気で芸大に入れるなら、有名な先生のレッスンは1回3万円ぐらいかかるという。もし子供にそれで食べていくくらいの才能があったりしたら……その投資金額はさらに膨れあがるはずだ。

「36歳ということは定年まで23〜24年。手取りで1000万円の年収がそのままと仮定すれば、退職金を入れて、だいたい2億5000万円稼げます。しかし現在、月60万円で生活なさっているので、同じ生活を続けるなら、80歳までには3億円以上かかります。年金が5000万円もらえるとしても収支トントン。少しでも年金額が低いと破綻するでしょう」

淡々と語られる老後のリアルなストーリーに高橋さんの顔がだんだんと曇っていく。

「実は、昨今の不況の影響で、給与体系も真綿で首を絞められるようにジワジワと締め付けられています。退職金だってどうなるか……」

最後に花輪さんから、さらに無理なく貯めるための現実的なアドバイスがされた。

「今、まだ余裕があるうちに、財形貯蓄や給与天引きの定期預金などで、自然に貯まるようにするのが一番でしょう。月5万円天引きで貯金すれば、60歳で1500万円は貯まりますよ」

家庭に波風を立てず、無理な節約もせず、1500万円も貯まるのである。

【FPからの処方箋】妻に生活費を現金で渡す

(ジャーナリスト 白河桃子=文 ファイナンシャルプランナー 花輪陽子=家計診断 澁谷高晴=撮影)