内科医に聞く。熱が出たときに冷やせばいい場所とは?




「熱が出たな……」と思ったとき、おでこを冷やしたり、厚着をして汗をかこうとしますが、実のところ、どのように対処すればいいのでしょうか。大阪府内科医会副会長で泉岡医院院長・内科医の泉岡利於(いずおか・としお)先生にお話を伺いました。





■おでこより、首の回りやわきの下を冷やした方が効果的



――そもそも、どうして発熱するのでしょうか?



泉岡先生 風邪などのウイルスや細菌が体内に侵入したときや、熱中症、心筋梗塞(こうそく)、白血病、悪性腫瘍(しゅよう)など、体温の制御が不能になったときに熱は高くなります。また、ストレスが原因で37度前後の熱が出ることもあります。



発熱の原因としてもっとも多いのは、ウイルスや細菌の感染による場合です。体温が高くなると白血球の動きが活発になり、侵入した外敵に対抗しようとします。

風邪などのウイルスは低温の方が繁殖しやすいという性質を持っているので、体温を上げてウイルスの動きを抑制しようという理由から発熱します。



――発熱することには、体のメカニズムとして大きな意味があるのですね。では、発熱中は、熱を冷ましたほうがいいのでしょうか? それとも放置しておくべきなのでしょうか?



泉岡先生 風邪などのウイルス感染による発熱では、熱の出方を観察することが大切です。通常は、体温が37.5度を超えたときに、正常な状態では考えにくい、つまり病的な熱だととらえます。



熱の初期段階では、悪寒やふるえを、体温の上昇期には、頭痛やだるさを感じます。そして、ピーク期に高熱が発生します。

熱の出始めから体温が上昇しているときは、体を温めるようにします。手足が温かくなり、顔が赤みを帯びてきて熱が上がってきたら、冷やすようにします。



また、よく「高熱が出ると脳にダメージを与えると聞きますが、大丈夫ですか?」と聞かれることもありますが、発熱だけですぐに脳障害を起こすことはめったにありません。



――温めたり冷ましたりするころ合いを判断するのは難しそうです。具体的に、どう対処すればよいでしょうか。



泉岡先生 熱の出始めは、体温を逃がさないよう保温性の高いウール素材のパジャマを着たり、寝具をしっかりかけて、室温も高めにして休みましょう。



熱が上がったなと感じたら冷えたタオルを当てる、保冷用パックを使う、氷枕を敷くなどの直接的な方法と合わせて、薄手の衣服を着る、薄めの掛け布団をかけて熱が逃げやすい環境にするといいでしょう。



「たくさん着込んで汗をかいて風邪を治すという方法はどうですか?」とよく患者さんから尋ねられますが、汗をかけば風邪が治る、とは医学的には言えません。



ただ、特にインフルエンザのウイルスは湿度に弱いことが分かっています。汗をかいて体の周辺の湿度が高くなることは、ウイルスが弱まる一因となるでしょう。

注意として、汗をかいたままの状態でいては悪化するので、6〜8時間に一度の着替えを目安に適温を保つように心がけましょう。



――熱が出たとき、まずはおでこを冷やしますが、正しい方法でしょうか。



泉岡先生 確かに額を冷やすとひんやりとして気持ちよく感じるでしょうが、直接、熱を下げるという効果はありません。熱が出たときは、首の回りやわきの下、そけい部(太ももの付け根)など、リンパの集まる部分を冷やした方が効果的です。



――どうして、リンパの集まる部分を冷やすと効果があるのでしょうか。



泉岡先生 リンパとは免疫器官の一つで、細菌を退治し、体を病気から守る働きがあります。風邪の場合は、リンパが活発に働きながら熱を発します。ですから、リンパの集まる部分を冷やしてください。



また、血液は脳や心臓などの大切な臓器の働きを保つために、 体の内部ほど温度が高くなります。一方で、手足や顔など体の末端や表面の温度は、季節や環境の影響を受けやすいので低くなります。

体温が高いということは血液の温度が高くなっているということですから、これを下げるには、血液の温度を下げる必要があります。



ですから、体の内部の温度の高い血液が皮ふの近くを通っている首の回りやわきの下を冷やすほうが、熱を効果的に下げられます。首の回りを冷やすには、後頭部から首の両側まで冷えたタオルを当てるとよいでしょう。



――熱が出たときの注意点を教えてください。



泉岡先生 熱が出て汗をかくことで脱水状態になりやすいので、 しっかりと水分補給をすることが大切です。また、わきに汗をかくと、冷えて体温が低く測定されます。汗をふいてから、体温測定をしましょう。



また、インフルエンザの流行期に38〜38.5度以上の高熱が出たときは、インフルエンザに発症している可能性が高いのですみやかに病院へ行きましょう。



一方で、せきや鼻水、おう吐や下痢などの症状がなく発熱が続くときは、風邪などのウイルス感染以外の病気の可能性があります。その場合も受診して、「いつから熱が続くのかと、症状について」を医師に伝えてください。



――ありがとうございました。



発熱時に体がどんな反応をおこしているのかが分かりました。最後に、熱を下げたいときのために、泉岡先生オリジナルの次の方法をご紹介しましょう。



「わきを冷やす場合、ガーゼにくるんだ保冷剤を1個ずつ、タイツやストッキングのひざあたりに入れて、左右のわきに挟んで胸の前で足先を結びます。寝返りやトイレに行くなどの移動にも、気にせずに冷やすことができますよ」



これからは保冷剤を冷凍庫に常備しておき、熱が出たときにはわきの下や首の回りを冷やすようにしましょう。



監修:泉岡利於氏。医学博士。内科医、大阪府内科医会副会長。医療法人宏久会泉岡医院院長。

泉岡医院 大阪市都島区東野田町5-5-8 JR/京阪電鉄京橋駅中央出口から徒歩7分TEL:06-6922-0890 http://www.izuoka.com/



(岩田なつき/ユンブル)