iPadは、もがく教育現場を救えるのか

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Illustration: Alex Washburn/Wired. Photo: Kajojak/Flickr

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オハイオ州立大学で化学の講師を務めるマシュー・ストルツフスは、以前から自分の目に映る化学の姿を学生たちにも伝えたいと考えていた。彼は授業にデジタル教材を採り入れたことで、はじめてその想いを叶えることができたという。



ストルツフス氏は長年、学生に複雑な化学の方程式がもつ意味を理解させることに苦労してきた。学生たちは黒板上に書かれた方程式にほとんど関心を示していないように見えた。そこで、いつものカリキュラムにアニメーションやインタラクティヴなメディアを教材として追加してみた。すると、学生たちが授業の内容を理解している様子がはっきりと顔に表れるようになったという。



「わたしにとって方程式というのは単なる係数や記号のかたまりではない。化学反応を示す方程式をみると、たくさんの分子が反応している様子が目に浮かんでくる。でも学生たちがわたしと同じような見方をしているとは思えない。そんな学生たちに分子レヴェルで何が起こっているかを理解させる上で、アニメーションやインタラクティヴな教材はとても役に立つんだ」



タブレットは学びのプロセスをいちから変えていき、教員が学生の理解度を把握する方法をも変えていこうとしている。難解な概念を視覚的に理解できるようにしたり、あとで講義の内容を復習できるようにしたり、動画やインタラクティヴなウィジェット、アニメーションなどを通じて授業の理解を深めるといった例が、世界中の教育現場で見られるようになってきている。







「教育のデジタル化によって、教科書が紙から電子版に変わるというだけではなく、学びの方法そのものが変わろうとしている。これまでにない、まったく新しい考え方のもとで作られている教育用iPadアプリもあって興味深い」とフォレスターのアナリスト、サラ・ロットマン・エップスは言う。



例えば「Answer Underground」はそんな教育用アプリのひとつだ。同アプリを開発・提供するサリー・セヴァーンは、「タブレットのシンプルさや使いやすさ、学術目的のアプリケーションの豊富さが、教師や教育テクノロジーの専門家の興味を引き寄せている」と説明する。



タブレットを利用した学習の分野は、1〜2年前にはニッチな市場に過ぎなかった。それがいまや、多くの教育現場で受け入れられるようになっている。ピュー・リサーチセンターが実施した調査によると、「Advanced Placement and National Writing Project」に参加している全米であわせて2,462人の教師のうち、授業内で生徒にタブレットを利用した課題をさせたことがあると答えた教師は43%に上ったという。また、PBSラーニングメディアの調査では、全米のK-12(幼稚園から高校までの教育機関)で教える教員の35%が、授業用のタブレットや電子書籍端末を所有していることが明らかになった。この割合は前年から20%も増加したという。



教育の現場では、iPadの人気がもっとも高い。アップルは昨年、米国内だけでも450万台(全世界では800万台)iPadを学校やその他の教育機関に販売したという(2011年には150万台に過ぎなかった)。



PBSキッズデジタルのヴァイスプレジデント、サラ・デウィットによれば、タブレットはとくに初等教育課程で重宝されていることがわかってきたそうだ。また、楽しく直感的に使えるタブレットは、8歳以下の子どもにとって革新的な教材になってきているそうだ。タップやスワイプなどの操作は容易に習得することができるため、子どもたちがハードウェアの使い方を学ばずに済み、学習に専念できるメリットがあるという。



iPadによって、テクノロジーは表立っては目に見えないものとなった。マウスやキーボードよりもはるかにナチュラルなタッチスクリーンのインターフェイスは、子どもたちにとってもとっつきやすいものなんだ」とデウィット氏は話す。



ただし、子どもたちに単にタブレットを配るよりも、教室で使うほうがより有効活用できるという。









教員や各学区の監督者は授業へのタブレット導入について、もっともよい方法を見つけ出さなくてはならない。具体的にはひとつのクラスに導入するタブレットの数や、最初に導入する学年、盛り込む教材の内容、そして導入の時期などを決める必要がある。



「タブレットの導入にあたって成功の鍵となるのは、授業への採り入れ方。十分に計画を練り、準備を整えてから導入すること、それにどのアプリを評価して利用するかも重要になる」とセヴァーン氏は言う。



タブレット導入の動きは各地に拡がっている。ただしその活用方法については学区や学校、授業や教師によって大きな違いがある



アップルのiTunes UiPadを授業に採り入れる上で便利なツールのひとつだ。iTunes Uなら、教員がiBooksの教科書、音声や動画素材、文書、iOSアプリなどを盛り込んだ独自の教材をつくることができる(マグローヒル、ピアソン・エデュケーション、ホートン・ミフリン・ハーコートなど、大手の教科書会社からもiBooksの教科書が出ている)。さらに学生や生徒が自分のペースで学習できるというメリットもある。



2007年に登場したiTunes Uは、当初はiPodを利用して音声や動画による授業を視聴することしかできなかった。だが、アップルは昨年1月にiPhoneやiPadの機能を活用できる新たなアプリを公開(日本語版記事)し、iOSアプリやiBooks、動画などとも連携できるようにした。いまやiTunes Uのダウンロード回数は10億回を超え、1,200以上の大学や専門学校と、1,200以上のK-12で利用されているという。



※この翻訳は抄訳です。




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