約50kgのクロマグロを釣り上げた三ツ石さん。赤身の味の濃厚さが印象的だったとのこと

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徳島県の鳴門海峡に“海のダイヤ”クロマグロの大群が確認されたのは1月初めのこと。その数、100匹以上!

現地の漁師兼釣り船オーナー、三ツ石達生さんが目を丸くする。

「鳴門大橋から2、3kmにわたって、30から70kg級のマグロが海面のあちこちを勢いよくジャンプしていました。このあたりで、そんなマグロの大群を見るのは初めて。70kg級のマグロが海面を跳びはねるさまは、まるで水中からドラム缶がドカンと飛び出てくるよう。ド迫力ですね」

正月明けの初競りで青森県大間産のクロマグロが1億5000万円の値をつけたことも記憶に新しいなか、世の釣り師たちがこれを見逃すはずがない。

「近隣の漁師はもちろん、釣りファンもマイボートに乗ってやって来た。多いときで20隻はいましたね。遠くは和歌山県からやって来たボートもいました」(三ツ石氏)

地元の釣り具店では、半年に1個売れるかどうかの大物用リール(価格は10万円超!)が、数日間で4個も売れた。買い手がマグロ狙いなのは言うまでもない。

この予想もしなかったクロマグロの大群登場には、徳島県の飯泉嘉門(いいずみかもん)知事も大はしゃぎ。

「東の大間、西の鳴門海峡なんて呼ばれることになれば、まさに(マグロを)観光資源として活用できるかもしれない」

と“マグロフィーバー”に熱い期待を表明したものだった。

あれから1ヵ月。地元の期待どおり、マグロは渦潮に次ぐ鳴門の観光資源となったのか?

結論はノー。鳴門市内の土産物店の店主がため息をつく。

「確かに、一時はマグロ目当ての釣り人がたくさんやって来た。でも、2月に入ったら、マグロがぱったり姿を消してしまったんです。当然、マグロ狙いの釣り人もいなくなって、鳴門は以前のように静かな町に戻ってしまいました」

なんと! それは残念。でも、マグロがいた間、町は潤ったはず。

「いえ、どこも儲かっていません。釣り人は朝に船で来て、上陸しないまま船で帰ってしまうから。釣り具店にしても、マグロ用の大型リールを置いているのは大型店くらい。中小の釣り具店は扱っていません。しかも、その大型店も売れたらそれっきりで、追加の大型リールを仕入れることができなかったと聞きました。春のモデルチェンジ前でメーカーに在庫がなく、補充できなかったようです」(鳴門市内の釣り具店の店主)

釣果(ちょうか)もさっぱりだったらしい。前出の三ツ石氏が語る。

「鳴門海峡は幅が狭いので、せっかく針にかかってもマグロはすぐに浅瀬に逃げてしまう。すると、釣り糸が浅瀬の岩肌にこすれて切れてしまうんです。鳴門海峡であの巨大なマグロを釣り上げるのは難しいとよくわかりました」

結局、この1ヵ月間で釣れたマグロは10匹前後。それも30kg級のマグロにしては小物が中心で、ついた値段も1kg当たり1000円ほどだったとか。これがマグロフィーバーの実態だとしたら、あまりにもショボい。それどころか、こんなヒヤヒヤのシーンもあったのだとか。

「ふたり乗りの小さなボートで、マグロに挑む釣り人もいました。あれでは力のあるマグロに引っ張られたら、ひっくり返ってしまう。案の定、ルアーを投げるたびに船がぐらぐら揺れて、海水がザブンと浸水する始末。最後はバケツで海水をくみ出すのに必死で、マグロ釣りどころではなかったみたいです(苦笑)」(三ツ石氏)

クロマグロ去って、中途半端なフィーバーも終了。どうやら鳴門は西の大間になり損ねてしまったようだ。

(取材/ボールルーム)