八王子会場で基調講演を務めた「ファミスタの父」こと岸本好弘先生

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なんと14000人ですってよ、皆さん!

会場に集まった、経歴もスキルもバラバラのメンバーで即席のチームを作り、48時間でゲームを作って公開する「GlobalGameJam」。今年で第5回目となるこのイベントが、今年も1月25日から28日まで、全世界で開催されました。

今年は世界63カ国・地域で321会場がエントリーし、完成したゲームは3103本。総参加者数は約14000人にのぼる見込み。世界最大のゲームジャムイベントとしてギネスブックにも登録された昨年度の記録(47カ国、242会場、2209本、10684名)を、大きく更新することになりそうです。

ちなみに日本では札幌から沖縄まで全国17会場、489名が参加し、93本のゲームが制作されました。昨年が7会場で424名、77本でしたから、こちらも大躍進。実は会場数でいうと、世界的でアメリカ(91会場)、ブラジル(24会場)に次ぐ第3位なんですよ。2009年の初年度は、わずか1会場でしたから、ホントに驚かされます。

今年は新たに主催が米GlobalGameJam社となり、マイクロソフトやフェイスブック、それから国際ゲーム開発者協会(IGDA)などが協賛。ただし、ボランティアベースで運営されるスタイルは変わりません。各会場の運営責任者の裁量で、いろんなスタイルが選べるんですよ。国内会場ではIGDA日本・東北・関西・福岡も運営をサポート。各地でさまざまな試みが見られました。

かくいう自分も去年は一参加者としてゲーム作りに挑戦。輪投げならぬ「ワナゲー」という落ちモノゲームを作りました。実は終了後、ゲーム投稿サイト「9leap」の優秀賞に輝き、賞金10万円ゲットという後日談もあったりして(僕は辞退して、賞金はチームメンバーで分配しましたが・・・)。今年もぜひ一般参加したかったのですが、残念ながら取材で首都圏の会場をぐるぐる回っておりました。うーん残念。

さてさて、会場レポートに移りましょう。まず124名の参加者を数え、国内最大規模となった東京・八王子の東京工科大会場。開会式では元ナムコで「ファミスタ」の生みの親として知られる、岸本好弘先生が基調講演を行いました。思いがけない「特別授業」に、会場はおおいに沸いていましたよ。

東京タワーが建築された1959年生まれという岸本先生。中学生で「ポン」(1972年)、大学生で「スペースインベーダー」をプレイしてナムコに入社。はじめて作ったアーケードゲームが「パックランド」(1984年)で、はじめて作った家庭用ゲームが「プロ野球ファミリースタジアム」(1986年)という、ゲーム業界の大ベテランです。2012年度から東京工科大学の特任教授となり、学生にゲーム作りを教えられています。

そんな岸本先生曰く、ゲームには大きく5つの節目があったとのこと。その1が「スペースインベーダー」で、業務用ゲームの誕生。その2がファミコンの発売(1983年)で、家庭用ゲームの登場。その3がプレイステーションで発売された「ファイナルファンタジーVII」(1997年)で、ここからゲームが「記号」から「体験」になったと説明します。その4がニンテンドーDSとPSPの発売(2004年)で、メインストリームが携帯ゲーム機に移行。そして最後がソーシャルゲームの登場(2009年-)で、ゲームが無料で遊べるようになった、というわけです。

では、その次は何か? 岸本先生は「ゲーミフィケーション」だと指摘します。ゲーム制作のノウハウをゲーム以外に応用していく活動全般のことで、ジョギングとゲームを組み合わせた「Nike+」、自動販売機を育成するコカコーラの「ハピネスクエスト」、それからトイレを遊び場にした「トイレッツ」などがあげられます。これに限らず、回転寿司チェーンの"くら寿司"が提供する「ビッくらポン!!」や、大学の単位取得をRPGに見立てた「クエスト型授業」など、ゲームの要素はさまざまな場面で応用可能。岸本先生も学生と一緒に、ゲーミフィケーションのデザインに挑戦していきたいと抱負を語りました。

ちなみに岸本先生、基調講演にとどまらず、他の参加者と一緒になってゲーム作りに挑戦していましたよ。完成したゲーム「幸せネズミとチーズの天国」は、ネズミを操作するジャンプアクション。タイミング良くボタンを押して穴を飛び越え、ステージ右端のチーズまでたどり着けばクリアです。これが絶妙なバランスなんですよね。ミスしてコンティニューすると、過去のネズミがゴーストキャラクターとなって登場し、背中に乗ればより高くジャンプできる仕組み。シンプルながら、ついのめり込んでしまうので、ぜひチェックしてみてください。いやー、おもしろい!

あ、そうそう。言い忘れましたが、GGJでは毎年、全世界共通で動画による基調講演が行われます。今年もまた、素敵なビデオが用意され、Youtubeで公開されました。わずか10分強の内容ながら、ゲーム作りのヒントが凝縮された、素晴らしい内容なので、チェックして損はないですよ。続いて今年はゲームのテーマも動画で公開。その内容はというと……なんと心臓の鼓動音。これには多くの参加者が頭をひねったようで、人体をテーマにしたもの、ホラーゲーム、時節柄バレンタインデーを題材にしたものなど、さまざまなゲームが作られました。いずれも公式サイトから無料でプレーできます。

他にも初日はボードゲーム大会で親睦を深めた福岡会場(九州大学)。「プログラマーは来なくて良いです!」と銘打ち、ノベル系のARG(代替現実ゲーム)をテーマとした東京・一ツ橋会場(国立情報学研究所)。民家(シェアハウス)を会場に、夕食はカレーを自炊した川崎会場(ギークハウス川崎)。学生も指導教員もゲーム作りの初心者で、ゲームエンジン「ユニティ」を一緒になってこねくり回し、みごと完成させた厚木会場(湘北短期大学)。tmlib-jsというスクリプト言語縛りで臨んだ新宿会場(ハッチアップ)など、さまざまなゲームジャムが見られました。ほとんどの会場でUstreamによる中継も実施。Twitterでも、さまざまな書き込みが見られましたよ。

あと、忘れてはならないのが福島県郡山市の国際アート&デザイン専門学校を舞台とした、ふくしま会場。実はこの会場、女子高生とゲーム開発ができたことで、一部で注目された「東北ITコンセプト 福島GameJam in 南相馬」からスピンアウトして生まれたんです。事前に8時間でゲームを作る「FUSE(導火線)」という開発イベントも開催。その成果が出て、GlobalGameJam初参加にもかかわらず、6チーム全部が完成する快挙をなしとげました。なんでも「いつも8時間で作っているので、時間が余った」チームが続出したとか。おかげで調整に時間がさけ、完成度も向上しました。いやー、48時間は長いなんて声、初めて聞きましたよ。

他にも沖縄会場(沖縄科学技術大学院大学)では、地元企業と行政や大学、NPOなどが一緒になって準備会を結成。ツールの講習会やローカルGameJamなどのイベントを繰り返し、満を持してGlobalGameJamに挑みました。今後も県内人材の交流・情報共有を高め、沖縄から世界に向けたコンテンツの発信を目的に掲げて活動していく予定とのこと。こんな風にGlobalGameJamが地域活性化に貢献する流れまでできて、いやーもうビックリです。

最後に取材を通して驚いたのは、みんな「参加して楽しい」と言ってくれたこと。だって48時間ですよ! 普通に考えたら、どれだけみんなマゾなんだ、と思いますよね。それでも、赤の他人同士が集まって、何か一つのことを成し遂げる達成感というのは、他に変えられない喜びがあるようです。いやーいいなあー。やっぱり自分も参加したかったなあ。というわけで、ちょっとでもゲーム作りに興味があったら、来年は是非どうぞ。ゲーム作りって、やっぱり楽しいと実感できるのではないでしょうか。(小野憲史)