松井千夏(まつい・ちなつ)バンダイビジュアルプロデューサー。テレビシリーズ「TIGER & BUNNY」に企画の初期から参加し、シナリオの開発や企画の方向性から、ビジネス展開の仕組みまで携わっている。「劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-」「劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-」も引き続き担当。

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ハァイ! TIGER & BUNNYの劇場版「The Rising」が気になって仕方ない方、アオヤギです。前編に続き、松井Pにお話を聞いていきます。1/29発売のスペシャルエディション「SIDE TIGER」の新作パートでは25話後のバディが描かれましたが、さらにその後、二人はいったいどうなるのか…!?

松井 公式HPに4つのキーワード(「New hero」「Disappearance」「Legend」「Second League」)を公開したんですよ。みなさんいろいろ考えていただけるといいなあって。このキーワードも、西田さんに相談してるんです。「ああ、そう来たか!」って言葉になってますね。
ーーあれを考えていくと「The Rising」の中身がちょっとわかるかもしれない。
松井 わかるかもしれないし、わからないかもしれないっ。西田さん、TVシリーズのときに、毎回金曜にブログで「他愛ないフレーズ」を発表してたんですけど、「そんな言葉!?」みたいなのがあって。それみたいに、もしかしたら「関係ないじゃん!」「入ってはいるけど重要じゃない…!」って言葉も入ってるかも。でもその裏をかいて、すべて重要かもしれない(笑)

■「The Rising」は「ペスカトーレのおもいで」?

ーー12/24のクリスマス特番(「TIGER & BUNNY -The Xmas-」)で、いろんな情報が公開されましたよね。オーケストラのコンサートをやるとか!
松井 オーケストラ、決定みたいに話してましたけど、誤解ですからねっ(笑)
ーーええっ。「The Rising」で特定のキャラクターに過去の話が出るっていうのも、もしや誤解…?
松井 「The Beginning」では、虎徹の掘り下げというか、過去を振り返るっていうのがあったので、「The Rising」ではいろいろと回想があるかもしれません。たとえばバーナビー……バーナビーは散々テレビシリーズでやったなあ(笑)これ以上やったらちょっと可哀相…。「マーベリックさんとのおもいで」とか。
ーーか、かわいそう!!(悲鳴)
松井 「ペスカトーレのおもいで」とか…(ペスカトーレはマーベリックがバーナビーに作ってあげたもの)。
ーーうわー、ネタバレになるから言えないですけど、それはほんとに…聞いただけで泣きそうです……。
松井 そんなものがあるかもしれないし、全く違うキャラクターの過去があるかもしれない。
ーー何が来るか妄想していくのが楽しいんですよね。うまいぐあいに妄想をかきたてられるというか。
松井 みなさんが楽しみ上手なんじゃないですかね。「そういう反応するんだ!?」っていうのは毎回驚きます。今回も4つの言葉を出したら、「あ、そう考えるんだ…!」っていうのは意外だったので。皆さんもほんとに考えてくださっているなあと。
ーー私もあの4つの単語で夢を膨らませまくっている一人です。特に「Legend」に反応してます。「Legend」といえばルナティック、彼の今後がものすごーく気になるのですが…。
松井 ルナティックは……難しいキャラクターですよね。ルナティックの正義自体っていうのが、そもそも歪んでいて、しかも長年にわたっていて…それがどう結末を迎えるのかって、簡単じゃない。よっぽどの何かがないと、変わるってこと自体が難しい、じゃあどうなるんだろうっていう。劇場版でどう描かれるか。ご期待ください!

■「みんなで共有できる」ことがすごく大きい

ーータイバニは本当にうまい具合にファンをもてなしてくれる作品だと思うんですよ。ワールドプレミアもすごく盛り上がってました。
松井 皆さんにやらせていただいてるって感じです。ワールドプレミアは、正直…すごく難しいところもいっぱいあったんですけど、やっぱり皆さんにそれだけ熱があるので、実現できました。役者さんもものすごく協力してくれましたし。いやーでも、大変でしたね!みんな無理しすぎ! 終わったら魂抜けてます、みたいな。でもそこがいいとこなんでしょうね。みなさん忙しい方なんで大変でしたけど、リハーサルもいっぱいやりましたし、やった分だけ返ってくるので、やりがいはありますよね。いろいろ頑張っても空振りすることはいっぱいありますから…(遠い目)。

ワールドプレミアは、「The Beginning」の公開を記念して行われたイベント。単なる初日舞台挨拶ではなく、なんと三部構成で四時間越えの大々的なもの。第一部にキャラソンライブ、第二部に「The Beginning」の上映、第三部に楽曲提供アーティストのライブと、深夜アニメのイベントとは思えないゴージャス感。会場の舞浜アンフィシアターだけではなく、全国各地の映画館でライブビューイングも行われました(エキレビのレポはこちら)。

ーーあ、ワールドプレミアの映像は、「The Beginning」のパッケージの特典ディスクに入ってるんですね。
松井 あの会場、絵的にすごく映えるところなんですよ。特典用に映像を編集したんですけど、個人的には舞台で見てたときよりもゴージャス感を感じられるんではないかと思うほど。本当にワールドプレミアに相応しい会場だったなと。チケットを取るお客さんにとってはもう少し大きい会場がよかったかもしれませんが、会場として本当に最高でした。これだけ映像映えしていると、ライブビューイングも楽しかったんじゃないかなー。
ーーワールドプレミアは最たるものですが、タイバニという作品は視聴者に一体感がありますよね。
松井 「TIGER & BUNNY」は、「みんなで共有できる」ってことがすごく大きいと思ってます。「Twitterでみんなでつながって、一緒に見る」「参加して見る」っていうのが、思った以上にハマって。みなさんが盛り上げてくださった作品です。

MBSとTOKYO MXの二局のみだった地上波放送。それにも関わらずタイバニが日本全国同時に盛り上がったのは、MBSの最速放送と同時にUSTREAMで放送をしていたから。USTはTwitterと連動しているため、タイバニの放送時間にはTwitterが視聴者の反応で溢れるような状態でした。

松井 ストーリーに関しても、幅広い層にわかるストーリーとか、設定とか、キャラクターっていうのをすごく意識して作っていました。企画の意図がそもそも、アニメを見なくなった世代を戻したい、というものだったので、「あんまりむずかしいことはやらない」「皆さんが見てピンとくる内容やキャラクターにしたい」っていう思いを、制作陣自体も全員が共有できていたし、目標が定まっていた。「じゃあこういったキャラクターや、ストーリーだったら共感できるんじゃないか」ってことをやっていく中で、物語とかキャラクター自体も共有しやすいものになったんだと思います。色んな意味で「共有」かなー。

■キャンペーンやイベント自体が作品

ーー色んな意味というと、たくさんあるイベントやキャンペーンについても、「共有」を意識してるんでしょうか?
松井 UST・Twitterだけじゃなく、実際の場所でも繋がってるって実感があるといいなということで、キャンペーンもイベントもいっぱいやらせていただいてます。自分たちが「作品の中にいる」って思えるイベントを意識してるんですよ。キャンペーンが、「自分が応援しているヒーローたちが実際のキャンペーンを行ってて、ヒーローの紹介してる商品を買う」みたいに、「イベント」になってる。それに負けられないですよね。
ーー負けられない?
松井 実際のイベントの方が嘘っぽくなったら、「キャンペーンに参加してる方が、シュテルンビルトの市民の気持ちが味わえる」と思われてしまう。それくらい企業さんがやってくださってるキャンペーンに連動感があるってことで、ありがたいし嬉しいことなんですけども。

テレビシリーズの放送中も、「The Beginning」の公開前後も、映画の公開が終了した後でも、キャンペーンがたくさん行われています。キャラクターのスポンサーになっている企業とのキャンペーンが多いのも特徴的。たとえばロックバイソンのスポンサーの日清食品のキャンペーンではロックバイソンのどんぶりをプレゼント。ファイヤーエンブレムのスポンサーのドミノピザのキャンペーンでは、タイバニ仕様ケースでピザが配達され、なおかつドラマCDやマグカップのプレゼントもありました。

ーーイベント企画やキャンペーン企画で、大変だったことはありましたか。
松井 監修が大変だと思います。タイガーとバーナビーが言う台詞一つ一つを、全部を西田さんたちが書くわけにもいかないので、テレビシリーズで出来上がったイメージを崩さないように、すごく神経を使って。ドミノピザのキャンペーンのCDは、けっこう長かったので、台本をみんなでチェックして。その分すごく評判のいいものができたのかなと。イラストも同様です。世界観を崩さないっていうのは、すごく気を遣いますね。
ーー世界観を崩さないために、何度も打ち合わせをする。
松井 キャンペーンもイベントも、「やればいい」ってもんじゃない。完成度をみんなで上げていくっていうのが求められているので、そこがすごく気を遣います。キャンペーンとかイベント自体が、いわば作品になってるので。

■もしかしたらバーナビーかもしれない

ーーヒーロースーツ握手会も、タイバニならではのイベントですよね。

ヒーロースーツのキャラクターと握手ができるイベントなんてものもあります。タイガーとバーナビーはもちろん、スカイハイとも! 握手会に参加した友人が「あのね! タイガーはタイガーでね! バーナビーはバーナビーなんだよ!」とアツく語っていましたが、それくらいタイバニの世界を忠実に再現したイベントです。

松井 ヒーロースーツは、かなり前から作りたかったんですよ。でも見積もりが相当高かった…! そうしたら「THE LIVE」(舞台)が実現することになって、「じゃあ作ってもらえる!」「ちょっと使わせてもらおう」じゃないですけど(笑)それでお披露目もかねて握手会をしてみたら、すごく評判がよくて。もともと「ヒーローショーやれたらいいよね」とか「ヒーローと握手できたらいいよね」っていうのはテレビシリーズの当初からあったので、自然と出てきた企画でしたね。
ーーヒーロースーツの、いわゆる「中の人」のことなんですが…
松井 スーツの中はバーナビーです!
ーー!そうかもしれないっ!(思わずはしゃぐ)…ええと、「中の人」が、すごく世界観を尊重しているというイメージがあるんですよ。スカイハイの握手会のときに、シスの格好をして行った人がいて、スカイハイが驚いたり照れるリアクションをしていた!っていうのを聞いて。
松井 キースがいたんですね!…とまあ(笑)ちょっと現実的なことを言ってしまうと、JAEの方がすごく「TIGER & BUNNY」を研究してくださっていて。「中の人」も、スーツに入った時点でもう「スカイハイ」になってるんですよ。世界を、ストーリーをわかってやってくださってるので、そういう対応もしてもらえるんだろうなあと。すごく演技指導もされてますので。…言っていいのかな。夢が壊れるよね。
ーー中の人などいない!
松井 いるとしたらキース!
(青柳美帆子)