いよいよ発表、県民手帳10傑!

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(これまでの戦い)
第一部 ゆるキャラだけが県じゃない。県民手帳は何を考えているのか〈沖縄県〜山口県編〉
第二部 富士山をめぐる仁義なき戦い。県民手帳死闘編〈広島県〜福井県編〉



県民手帳、それは県議会議員が自宅住所や電話番号を晒し、自県の日本一が誇らしげに羅列される、郷土愛の産物である。

エントリーNO.31「石川県民手帳」
もっとも印象的なのは「人口動態」の記述だ。「平成23年に石川県では」と切り出す記述は「55分0秒ごとに1人生まれ」「43分56秒ごとに1人死に」と続いていく。こういう形で人口動態を記した県民手帳は他に見たことがない。そしてこの記述は「5時間7分11秒ごとに1件の離婚届出があった」という輪唱めいた幕切れを迎えるのである(「毎日」編もある)。厳粛な気持ちになるではないか。
この他「石川ユニークデータ(全国1位)」では1世帯当たり家計の年間消費金額で「かに」が全国の1,985円に対して6,102円であることが記されている。それは自慢しているのか? なあ、自慢しているのか? 
(県議会議員のアドレス)なし! しかも、名簿の記載すらないのは初めて。
(県民歌)あり。

エントリーNO.32「富山県民手帳」
自慢か、自慢なのか? という妄想は続く。「全国から見た富山県のすがた」を見ると富山県は「持ち家比率(住宅に住む一般世帯における持ち家世帯の割合)」が78.3%、「室数」が6.46室、「延べ面積」が148.7平方メートルで全国1位なのである。住宅事情いいなあ。
その他の特徴でいえば人口1人当たりの「医薬品生産金額」(43.3万円)と人口1万人当たり「医薬品製造従業者数」が70.9人とそれぞれ全国1位である。さすがは「富山の薬売り」の県だ。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。県民歌のページには久石譲作曲の「ふるさとの空」が追加されていた。これは2012年7月7日に制定されたものだ。

エントリーNO.33「新潟県民手帳」
「味わい深い、にいがたの食」というページが印象的だ。「糸魚川ブラック焼きそば」や「ぽっぽ焼き」などのご当地グルメが写真つきで紹介されているのである。いわゆるB級グルメが掲載されている県民手帳というのは初めて見た。
「新潟県あれこれ全国ベスト3」のページには、予想通り「米の産出額」1,422億円で全国1位、という記載がある。しかし「清酒消費数量(成人1人当たり)」14.3lの方はいかがなものか。作るほうはいいけど飲むほうまで1位ではなくてもいいじゃないか。
(県議会議員のアドレス)あり。ただし、事務所多し。
(県民歌)あり。「♪県民二百五十万」と歌おう。

エントリーNO.34,35「神奈川、東京」
県民手帳が存在しない。神奈川は2011年版をもって廃止になったらしい。

エントリーNO.36「千葉県民手帳」
高知県民手帳と双璧をなすほどのそっけなさで、手帳機能に徹している(いや、それでいいのだけれど)。「この一冊でちばがわかる」と帯に書いてあるけど、県民のみなさん、他の県民手帳はもっといろいろ書いてあるんですよー。
(県議会議員のアドレス)なし。名前すらない。この調査を始めたとき、都市部ではアドレス提示はないのではないか、と思っていたが、やや裏付けられた感じがする。
(県民歌)あり。ただし楽譜はなし。ついでに千葉県民音頭(古賀政男作曲!)も記載あり。音頭の存在をこの手帳で初めて知りました。

エントリーNO.37「埼玉県民手帳」
手帳の表紙は地味なのだが、千葉県とは対照的に資料面が充実している。なにしろ浦和レッドダイヤモンズなどプロスポーツチームの紹介まであるのだ。また、埼玉の偉人を紹介するページもあり、これを読むと自県が好きになることは請け合いの素敵な手帳である。
資料編の充実も著しい。これによると埼玉県は「快晴日数(但し熊谷市)」が49日で全国1位、生産面では「こまつな」が18,300t、「洋生菓子」が82,397百万円でそれぞれやはりI 位であるという。
(県議会議員のアドレス)なし。やはり名前すらない。
(県民歌)あり。

エントリーNO.38「群馬県民手帳」
この手帳も地味だが、資料編は読みどころが多い。特に素晴らしいのが「群馬県の主要指標」のページで、怒涛のごとく全国順位が記されている。ちなみに農作物で1位を獲っているのは「夏秋キャベツ収穫量」(226,800t)と「こんにゃくいも収穫量」(55,400t)である。あー、やっぱりコンニャクの県なんだ。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。

エントリーNO.39「栃木県民手帳」
コンパクトサイズで可愛い手帳だがやはり資料編は密度が高い。硬い情報の「県内大型小売店販売実績」から軟らかい方では「公営日帰り湯一覧」まで。まさしく県民必携の手帳と呼ぶにふさわしいものだ。
「統計からみた県民の地位」のページは圧巻で、特に製造品の順位の欄が楽しい。だって「絶縁紙、絶縁テープ」1,616百万円、「工業用長さ計」7,918百万円ですよ。ともに日本一である。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。以前地元の方に教えていただいたところによると、「県民の歌」を歌えない者はほとんど県内にいないという。愛されてるね。

エントリーNO.40「茨城県民手帳」
「統計から見た茨城県の日本一」のページにはなんと46個もの「日本一」が並んでいる。それぞれ種別に紹介しよう。まず「農作物収穫量等」では「芝(産出額)」29億円がシブい。あなたの近所の公園にある芝も茨城県から来たのかも。「水産物漁獲量」では「こい(内水面養殖)」1,092億だ。「製造品出荷額(従業者4人以上の事務所)」の欄は中でも最も項目が多いが、その中で金額が大きいのが「ショベル系掘さく機」279,445百万円だ。世の中にあまたいる土木機械フェチの諸君の心を騒がすマシンの出所はここでした。そして「その他」では「住宅敷地面積(1住宅当たり)が429平方メートル。あ、最後でまた自慢されてしまった。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。

【東北地方】
エントリーNO.41「福島県民手帳」
「ふくしまからはじめよう」のスローガンから始まる手帳の「市町村勢一覧」のページを開くと、楢葉町や飯館村など6つの町村が他市内に「仮役場」を置いている現状がわかる。大震災とその後に起きた原発事故の影響はまだ深くこの地を蝕み続けているのだ。「くらしの相談窓口」のページでも最初に「原子力損害の賠償に関するご相談は」「義援金に関する問い合わせは」と、復興関係の連絡先が記載されている。そんな福島が現在売り出しにかかっているマスコットキャラクターは大河ドラマ主人公にちなんだ「八重たん」である。ここから明るい話題が広がりますように。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。

エントリーNO.42「山形県民手帳」
「信濃の国」を大事にする長野県は表紙見返しに県民歌のページを持ってきたが、山形県も負けてはいない。長野県と同じで見返し、カラーの扱いである。それもそのはず、山形の県民歌「最上川」は他とはちょっと違う。昭和天皇がこの地を訪れた際に作られた和歌をそのまま歌詞として採用しており、作詞者・昭和天皇という畏れ多いものなのである。
資料編は2色刷りで充実しており「山形県の主な全国順位」のページもある。「消防ポンプ自動車等現有数」人口10万人当たり224.5台。実に味わい深い数字である。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。

エントリーNO.43「秋田県民手帳」
「全国からみた秋田県の地位」4ページ、「秋田県の日本一」3ページ、盛りだくさんの県民手帳だ。「地位」では「理容・美容所数」人口10万人当たり537.8所の数字が光る。「日本一」に掲載されている項目はどれも味わい深く、すべて紹介したくなってしまいたくなる。嗚呼、「トンブリの収穫量」143t。そして「小学校6年国語Aの平均正答率における95%信頼区間の中央値(公立小学校:特別支援学校含む)」86.9%(平成24年度)。「北鹿ハリストス正教会聖堂(池田福音聖堂)」は「明治25年建築(現存する木造ハリストス正教会建造物としては日本最古。昭和41年県指定有形文化財)」! これを見た人は二度と忘れないだろう、ハリストスという言葉を。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。「秀麗無比なる鳥海山よ」だね。

エントリーNO.44「みやぎ手帳」
3つ目のひらがな手帳。「県民」の文字が入らないのはこの県だけだ。資料編の中には「震災・復興編」というページがあり、「全国避難者情報システム」では避難元と避難先の連携システムが細かく記載、また「東日本大震災に関する各種相談窓口」も2ページにわたって掲載されている。「県内学校一覧」に名前が挙げられている学校の中には、いまだ他校の校舎を借りて授業を行っているところもあり、傷痕は生々しい。
(県議会議員のアドレス)あり。
(県民歌)なし。宮城県には1938年制定の「宮城縣民歌」と1946年制定の「宮城県民歌『輝く郷土』」という2つの県民歌がある。特に後者は戦後の復興精神を謳った力強いものだ。

エントリーNO.45「岩手県民手帳」
表紙見返しに県民歌を記載している3つ目の県である。「小さい秋見つけた」の中田喜直作曲の県民歌は「岩手岩手/ふるさと岩手」のリフレインが楽しく、つい口ずさみたくなる。少なくとも手帳の紙面上は東日本大震災の影響は払拭されており、常態に復した印象である。「いわてお国自慢」のページには「生うるし生産量」1,171kg(全国シェア74.1%)などの数字が並ぶ。その他興味深かったのは「中華めんの年間購入量」県庁所在地調べ1世帯当たり年間13.3kgというものだ。岩手人はそんなに中華めんを消費するのだろうか。その中にはじゃじゃ麺も含まれているのだろうか、などと想像を刺激される。
(県議会議員のアドレス)あり。ただし、事務所記載が多い。

エントリーNO.46「青森県民手帳」
実は北海道民手帳が入手できなかったので(存在していることは確認した)、これが最後の県民手帳だ。気になるデータは「公衆浴場数(人口10万人当たり)」24.5ヶ所、「ティッシュペーパー購入金額」年間2,941円で全国一位という数字である。銭湯からの帰りに湯冷めして風邪を引く人が多いのかな。どうぞお大事に。ヘ、ヘクション!
(県議会議員のアドレス)あり。
(県民歌)なし。2000年制定の「青い森のメッセージ」は全国でもっとも新しい県民歌だ。

以上、県民手帳特集を3回に分けてお送りした。
今回確認したように、県民手帳からはお国のさまざまな事情を読み取ることができる。県議会議員のアドレスが公開されていることを最初は奇異に思ったが、政治家が地域に密着するためには必要で、むしろ常識なのだということも知った。たいへんだなあ。
全39冊の県民手帳はそれぞれに長所があって甲乙つけがたいが、手帳としての使いやすさでは沖縄県、岡山県、鳥取県、広島県、資料編の充実度では福岡県、山形県、山梨県、和歌山県、デザインでは熊本県(くまモン!)、長野県を推しておきたい。とりあえずこれらが県民手帳の10傑ということで。まだ今年の手帳を購入されていないみなさん、お薦めします。
ちなみに、今回ご紹介した手帳を購入するのにかかった費用、39冊で20,567円でした。一冊あたり500円強である。そう考えると安上がりな楽しみだったなー。
(杉江松恋)