「勝ち続ける必要はなくて3勝2敗、勝率6割を目指すべき」と語る加地倫三氏

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“たくらむ”という言葉には、どこかワクワクする響きがある。『ロンドンハーツ』『アメトーーク!』という2大人気番組のプロデューサーを務める加地倫三氏は、仕事術をまとめた『たくらむ技術』のタイトルにこの言葉を使った。テレビのウラ側で、出演者やスタッフと一緒に“たくらむ”日々。そこには面白さをひたすら追求する真摯な姿があった。

―この本を作るにあたり、どんなことをたくらみました?

「う〜ん、それがよくわからないんですよね(笑)。自分の仕事に対する考えや経験してきたことをありのままに書いただけなので、読者の皆さんが面白いと思ってくれるか正直不安で……。反響が気になるので、一日に2回はツイッターで『たくらむ技術』ってワード検索してますもん(笑)」

―いやいや、仕事術だけではなく、ヒット企画の生み出し方や苦悩も書かれていて非常に興味深かったです。『アメトーーク!』のようなトーク番組は、毎回構成を考えるのが大変そうですよね。

「飽きられない努力は常にしています。でも、勝ち続ける必要はなくて、本にも書きましたが、3勝2敗を目指すべきだと思っているんです。3勝2敗ってことは勝率6割。プロ野球なら十分に優勝を狙えるラインですから」

―確かに『アメトーーク!』には王道企画もあれば、「あぶら揚げ芸人」「ネギ芸人」のような亜種もあります。

「“ネギ”は負けてもいいと思ってチャレンジした企画で、結果的に勝つことができてよかった。でも、そういうことってよくあるんですよ。放送後に大きな反響をいただいた『広島カープ芸人』もそのうちのひとつですね」

―勝ち負けの基準は視聴率?

「いえ、数字ではなくて中身です。そういう意味では番組を毎週見ててくださる熱狂的な視聴者の方々が面白いと思ってくれるかどうかが一番大事かもしれませんね」

―その点、品川庄司の品川祐さんを取り上げた「どうした!? 品川」(昨年9月放送)は最高でした。

「あの企画は、もともと東野幸治さんがご自身のブログに“『アメトーーク!』の企画を思いついた”って書いたリストの中にあったんです。実は僕も、ずっと“どうした!?品川”って感じていたから、そうそうそう!って思って。ずっと、あの韓流スターみたいな髪型を変えろって言っていましたから(笑)。もう収録前からゾクゾクするような企画でした。

―芸人さんありきの企画もあるんですか?

「 『どうした…』の直後に放送した『喧嘩したり仲直りしたり芸人』がそうですね。品川庄司をすぐにもう一度番組に出すべきだと思ったんです。散々イジってふたりとも坊主にまでして、やりっ放しでは、あまりに都合が良すぎますからね」

―番組を見ていて思いますが、非常に愛がありますよね。

「やっぱり仲間ですから。それに芸人さんがいなければ僕たちは何もできませんし」

―最近、「テレビがつまらない」といわれることもあります。

「そりゃ悔しいですよね。僕は昔からテレビっ子で、この業界に入ったんです。だからこそ、面白い番組を作り続けて、テレビという文化を守っていきたい」

―若手にも頑張ってほしいという思いは?

「もちろん、ありますよ。最近は作り手の顔が見える番組が少なくなってきているので、個性や信念をドンドン出していってほしい。ただ、僕が現場に出続ける限り、若手に負けるつもりはありませんけどね(笑)」

(構成/高篠友一 撮影/高橋定敬)

●加地倫三(かじ・りんぞう)

1969年生まれ。上智大学卒業。1992年にテレビ朝日入社。若手時代はスポーツ担当。現在は『ロンドンハーツ』(火曜21時〜)『アメトーーク!』(木曜23時15分〜)などを担当

■『たくらむ技術』

加地倫三

新潮新書 735円


『ロンドンハーツ』『アメトーーク!』の名プロデューサーは、どのようにしてヒット企画を考えているのか。番組のウラ話を交えながら、その仕事術を明かす。アイデアの練り方や会議への臨み方など、テレビ業界以外でも役立つテクニックが満載!