もともと整理がついていないところに、選考時期になると、冊こぼれなどを起こしてさらに混沌とするマンガ棚の一部。ああ、あのマンガにも投票したかった……。

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マンガ大賞2013の一次選考が終わり、ノミネート作11作品が発表されました。昨年度から選考員の末席に加えていただき、僕自身が選考に加わるのは今回で2回めです。本当に選考時期はもう悩ましいやら楽しいやら。年末から散々悩んで、決めては入れ替えを繰り返していたら、入れたいのに入れられない作品がどんどん増えてしまって、収拾がつかなくなってしまいました。

「マンガ大賞」の選考過程は2段階になっています。「最新刊が8巻以内」で「前年に単行本が発売されている」作品すべてが対象で、一次選考では書店員をはじめとする選考員が5作品をセレクトして投票。全投票から得票数の多い上位10作品がすべて同列の「大賞ノミネート作品」として二次(最終)選考へと進みます。選考員もどの作品が何票獲得したかはわかりません。9位や10位が同票多数の場合には、10タイトル以上が選ばれることもあります。ちなみに去年は15作品、今年は11作品が二次選考へと進みました。そして選考員はその全作品を読んだ上で、1、2、3位を決めて投票し、その順位に応じたポイントをもっとも多く獲得した作品が大賞となるわけです。

そんなわけで、本日は「マンガ大賞2013、とても面白く読んだ作品(ただし大賞ノミネート作を除く)」について書こうと思います。二次選考に進んだ作品については、票を投じたかどうかはさておき、ここでは触れないことにします。

まず一作目は「87CLOCKERS」(二ノ宮知子/集英社 ヤングジャンプコミックス) 」。『のだめカンタービレ」の作者による、オーバークロックマンガ。オーバークロックについては、こちらをご参照ください。要はPCのポテンシャルを出荷時よりもさらに引き出す「オーバークロック」が題材です。必要以上に悩みがちな主人公と、ちょっとトボけたカワイイヒロインという組み合わせだけでなく、小物過ぎて嫌味になりきれないサブキャラなど「のだめ〜」を彷彿とさせるキャラがてんこ盛り。一度は「入れよう!」と決めたものの、マニアックなテーマでの物語展開をもう少しほのぼのと眺めていたいもので、次回以降の楽しみに取っておかせていただきました。『ジャンプ改』(集英社)連載中。現2巻続刊。

同じく『ジャンプ改』からもう1作品。「私は利休」(作・早川光 画・連打一人/集英社 ヤングジャンプコミックス)。千利休の生まれ変わりを匂わせる主人公の佇まいはどこか、『ヒカルの碁』の進藤ヒカルに近い香りがします。展開が多少粗いような気がしないでもありませんが、グググイッと引き込まれる展開もそこかしこに。「大化けしたらすごい作品になるはず!」との期待を込めて、一票を投じよう……と思いましたが、3巻の展開が気になって仕方がないので、こちらも次回以降に取っておかせて頂きました。

ちなみに、僕はどうしても迷ったら巻数が多い作品に入れています。本来は作品に対する評価のみで決めるべきですが、どうしても選びきれないことも……。特に一次選考で5つめに入れる作品と、6つめで落とす作品が並んだら「来年、投票できそうか」が基準になることがあるわけです。優柔不断で申し訳ありません。

その意味では、次の2作品は本当にもうどうしようか悩みまくりました。『コミックモーニング』で連載中の「きのう何食べた?」(よしながふみ/講談社 モーニングKC)は、すでにがっちり世のマンガ好きの認知を得ているマンガですが「8巻以内で、友達にすすめたくなるおもしろいマンガ」「過去に大賞を受賞していない」という条件に忠実に選ぶと、5本の指から外せない。「物語」+「レシピ」+「物語の集約」という各回の構成はほぼ変わらないのに、大きな流れとしての共感を呼び起こしながら進んでいく。さすがの名人芸で展開しながらダレることなく、もう7巻。8巻が出るタイミング次第では、来年ノミネートの資格があるとは限らない……。でも、どうしても他に票を入れたい作品があったので見送らせて頂きました。

そしてもう1作品。とてもとても入れたかったのに断念したのが、同じくモーニングで連載されていた、「う」(ラズウェル細木/講談社 モーニングKC)。昨年も票を入れさせていただき、今年も本当に最後の最後まで迷った作品です。「酒のほそ道」という名作に続いて、「うなぎ」という食材一本で勝負をする潔さは、過去のどんなマンガにも類を見ません。調理法のバリエーションが少ない「うなぎ」をちょっとしたうんちくとエピソードの面白さだけでゴリ押しして、これでもかと「うなぎ愛」を散らかし放題。「旨そう!」「食いたい!」という本能が刺激されまくる、ある意味料理マンガとして最高に危険な作品です。昨年12月に最終巻の4巻が発売され、今年がノミネート最後のチャンスでした。

「う」はもちろん「きのう何食べた?」も来年投票できるかわからない作品です。入れたい。超入れたいのに、選考員は「面白い」の奴隷なので、「面白い」以外の基準で票を入れられない。選ぶ作業はすごく楽しいけど、一方で大好きなマンガに投票できないのが、しんどかったり、好きな作家さんに申し訳ない気持ちになったりもするわけです。去年投票した「西原理恵子の人生画力対決」(西原理恵子/小学館)のような、他に類型のないマンガにも入れたい。でも、もちろん好きなマンガ全部には入れられません。

どんなマンガ賞だって「いいマンガ」を選ぶためにあります。でも一方で賞というものは、たったひとつの「いいマンガ」を決めるものではなく、何を読んだらいいかわからない人への「目安」に過ぎません。賞は「上位になるほど、いいマンガ」と思われがちで、ノミネートされなかったマンガはミソもクソも一緒扱いされませんが、そうではなく順位は、あるクラスタにおける好みの集合体だったりするわけです。

マンガ賞に名前は上がらないのに、面白いマンガなんていくらでもあります。そういえば、作家の長嶋有さん(というか、マンガフィールドでは「マンガホニャララ」の著書などもあるブルボン小林さん)がラジオやTwitterで「一票も入らなかったベスト漫画」なんて企画もやってらっしゃいました。そこでエントリーされていた「とろける鉄工所」(野村宗弘/講談社 イブニングKC)なんかも大好きなマンガです。

ちなみに、他にも「百姓貴族」(荒川弘/新書館 ウィングス・コミックス)、「いとしのムーコ」(みずしな孝之/講談社 イブニングKC)、「ましろのおと」(羅川真里茂/講談社 月刊マガジンコミックス)、「バリスタ」(画・むろなが供未 作・花形怜/芳文社コミックス)なども、ぜひ読んでいただきたいマンガだったりしますが、これらの寸評はそのうちマンガ大賞2013公式ホームページに掲載されるかも。されないかもしれませんけど。

最後にマンガ大賞のプレスリリースから一部転載します。

「過去の大賞をはじめ、ノミネート作品や一次選考作品も、選考員が自信を持ってお薦めするマンガばかりです。「今、何が面白いのかな?」「本屋さんで、何を選んでいいのか迷っちゃう」 そんな時、この賞を思い出してください! 店頭で、サイト上で、タイトルや表紙を眺めているうちに、きっとあなたの読みたいマンガが見つかるはずです。マンガ大賞が、あなたと新しいマンガを繋ぐきっかけとなるなら。そしてあなたが、その出会いから読んだマンガを面白がってくれたなら。その瞬間、あなたも、このお祭りに参加するお一人になっています! どうぞご一緒に、マンガとこの賞を楽しんでください」

マンガ大賞だけではありません。マンガを読むという行為、それ自体が祭りです! ちなみにマンガ大賞2013の最終結果発表は3月下旬! お楽しみに! というか、僕も楽しみです!
(松浦達也)