戦うのは会社のため! 勤務時間外は戦わない! 救った後には領収書! 『ヒーローカンパニー』(島本和彦/小学館)は、ヒーローたちが一人の会社員であることを見せてくれる作品。悪との戦いの「悪」だって人生がある。正義のヒーローも腹が減る。戦おう人の命のため、自分の生活と会社の利益のため、できれば平和のため!

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ヒーロー、なりたいですか?
昔はなりたかった。憧れましたよ。
今ですか?
な、なりたくないかな……だって危ないし、めんどくさいし。

大人になると「ヒーロー」だって人間だということが次第に分かり始めてくるというもの。
それを会社にしてしまったのが、島本和彦のマンガ『ヒーローカンパニー』。
今までも正義のヒーローと悪の組織が「会社」であることを描いた作品はいくつか有りました。『YES!プリキュア5』とか『タイガー&バニー』とかね。
この作品はさらに徹底しています。
「会社員」としての「ヒーロー」を非常に細かく描いています。

社訓が面白いのでピックアップしてみます。
1・街を守れ!!
2・人の命を守れ!!
3・自分の命も守れ!!
4・弱い者から守れ!
5・会社の利益も守れ!!
6・自分の生活を守れ!!
7・正義を守れ!!
8・できれば平和も守れ!!!

できれば、かよ!
あ、「!」が多いのは元々です。
にしても7と8が最初じゃないの?
違うんです。街や人や自分の命の次に、会社の利益を守る。 正義と平和はその次。
めっちゃ大人の事情なんですが、これ意外と理にかなってるんですよ。
というのも、「正義の為に!」と目の前の個人的価値観を優先すると、その後にくるかもしれない大きな問題が見えなくなってしまう。自己犠牲もいいけど、犠牲になったら他の人が迷惑かかってトータル的にうまくいかない。正義のつもりが敵の罠にひっかかってしまうかもしれない。
だからまずは、人間を守ることと会社の利益が優先。正義とか平和とかの漠然としたものは「できれば」なんです。

出勤するのは基本夜。昼間はほら、悪の組織も目立つから。
出動依頼はモニターで掲示してまとめられています。マネージャーによって緊急度高いものから埋めていき、同時に費用対効果バランスも調整します。
また事件の内容によって動物やサイボーグ、忍者なども使い分けられます。なるほどどおりで、ヒーローが自分の世界感にあった都合のいい場面に出てくるわけだ。

最も忙しく大変なのは、武器装備貸出センター。エネルギー充填や、弾薬、耐火スーツなども使うときにお金が当然かかります。これを会社側が支給し管理している、というのはなかなか理にかなっている。
ちなみに武器関係は最重要機密なので、扱えるのは社員のみ。なのでいつも人員不足。
この縁の下の力持ちの人たちを、野球でたとえるならピッチャー一人だけではなく、グローブを作る人とか走りやすいスパイクを作る人など、すべてが重要だ、と例えます。わかりやすい!
なので、ヒーローカンパニーの社員は出動部隊だけではないのです。むしろ実戦部隊が一番少ない。

ヒーローに助けてもらうには、ヒーローカンパニーと契約して、お金を払って雇います。
颯爽と登場! 悪党を倒して格好をつけ、その後領収書と伝票を切るヒーロー!
現実的すぎる。けどちょっと雇いたい。
そしてPCで記録をつけて、タイムカードを押して帰ります。
勤務時間外での事件や事故を見ても、スルー!
明日のための力を取っておかないといけないからね!
これこれ。ここが変に生々しいところ。若いと「おかしい!」って言いたくなるけれども、もっと大きな目で見ると、そこは休むべきなんだなこれが。

そんな会社に入社したのは「正義が大好き!」な熱血青年アマノギンガ23歳。
しかし、熱血すぎてどうも会社のルールにそぐえず悩むことも多々。
これがものっすごい新社会人っぽいんですよ。いや、新社会人なんですけれどもね、一応ヒーローなわけじゃない。
でもなーんもかわりません。サラリーマン一年生の悩みと寸分たがわず。

やはり自分なりの「正義」ってあるんです。
でもそれに会社の規則がそぐわないことはどうしてもある。
上司はこう言います。
「正義より命令だ! 君たちはまず命懸けで命令を守り、100%遂行することを当たり前のように訓練されねばならん!! 自分で納得出来ない命令でもだ!! わかってるな!! 命令違反を覚えるのはその後だ!!」
えっ、命令違反もアリなの?
でもそうよね、わかる、わかるよ。会社で働いていたら基本規則にしたがって働くのが重要。納得出来ないことも多々ある。
その後年を経てくると、うまくやり抜ける方法や、よりよい方法でこなすことも覚えてくるものね。でもまあ「命令違反」は暗黙の了解よね。

新人ヒーローはギンガのほかあわせて5人。
新人とはいえ全く容赦なく、いきなり5人戦隊の抜けた部署に配属されます。
この5人戦隊というのが、会社的にクセモノ。
まず5人いるということは、費用対効果が単純に悪くなる。必然的に高い報酬で難しい事件を担当することに。
さらにギャラをうまくわけるために、給料の安い新人が回されやすくなります。
また大規模事件となると、集団の敵と戦う事が増えます。
つまりどういうことかというと、「悪人」チーム全員を捕まえて牢屋に入れる仕事ではなく、期間とルールをお互いに決めて、どっちが勝つかを争う戦いをしていることになるのです。
ぶっちゃけ、敵もチームで銀行強盗などしていますが、あくまでもヒーローチームと競っているので、一般人に手出しはしません。銀行側はヒーローのクライアントだからです。

……んんんー? なんか変だけど、でもそういうものなのか?
確かに悪の組織もお仕事なわけだし、あのたくさんいる悪の軍団一人一人、家庭があって、人生があって。
「ザコ」じゃないのですよ。全員必死な人間。こちらも必死な人間。
すごいエクストリームスポーツなんです。
なるほどね、ならば「正義」だけじゃどうにもならないし、「ルール」や「仕組み」を知らないと生き抜けないね。スポーツだもの。

主人公ギンガが、正義熱血漢だったのにブレまくりなのが、島本和彦らしくて非常にユニーク。
熱血会話も多いですが、どこか間が抜けているのも現実的です。
その一方、彼らの先輩にあたるカカオ・バレンタインの、人生を賭けた戦い方には血がたぎるものもあります。
シビアな話も多いのですが、基本人死がなく軽快なので、気楽に読めます。

何よりまず、会社勤めに辛さを感じている若い会社員に読んで貰いたい作品。
確かにこれはヒーローの話だけど、一生懸命がんばって仕事している、理不尽の中働いているみんながヒーローなんだなーと、ちょっとへっぽこなテンションで励ましてくれるマンガです。
100%熱血じゃなくて、ちょっと「あれっ?」てなるくらいだから、いいんですよ。人生そんなもんじゃん。

個人的に、5人戦隊のピンクの「明るさが命! 失敗してもテヘペロよ!」のセリフが好きです。
それでいいのか……いいんです!
テヘペロ!


島本和彦 
『ヒーローカンパニー 1』
『ヒーローカンパニー 2』

(たまごまご)