『雑草は踏まれても諦めない』(稲垣栄洋/中公新書ラクレ)サブタイトル「逆境を生き抜くための成功戦略」

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踏まれても、抜かれても、刈られても、立ち上がり、また伸びていく。
雑草、なんで、あいつらは、あんなに生命力があるのか。
逆境にも負けず、生き抜く雑草たちの戦略を具体的に解説した本が『雑草は踏まれても諦めない』だ。
著者は稲垣栄洋。身近な植物の謎を追った『蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか』が面白くて、それ以来ファンなのだ。
だから『雑草は踏まれても諦めない』も迷わず手に取った。

“原爆が投下され、数十年は草一本生えないだろうと言われた広島の町で、真っ先に緑を取り戻したのはスギナだったという。その生命力がどれだけ人々を驚かせ、勇気づけたことだろう。”
スギナの再生の戦略は地下茎だ。
1メートル以上も地下深くまで地下茎を伸ばす。地上が攪乱されても、地下深くから再び立ち上がるのだ。
さらにアスファルトをも砕く芽の「集中力」。“葉の先端付近の細胞の圧力を集中的に高める”ことができ、その圧力は10気圧にも及ぶ。
“プロボクサーのパンチの破壊力に相当する力”で、しかも、瞬間的な力ではなく、持続して、押し続ける。そうやってアスファルトを突き破るのだ。

シバや、ナガハグサなどのイネ科雑草が、刈り取りや踏みつけに強い理由も興味深い。
“通常、植物の成長点は茎の先端にあって新しい細胞を作りながら上へ上へ伸びていく。”
だが、イネ科の植物は、その成長点をできるだけ低くする戦略にでた。
“一番低い株元に成長点を持ち、そこから葉を上へ上へ押し上げる戦略を発達させた”のだ。
こうすれば、先端を食べられようが、踏みつけられようが、刈られようが、だいじょうぶ。たいせつな成長点は地面すれすれのところでセーフ、そこからまた伸びていくのだ。

イネ科の植物以外でも、成長点を低くする戦略をとるモノがある。
ナズナ、ハハコグサ、コオニタビラコは、“放射状に広げた葉を重ね、地面にぴったりとはりつ”けて、厳しい冬を越す。
ナズナ、ハハコグサ、コオニタビラコの3つに、セリ、ハコベ、カブ、ダイコンを加えて、春の七草だ。
「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草」と歌われ、人日の節句(1月7日)の朝に七草がゆを食べると、邪気を払い一年間無病息災で過ごせると言われている。

雑草という草はない。望まれないところに生えてくる植物が雑草である。
平穏で、公平な環境がある場合は、競争力があるものが生き延びる。強いものが勝ち残る。だが、予測不能な状況にあるときは、そうはいかない。力だけではなく、攪乱にいかに対応できるかがキーとなる。
“優れたものが勝ち残り、劣ったものが滅びていくのが自然界の掟である。しかし、雑草は単一な評価基準で優劣を判断する価値観は持たなかった。多様性に価値観を見出してきたのである。”

『雑草は踏まれても諦めない』は、全4章。
第1章 逆境が智恵を授ける
第2章 雑草が生き抜くために身につけた5つの力
第3章 雑草はどう生き、どう死ぬか
第4章 雑草と生きる
雑草それぞれについて書かれたコラムもあり、索引もしっかりとついている。

『雑草は踏まれても諦めない』を読むと雑草たちの生存戦略に感嘆すると同時に、攪乱した日本の今を我々はどうサバイブしていけばいいのかを改めて考えさせられる。オススメだ。(米光一成)