スガキヤの黒台湾麺。高橋ジョージ!

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今東海道を歩いている。
この原稿を書いている現在も歩行中、という意味じゃなくて東海道五十三次の総計495kmをいくつかに分割して定期的に徒歩旅行している、という意味ね。最初のうちは7、8kmも歩いたらへとへとになってしまっていたのだけど、慣れてくると20kmぐらいは大丈夫になる。1泊2日で歩くと40km弱くらいは歩けるのである。昔の人はこんなものじゃなくて1日30km以上歩けたという。現代人ってやっぱりひ弱なのです。

なぜこんなことをしているか、そもそもの話から始めるとめんどくさいのだけど、なんだかんだあってWEBマガジン幻冬舎というところで連載にもなった。立派な仕事である。でも、企画が通らなくてもいつか私は歩いていたと思う。ずっと前から東海道を歩いてみたかったんだ。十返舎一九の『東海道中膝栗毛』も愛読書だし。
ただ、実際にやってみると徒歩旅行というのは結構退屈である。歩いているのはほとんどが普通の生活道路だから、劇的な出来事なんてそんなに起こらないのだ。そうなると楽しみは限られてくる。行く先々で巡り会う食べものはその一つだ。東海道で出会った私のお気に入り、5つ挙げてみます。順不同ということで、よろしく。

1)小田原のほととぎす巻き
歩いていて突然「ほととぎす巻き」という看板を掲げた店舗に遭遇したときには、何をさすものかさっぱりわからなかった。うぐいす餅というのがあるから、ああいうものを海苔で巻いたお菓子か、と思った。いや、そう思うでしょう。そのときには実際に食べてみることができなかったのだが、後日対面を果たした。
こちらの「みのや吉兵衛」さんのホームページを見ていただきたい。左の小さな海苔巻きみたいなものがそれである。巻いてあるのは海苔ではなくてシソの葉だ。中にある甘味のある餡は、味噌に落花生と芥子をあわせたものらしい。食べると辛くてヒーヒー言う声がほととぎすに似ている、ということからその名前がついた。とんちか! 地元の人はこれをお茶受けにしたり、お酒を飲みながらつまんだりするというが、私は断然日本酒向きだと思った。歩きながら食べるのにはあまり向いてないかもしれない。だって辛くてのどが渇くし。

2)四日市のとんてき
東海道ウォークは現在44番目の宿である石薬師(三重県鈴鹿市)まで来ている。その手前、43番目の宿で食べたのがこれだ。豚肉を甘辛のニンニクしょうゆだれにつけて焼いたもので、大量のキャベツと一緒に出される。豚は結構厚みのある一枚肉なのだが、火を通すためかグローブ状に切れ目が入っていて食べやすい(短冊状に切ったものはコマ焼きというらしい)。もちろんご飯と一緒に食べるのが正攻法だけど、大量のキャベツとコンビで力を発揮してもらって、ビールでいただくのもいいと思う。私はそうしました。とんてきをはじめとする四日市のグルメ情報は、地元三重県で刊行されているSimpleという雑誌の別冊「もっと食べる!四日市本」で確認が可能だった。こういうA5版型のハンディガイド本は最近多くなっているので、たいていの地方書店で入手可能である。気になる人は現地でチェックをどうぞ。

3)富士のつけナポリタン
Bー1グランプリの影響か、あちこちの地方都市が新しいB級グルメメニューの創出に取り組んでいるようである。富士宮やきそばや八戸せんべい汁などのような郷土食が全国区の知名度を獲得すれば立派な観光資源となるのだから、それは正しい努力というべきだろう。グランプリを目指す一群の新郷土食(B級グルメの予備軍だと何級グルメになるのかしらん)の1つに富士市のつけナポリタンがある。
これはナポリタンをつけ麺風に提供するもので、トマトスープで食べるものだ。ひとときは冷凍食品化されて首都圏にも出回っていたことがあるというから、一応は成功した部類に入るのではないだろうか。ただ、失礼ながら知名度はいまひと……、いや2010年にはイメージソングまで作って普及につとめたというし(CD買いました)ナポリンというかわいいキャラクターまで作ったのだから、全国展開していくのはこれからか。がんばっていただきたいものである。
公式サイトはこちら。ナポリンもいるよ。

4)府中(静岡市)のおでん
静岡おでんは「しぞーかおでん」と発音するのでいいのかな。もはや有名すぎて気が引ける。しかし県民食としての普及度に敬意を表してここで紹介しておきたい。静岡県内に展開する天神屋という弁当惣菜店には当たり前のようにおでんのコーナーがあり、気軽に「しぞーか」流を食べることができるのである。これまた説明の余地がないほどに有名であるが、青海苔とだし粉を振りかけて食べるのが流儀だ。ただ、私は関東圏の人間なので振りかけないほうが好きだと感じました。次に行ったらそのまま食べます。ごめん。

5)由比の沖あがり
静岡県清水区由比は、さくらえび猟で有名な町である。駅前にもさくらえびのモニュメントが飾られているくらいだ。こちらで冷凍のさくらえびを買ったときに教えてもらった食べ方が、「さくらえびのすき焼き」だった。
え。あの可憐なさくらえびをすき焼きなんかにしちゃうの?
静岡新聞社が出している『ぐるぐる文庫B級ご当地グルメ本』という本で調べてみたところ、それは沖あがりという料理だと判明した。沖から戻った漁師たちをねぎらい、冷えた体を温めてもらうために船主が供したのが本来の形だという。わりしたに野菜とさくらえびを入れ、ぐつぐつと煮込んで食べる。現地で出してくれる店もあるようだが、冷凍したものを買ってきて家で鍋にするのがいいのではないか。これまた日本酒に合うのよ。

なにしろ徒歩旅行なので、いつも出発は朝早い。ゆえにまだ店が開いていなくて通り過ぎてしまった料理というのは数々ある。丸子のとろろ、袋井のたまごふわふわ、桑名の焼き蛤などなど。いつかまたその土地を再訪して、今度はきちんと出遭いたいものである。
なお、この旅行中に買ったお土産でいちばん美味いと思ったのは、由比で買った「桜海老天ぷらしょうゆラーメン」というカップ麺だった。天ぷら入りのラーメンなんて素性の悪い食べものに聞こえると思うが、意外にも上品な味わいなのである。これ、全国区にしても売れると思うなあ。製造元のエースコックさんにはちょっとお願いしておきたい。
カップ麺といえば、愛知県民なら誰でも知っていると思われるスガキヤが、メーテレと組んで不思議な商品を販売していた。下の写真を見ていただきたい。
名づけて「黒台湾麺」(もう1つ赤海老麺もある)。名古屋には台湾ラーメンという、たぶん台湾とはあまり関係がない激辛麺の郷土食がある。そのカップ化商品である。しかしなぜパッケージに高橋ジョージ。高橋ジョージは宮城県生まれではなかったか……と思ってよく見れば、ふたに「東海道(ロード)」と書いてある。
ザ・ロードで東海ロードですか!
ご当地グルメの底知れなさを感じた瞬間であった。このラーメン、もったいなくてまだ食べてないです。
(杉江松恋)