『ワンパンマン』(原作:ONE、漫画:村田雄介)
1巻の表紙は、かなり美化されたサイタマ。作中では、ONEのオリジナル版の絵に近いシンプルな顔をしている。2巻の表紙は、サイタマの強さに憧れ、弟子入りを志願するサイボーグのジェノス。こちらはこの表紙と同じく、作中もイケメン。この1巻&2巻は売り切れ店が続出。即、増刷が決定したものの、12月24日現在、Amazonでも品切れ状態だ。

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「10,000,000アクセス突破!!!」
「20,000,000部突破!!!!!」
帯に書かれたゼロの数と、シンプル過ぎるタイトルが強烈なインパクトを放つ、ジャンプコミックスの新作『ワンパンマン』。

2009年の公開スタート以来、通算1000万アクセスを突破している、新鋭マンガ家ONEの大人気WEBコミックをリメイクした本作。作画を手がけているのは、累計2000万部越えの大ヒット作『アイシールド21』で作画を担当していた村田雄介。『ワンパンパン』の存在を知り、「うっわ、なんだこれ、おもしれ〜」と衝撃を受けた村田は、TwitterでONEと連絡を取り合うようになり、リメイクについても直接相談。2012年6月から、無料WEBコミックサイト「となりのヤングジャンプ」での連載がスタートし、12月に1巻と2巻が同時発売された。

主人公は、「趣味でヒーローをやっている」サイタマ(25歳)。
3年前、生きる気力も無く、死んだような目で就職活動をしていたサイタマは、ある怪物との遭遇をきっかけに、子供の頃に抱いていたヒーローへの憧れを再燃。頭が完全にハゲるほどの過酷な修行を経て、最強の力を手にする。
あらゆる敵に、パンチ一発で勝利してしまう力を。

地球を蝕み続ける人間を抹殺するため、地球の意志によって産み出されたという怪物(ビジュアルはピ●コロ大魔王風)。
究極のステロイドにより強化され、拳ひと振りで街を破壊してしまう怪人(ビルよりも巨大化)。
マッドサイエンティストにより産み出された、ゴリラ型サイボーグ(メカアーマーも装備)。
人類の脅威となる怪人や怪物が次々と登場するものの、サイタマは、すべてワンパンチで粉砕。
攻撃シーンは一瞬で終了するため、ヒーローが主人公のマンガでありながら、バトルシーンの緊迫感や勝利のカタルシスは、まったく無い。

それは、怪人たちと戦うことに、生き甲斐を求めていたサイタマも同じ。
第1話、強くなり過ぎて無表情、無感動のまま、ワンパンチで怪物に勝利したサイタマは叫ぶ。
「またワンパンで終わっちまった くそったれぇええええ」

ヒーローとして出動した後、無傷のまま自宅へ戻り、汚れた手袋を洗う日々に、虚無感も増すばかり。初登場時は圧倒的な強さを誇っていた主人公が、新たなライバルに苦戦する……といったお約束的展開も皆無。怪物たちが己の力を誇示しながら街を破壊し、人々を襲う姿は、ワンパンチで倒されるオチへのネタ振りにしか見えなくなっていく。
サイタマが、ヒーローとしての強さを発揮する場面は、クライマックスではなく、お約束のギャグになっているのだ。

初登場時からすでに最強で、ともに戦う仲間も必要とせず、淡々と無感動に勝利を手にする。
「週刊少年ジャンプ」の3大テーマ「友情、努力、勝利」へのアンチテーゼのようなキャラクターが、主人公の『ワンパンマン』。そんな作品を、まさに「友情、努力、勝利」の構造で大ヒットした『アイシールド21』の作画担当者が惚れ込んで、リメイクしている点も興味深い。
『アイシールド21』の主人公セナは、気弱でひ弱ないじめられっ子の高校生。しかし、唯一の取り柄である「俊足」を認められ、アメリカンフットボール部に入部。仲間との過酷なトレーニングやライバルとの戦いを通じて、最速のランニングバックへと成長していく。
少年漫画の主人公としての王道を歩んだセナを、7年間も描き続けた村田だからこそ、ONEの描くサイタマに、新たな主人公像の可能性や魅力を感じ取ったのかもしれない。

「あしたのヤングジャンプ」では、2巻の続きとなる16話以降などを掲載中。12月27日には、最新21話が公開予定だ。
しかし、ONEによるオリジナル版は、すでに87話まで公開されている。リメイク版で『ワンパンマン』を知った人にとっては、リメイク版の更新を待つか、オリジナル版を読み進めていくか、悩ましいことだろう。

11月に、自ら作画も担当しているデビュー単行本『モブサイコ100』が発売されたとき、内容が高く評価される一方で、その個性的過ぎる絵も話題になったONE。村田との圧倒的な作画スキルの差は、誰が見ても明らかだ。

とはいえ、物語やキャラクターの魅力を伝えるための構成力や表現力は、決して低くない。
その証拠に、オリジナル版とリメイク版の第1話を比較しても、コマ割が変更されているのは、見せ場となっているコマを、より大きく描いている場合がほとんど。オリジナル版は、画面を縦にスクロールさせながら1ページずつ読んでいく形式のため、2ページにわたる大きな絵を使うことができないのだ。
村田による美麗作画と書き込まれた背景により、怪人たちの破壊行動の迫力や、キャラクターの微妙な表情の変化などが、より伝わりやすくなっているのも確か。
だが、リメイク版を読んで、そのキャラクター設定や物語にはまった人なら、オリジナル版でも、十分にその魅力を感じることができるだろう。

ちなみに筆者は、リメイク版で『ワンパンマン』の存在を知り読み始めたが、我慢できず、オリジナル版を最後まで読んだパターン。
リメイク版の更新だけでなく、オリジナル版88話の更新が待ち遠しい。
(丸本大輔)