ゲームコントローラーで操縦するのは、本物の軍事兵器。世界で実際に使われているロボット兵器の現実と、今後どうなっていくかのIFをまとめたムック。想像をはるかにこえるほど、SFの世界は身近に来ています。

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表紙の写真に、ゲームのコントローラーが写っています。
ってことはこれはミリタリーマニアがゲームに興じている光景なのか、というと大間違い。
実際にロボット兵器を操縦している光景です。

『世界最先端兵器 衝撃のロボット兵器の全貌!』は戦争の最前線で稼働している、あるいは稼動予定のロボットをたくさんの写真でまとめたムックです。
ここで書かれているロボットとは、人形自律AI式のアンドロイドではなくて、無人操縦のヘリや人工衛星、遠隔操縦機械などすべてを含みます。
タイトルに「衝撃の」とか書いてると、一歩引いて、おおげさにあおられてもなーなんて斜に構えてしまうのですが、実際に掲載されている機械を見ていると、ヘナヘナ力抜けてきますよ。
キャタピラにカメラと機関銃乗っけたようなロボット、っていうかラジコンですかね、そんなのがやってきて銃乱射して死んだ、とかさあ。全然笑えないよ。

本の構成は、半分は事実として使われてきたロボットの解説、もう半分は推測・予測で構成されています。
推測じゃあねえ、と思われるかもしれませんが。そもそもロボット兵器って表に出した時点でアウトなので、オープンになっているものがとにかく少ないのです。
もっと言えば、特許を取ることができません。なので写真なり動画なりで公開したら、パクり放題使ったもん勝ちの世界です。

それでもこの本には、世界中の、かなーりの量のロボット兵器が掲載されています。
たとえば表紙にも載っている右上の四足歩行ロボット。
これはあまりにも人間みたいなリアルな動きで、ネットやテレビで気持ち悪いと評判の「ビッグ・ドッグ」。兵器ではなくて輸送用ロボットです。
氷の上でも転ばない、でこぼこの山岳地帯も平気、154kgを搭載、攻撃されても倒れないという超優秀なロボットです。
また「アイロボット510パックボット」という、多目的偵察ロボットも紹介されています。キャタピラに延長式アームで偵察をするロボットで、ゲームコントローラーで操縦可能。福島第一原子力発電所の調査にも投入された優れものです。作ったのは、お掃除ロボットルンバで有名なアイロボット社。

と、こうやって見ていると「あれ? ロボット兵器って危険なこと人間にさせるよりはるかによくね?」と思ってしまいます。実際探索や地雷撤去に関しては全くそのとおり。
しかし、この本の推測パートでは、それがいかに危険かの警鐘を鳴らしています。

元自衛隊員、現請負企業勤務の森干城はこう語っています。
「第一にウォーロボット大量導入にいたって戦線の拡散と曖昧化が起きる。
 第二にウォーロボットによって大量の将兵が解雇されて人材が拡散し、しかも不満分子化する。
 第三に街のギャングレベルの犯罪者、もしくは民間人がウォーロボットを保有し、警察力を脅かす。
 第四にテロ組織、武装勢力が各国都市部に潜入する」
ロボット兵器の最大の利点は、入手しやすいことと、動かす人間側の危険が激減すること。
人命救助に使うにはこれほど心強いことはないのですが、殺戮兵器にするのも容易です。
加えて、意外と安い。
ぶっちゃけていえば、一人一台ロボット兵器を入手することも不可能じゃない。

仮に、仮にですよ。
急速な普及で戦場でロボット兵器同士の戦いが起きるようになったら、どうするでしょうか。
そこでロボット同士戦わせて勝敗を決定するのなら、ゲームで済みます。お金かけた将棋みたいなもんですね。
しかしそんなゲームで済むわけはなく、狙うべくは操縦者になってきます。
操縦者はもしかしたらリビングでくつろいでいるかもしれないし、アメリカ西海岸でサーフィンしたあとの帰りにちょいっといじってるかもしれない。そんなんで殺されたらたまったもんじゃありません。
彼らを狙うとなると、ご近所での暗殺も日常化していきます。誰が持って操作してるかわからないんですもの。
一般人が仮にロボット兵器を2・3体入手したら、街を火の海にするのは簡単、だとも語られます。まあ一般の人の力で止められるもんじゃないですよね。
真の戦場は、逆に生活圏に入っていっちゃうんです。

オーバーキル(過剰殺傷、戦争の勝敗を越えた殺戮)についても書かれています。
オーバーキルは大抵の場合、銃器を持った兵士が恐怖心から過剰に敵を殺傷することで起きる問題。
精神的な極限状態と、慣れが産んでしまう問題なんですが、これがロボット兵器になると実感がわかずにモニター越しになるからシャレにならない。
実際に兵士のインタビューも載っています。
「遠隔操作用の端末と液晶画面を据えて。砂漠のゲームショーみたいでした。それで運搬用無人車に載せた小型戦車が洞窟に12台侵入。敵を見つけました」
「ターバンが木っ端微塵になって脳漿が飛び散るのが画面に見えました。歯や骨が洞窟の中を舞い上がって……熱に浮かされたみたいで、新兵の仲間も頬をサーモンピンクにして、矯正を上げてました。まさかと言われるかもしれないけど、端末の横にはコーラとハンバーガーがありゴキゲンな状況だったんですよ。今では吐き気を覚えますが」
「上官は『これが死だ!』を何度も叫んでました。そして敵兵の中の友軍スパイの亡骸を僕らに投げつけてきました。僕ら全員縮こまって吐いて、泣きました」
果たしてどこまで本当なんだろう?
しかし一つ間違いないのはこういうことは実際に起きているし、起こりうる、という事実です。

またハッキングによって、機械は簡単に味方を攻撃できるという欠点もあります。
すごく単純なことです。攻撃してはいけないとプログラムされた友軍を、攻撃するよう上書きするだけ。家にいながらにしてい一発でできます。
現在でも実際、戦闘管理AIが向かってくる標的が多すぎて人間では対応出来ない場合指揮をとるそうです。
えっ、と思うかもしれませんが、計算機の弾道計算に任せる、と考えれば納得はできるし合理的システム。
ではありますが、コンピュータの決断に人間が従う時代というのもなんともSF的です。

もっとも凄まじいロボット兵器の一つが「神の杖」と呼ばれる人工衛星からタングステンの巨大な針を打ち出して地面に突き刺すという計画。
えっ、爆弾じゃないの? 槍? ぼうっきれなの??
ところがこれ、落下の重力エネルギーで核爆弾級の威力を叩きだすというから驚き。
一周して原始的な武器を、最新鋭の技術で使うようになりました。最も驚異的なのは、指令したら15分で地球のどこへでも発射できるという点。

AIハッキングによる危機は『攻殻機動隊』や『機動警察パトレイバー』で描かれていましたし、「神の杖」のシステムはボタン一つで発射できる『新世紀エヴァンゲリオン』のロンギヌスの槍みたいなものです。
SF小説やアニメで出てきたロボットが実際に軍事に使われている、その一端を非常にわかりやすくまとめて見ることができる本です。
「全貌」と書いてますが、全貌は無理です。まだまだ極秘裏に開発されていますから、わからないんです。
わからないですが、そこを専門家に聞く「IF」から考えると、実際にありそうだからゾワっとするものはあります。
ロボットではないですが、TwitterやFacebookが戦争のやりとりで実際に活用されている話など非常に興味深い。
現実に、顔のわからない戦友がいる時代なんです。

ロボットにしたら戦死者が減るんじゃないか、なんてのは甘い考えなのをつきつけられます。
戦争自体がなくなればいいんですけど、それはまあ……無理でしょうねえ。
海でウォーロボット開発をしているエンジニアは「イルカやシャチを兵器にしている時代があった、それがいやだから作るんだ」と語ります。

確かにミサイルは怖いし、銃を持った人間が襲ってくるのは恐ろしい。
けれどもっと冷酷で淡々と殺すロボットがやってくること、もしかしたらそれを自分が操れるかもしれないことのほうが、不気味。
わかりづらいロボット兵器の持つ多様な問題点をわかりやすくまとめた一冊です。

ひっくり返せば、全部人命救助に使える技術ばっかりなんですけどね。実際そう使っていますし。
ハサミは使いよう、ってことですか。うーん。


『世界最先端兵器 衝撃のロボット兵器の全貌!』

(たまごまご)