贖罪 酒井法子著
朝日新聞出版

「碧空の狂詩曲〜お市の方外伝〜」は12月15日〜24日まで、
渋谷区文化総合センター大和田さくらホールにて上演
当日券あり
DVDも発売予定

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やっぱりマンモスかわピー。
のりピーこと酒井法子さん、3年ぶりの芸能界復帰、その記念すべき舞台「碧空の狂詩曲〜お市の方外伝〜」を見て、そう思いました。

のりピーは、 80年代にアイドルとしてデビュー、「マンモスうれピー」をはじめとした「のりピー語」を流行らせ、90年代はドラマ「ひとつ屋根の下」で「うさぎって寂しいと死んじゃう」(脚本は野島伸司)という台詞を流行らせるなどして大活躍後、09年に、衝撃の覚せい剤所持疑惑→逃亡劇→覚せい剤取り締まり法違反によって逮捕→執行猶予3年の有罪判決。その間、介護学校に入学などをしてその成果がよくわからないまま、この11月ようやく執行猶予が開け、12月に舞台主演となったのです。
こりゃプラチナチケット状態か?!と思っていましたが、1ヶ月ほど前、某チケット販売サイトで割引チケットが発売されていたので、試しに購入。さすがに最端席でしたが、前のほうの席ではありました。
初日の報道では、チケットは6〜7割の売れ行きとされ、劇中「席が空いてる」と出演者のひとり今井雅之氏の自虐ネタもあるほどでしたが、思ったよりは満席(定員は729席)でした(2日目、昼の回)。
客層は中年男性が多かったです。
ちなみに、この劇場、渋谷区文化総合センター大和田さくらホールは、塩谷俊さんが2股スキャンダルの渦中で舞台出演した場所でもあります。

のりピーが演じるのは、織田信長の妹・お市の方。天下を手中にしたいと願う男たちの闘いの中で、数奇な運命をたどる美女として、歴史小説やドラマにしばしば登場する人物です。
「碧空の狂詩曲〜お市の方外伝〜」は史実を元にしたフィクションで、のりピー(お市)は、政略結婚で無理矢理ではなく、自分の意思で浅井長政の元に嫁ぎます。
そして、子供を儲けるも、やがて兄信長と夫長政が争い、夫は死亡。息子は惨殺。残った娘たちと信長の元に戻りますが、信長も本能寺の変で死亡。今度は柴田秀勝に嫁ぎます。しかし幸せな日々はつかの間、羽柴秀吉との闘いがはじまって……。

こんな感じですから、戦さに翻弄されまくった悲劇の女性というイメージがどうしてもつきまといますが、この舞台では一貫して、のりピー(お市)は自分で道を選択し後悔しない、凛とした人物として描かれていました。

のりピーは小柄だけど立ち姿も身のこなしもキビキビしています。発声も出だしは硬質で、語尾はふわっと粉雪のように柔らかく溶けていく美声(マイク使用)。表情もクルクル変わり、白兎のような抱きしめたい感じを漂わせていて、戦国武将たちがメロメロになる説得力抜群です。
織田信長には健気な妹、子供達には気丈で懐広い母、柴田秀勝には愛する男性に安らぎを見いだす女など、のりピーはいろいろな顔を見せます。
さらに、シモネタにも挑戦したり、大柄の女優が床をドン!と足踏みすると、それに合わせてピョン!と飛んだり、キュートな面も披露。クライマックスでは歌も歌います。

あらゆるのりピーの魅力を作品に盛り込んだ作、演出家は斎藤歩氏。この方はいったい何者なんだろう?と思ってパンフレット(2000円)を見たら、プロフィールがない! 代わりに、のりピーとの対談があったので読むと、俳優もやっていて、のりピーとは映画「呪怨2」(03)で共演していたとのこと。
そんな斎藤歩氏。アニメ「サマーウォーズ」(09)のニヒルなおじさん・侘助さんの声を担当していた方でした。
インテリ伊丹十三をイメージした陣内侘助という重要な役を演じた斎藤氏は、チェーホフ、シェイクスピアやブレヒトなど翻訳劇を多くやってきた演劇人。彼の作る時代劇は、舞台装置も音楽も、いわゆる時代劇のイメージとは少し違って目を引きました。中央に真っ黒な鉄製パイプでできたステージがあり、奥には下手(向かって左)から上手への階段、上手に真っ赤な緞帳というアンシンメトリーな配置になっている。天井からは、いくつかの縄が弧になって下がっているというなんとも不思議な空間に、巫女姿の出演者がオーボエとバイオリン演奏をしていて、さらに不思議さを高めます。

殺陣もふんだんにありますし戦国時代劇であることは確かですが、けれん味にはやや欠けた単調な部分もありました。ただ、斎藤氏は戦国風に統一しないことで、お市の人生とのりピーの人生が重なることを狙ったのかもしれません。
というのは、お市が35歳の設定で、この年齢はまだまだこれからと励まされる場面があり、41歳ののりピーに、40代まだまだこれから。自分で選んだ道、後悔しないで。という励ましにも思えてくるのです。
特に、そんなふうに思ってしまったのは、芝居の前半で「許し」という台詞が出てきたからでした。
織田信長は自分に歯向かった柴田勝家を家臣に召し抱える時に、「許す」というのです。人は悪いこともするけれどやり直せるもので、その姿を認めることが許すことだ、というような話をします。そのシーンではのりピー(お市)は傍観者ですが、まるでのりピーの懺悔のようにも感じました。
きっとその場に立ち会ったのりピーファンは「許すよ、のりピー!」とむせび泣いたに違いありません。
のりピーはパンフレットで「お市様はたぶん私とはかけ離れていて、全然違う女性と思うんです」と語っているので、事件がバイアスになったこちらの勝手な考え過ぎかもしれませんが、まるで、重い運命を背負いながらもひたむきに生きていく、のりピー版「女の一生」を観たように思いました。

カーテンコールでは、のりピーに向かって手を振るお客さんや、禁止されているにも関わらずプレゼントをもってステージに駆け寄る人もいて、やっぱりスターの風格がありました。のりピー語、のりピーグッズという、今思うとトンデモな商品で一世を風靡した人の芸の力はケタが違います。
なにしろ41歳には見えない。照明の力と白い着物のレフ効果を差し引いても、ずっと若く、ほっんと、かわいかったんです。
しっかり復帰して、ホンモノの美魔女の力を見せつけて頂きたいです。
(木俣冬)