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「いつかは私も赤ちゃんを」そう考えている女性は多いことだろう。忙しいから今すぐにではないけれど、と。ところがその“いつか”がやって来たとき、思いのほか望み通りにはいかないというケースが、働く女性を中心に増えているという。不妊とは、世界保健機構(WHO)の定義によると、避妊をせずに定期的に性生活を12カ月続けても妊娠に至らないという状態。年齢を重ねるごとに妊娠しにくくなるという事実は徐々に知られるようになってきたが、それ以外にも女性たちが知っておくべき大切なことはまだまだある。そこで不妊治療を専門とし、体外受精の着床率を高める方法として2段階胚移植およびシート法(SEET法)を考案・開発した大阪・高槻市にある後藤レディースクリニックの後藤栄院長に、妊娠・不妊についての正しい知識についてお話を伺った。

"結婚して妊娠を望めば、いつでも赤ちゃんは授かる"は誤解!?

結婚して妊娠を望めばすぐにでも赤ちゃんを授かる。誰もがついそうだと思いがちだが、実は現在、6組に1組が不妊に悩んでいるという。女性が社会進出し、結婚が高年齢化していることが理由のひとつだと言われているが、それは生殖能力が年齢と共に低下していくからである。健康な30歳の女性の場合、妊娠する確率は毎月約20〜30%あるが、40歳では5%にまで低下するという。「こういうことは学校でも全然教えてくれないんですが、妊娠には適齢期があります。外見はエイジレスな印象を受けても、残念ながら卵子は確実に年齢と共に老化していきます」と後藤院長は話す。実は、多くの調査結果から、35歳を過ぎた頃から妊孕力の低下が顕著であることがわかっている。「卵子の老化とは、卵子の染色体異常が増えるということに関係しています。卵子の数は人が生まれた時から年齢とともに毎月減る一方。新しく作られることはなく、そこが精子と違うところ。しかも卵子は、加齢とともに数がへるだけでなく、徐々に染色体に異常を起こす可能性を増し、着床しにくくなるのです。また流産率も増えてきます。40歳を過ぎたら妊娠しても残念ですが、40%以上の方は流産してしまうんです」これは初耳だという読者も少なくないだろう。正しい知識を持たないことで、いざという時になって困難に直面する女性たちに後藤院長は多く出会い、そのたびに残念に思ってきたと言う。
「仕事を持つ人にとって、30代はちょうど忙しい時期。それが一段落つく40代になって、そろそろ妊娠を考えるという人も少なくありません。ですが、それでは妊娠がしづらくなるという現実があることを知っておくべき。それを知ったうえでライフプランを立て、子供を持ちたいのであれば、妊娠しやすい年齢で妊娠をし、仕事復帰するという選択をしていく。社会全体の問題もありますが、女性の産後復帰という仕組みが整っていないがために、妊娠を先送りにする人が多いのが現状です。子供を持たないこともひとつの人生ですが、正しい知識を持ってそういう人生を選択するのと、何も知らずに後で悩むのとでは大きな違いがあります。もっと啓蒙が必要ですね」

早期検査で自分の妊娠力を知る

実は、不妊治療の薬剤を扱うメルクセローノと英国のカーディフ大学による、妊娠を希望する男女10000人を対象にした世界規模の調査では、回答者のうち約半分が「40代の女性は30代の女性と同じ確率で妊娠する」と誤解していたという。さらに同調査で、不妊症に対する知識が低い国の中に日本が入っているのだ。「当院にいらっしゃる患者さんでも、40歳を超えている方が増えています。年齢が上がるにつれて妊娠しにくくなるということを初診のときにお話をすると、驚きとショックで現実を受け止められない方もいらっしゃいます。しかし、不妊治療は体外受精ではなくタイミング治療を希望される方も少なくありません。お気持ちはよくわかりますが、40歳を過ぎてタイミング治療で妊娠をすることは極めて難しい出来事なのです。体外受精をしても加齢による妊娠率の低下の影響はまぬがれることはできませんが、今ある不妊治療の中で一番妊娠の可能性が高い方法であることには間違いありませんので、限りある妊娠可能期間を、いかに有効利用するかを考えて治療を選択して頂きたいと思っています。」
30歳前半でも、これから相手を見つけて結婚し、妊娠をとなると、妊孕力が大きく低下し始める35歳まで決して時間がたっぷりあるわけではないとも言える。ならば、今できることとして、現在の自分の状態を知っておき、母になる準備を始めておくことも大事だ。
「気になることがあれば、ぜひクリニックを訪ねてみてください。結婚していなくてもできる検査はありますし、子宮筋腫や子宮内膜症など早期発見できれば、進行を抑えることができ、将来の妊娠にも備えることができます。自分が妊娠しにくい原因をかかえていないかどうか知っておくことも必要ですね」

仕事を続けながら母になる準備をすることで、心のバランスが取れる

それでは不妊の心配がある場合は、どのように検査、治療が進むのだろうか。後藤レディースクリニックでは、検査や治療の流れについて解説したハンドブックを使って説明しているという。内診、超音波検査、子宮がんやクラミジアの検査、基礎体温チェックなどにはじまり、月経周期にあわせた数回のホルモン採血、男性側の検査などを含め、一通りの検査が終了するのに約1か月、5回程度の受診が必要となる。その後、何か不妊の原因が見つかれば、それに応じた治療がスタートする。不妊原因、年齢、治療歴によって治療内容は異なるので、医師と相談して決めていく。 「特に問題がなく、20代であれば、しばらくはタイミング治療で排卵日を見定めて、この頃に夫婦生活をしましょうという指導から始めます。そのとき必要であれば排卵誘発剤を使ったり、ホルモンの乱れに対応した治療を行ったりしていきます。タイミング治療は保険が適用されるため、お薬を使っても1か月で数千円程度になります」
タイミング治療で結果が出なかった場合や、初診のとき既に高齢の場合は、直接精液を子宮に注入し受精の確率を高める人工授精の選択を考える。「人工授精であれば1回1万5千円から2万円前後。それでも結果がでなければ、採取した卵子と男性の精子を体外で受精させ培養し、受精した卵を子宮内に戻す高度生殖補助医療(体外受精や顕微授精)を行うことになります。これは、1回30万から60万円ぐらいの治療費です。体外受精にもやり方がいろいろあるのでコストが変わってきます」


写真 後藤レディースクリニック院内:まるでエステサロンのように温かくリラクシングなムードが溢れる後藤レディースクリニック。不妊治療の専門家として確固としたキャリアを持つ後藤栄院長は、優しい笑顔が印象的で、悩みも相談しやすい。難しい最先端の医療についても、冊子を用意してわかり易く説明してもらえる。看護師や産婦人科医らが多く通うことからも、専門医としての信頼度がうかがえる。

排卵障害がある場合には排卵誘発剤が必要となる。軽症であれば内服の排卵誘発剤で排卵が可能となるが、重症の場合には、必要に応じて周期ごとに1週間から10日、長いときには3週間にわたって排卵誘発剤の注射を連日打たなければならないことがある。そのため、病院に通う頻度が増えることから、仕事との両立が難しいという印象がある。そして、度重なる遅刻や早退を職場に伝えることを苦痛に感じる人も多い。
「でも当院の患者さんには、働く女性も多いんですよ。実は、看護師さんや婦人科医も多いんです。忙しい中、皆さん上手く工夫されています。10年前とは違い、今では格段に働く女性にとって治療に取り組みやすい環境になっているんです。排卵誘発剤を自分で好きな時に注射できる自己注射という選択もあります。当院では、ほとんどの患者さんが自己注射を選択されています。」後藤院長によると、仕事を続けながら治療をすることで治療ストレスが減り、むしろ心のバランスが取りやすくなるという。

不妊治療にまつわるストレスと向き合い、自分らしい選択肢を見つける

「仕事をする女性にはストレスがつきまといます。でも、仕事を辞めたらストレスから解放されるのかというと、また違うストレスが生まれる可能性があります。今まで仕事をしてきた方が辞めて、新しい生活リズムの中で治療だけに専念するとなったら、そのストレスも大変なのではないでしょうか。」そんな不妊治療にまつわるストレスを少しでも軽くしたいと、後藤先生の元に訪れる働く女性の中には、早く体外受精したいという人もいるという。「体外受精は成功率も高いですから、忙しい方ほど時間を有効に使おうとなさいます。体外受精の方が計画通りに進めることができるので、スケジュールを立てやすく、その時期だけ集中的に治療を行うことが可能です。また、今は受精卵を凍結することもできますから、子宮へ返す移植は忙しい時期を避けて落ち着いたら、という選択をする方もいます。」医学が進歩している今、気になることがあれば先送りにせず、自分らしい選択肢を見つけることも大切だ。

年齢だけでない不妊原因、"排卵障害"をセルフチェックする

実は、後藤レディースクリニックには、20代の患者さんも少なくないという。不妊原因のひとつとして排卵障害がある。「当院を訪れ、妊娠を希望されている方の2〜3割が排卵障害です。排卵障害には、生理があるけれど無排卵月経というものもあります。自分では生理だと思っていても、実は不正出血だったということも。若い方に多い排卵障害といえば、多嚢胞性卵巣症候群ですね。排卵障害の中でも割合が多いのですが、これは卵巣内に多数の卵胞があるのだけれどうまく排卵しない障害です。排卵があるかどうかを知る一番簡単な方法は、基礎体温をつけてみること。生理があり、しっかりと低温期と高温期に分かれているのであれば、排卵があると考えて良いでしょう。」いくつであっても不妊の原因が潜んでいることはある。今の自分の身体について知っておくことは、女性としての責任なのだ。

妊娠や不妊に関する正しい知識を持ち、早期に検査を受けることで、自分の将来は確実に違ったものになる。また、年齢、症状に応じたベストな治療を選択し、時間、労力、経済的なロスをなくすためには、最新の専門知識を持った専門医を選ぶことも大切だ。理想的なライフプランを組み立て、それを実現させていくために、自分に合った“母になる準備”を、今すぐ始めてみて欲しい。

(text:June Makiguchi、photo shiori kawamoto)

≫「働きながら母になるカラダをケアしよう  Vol.2 排卵障害と最新治療法」(2013年1月9日UP)へ続く

後藤レディースクリニック
住所:大阪府高槻市天神町1-9-17 ハイムーン天神2F
JR京都線 高槻駅 徒歩3分
休診日:水曜・土曜の午後、日・祝
ご予約・お問い合わせTel:072-683-8510




妊娠に前向きな女性のためのウェブサイト 妊活.net
女性にとって妊娠・出産は大きなライフイベントのひとつ。「仕事も家庭も妊娠も、自分らしい選択をし、イキイキと前向きに生きる女性たちを応援したい」をコンセプトに、妊娠・不妊に関するさまざまな知識や情報を提供するWebサイト。